ウッドマイルズへの疑問
先に森林セラピーと新月伐採、そしてウッドマイルズを並べて書いたことから誤解された方もいるようなので、改めてウッドマイルズを論じる。
ウッドマイルズとは、単純に言えば「木材の生産地と消費地の距離」である。それに「使用木材量」を掛けたものが、ウッドマイレージだ。木材は環境に優しい素材とされているが、実は輸送にどれほどのエネルギーをかけているかを見る尺度となる。
それにウッドマイレージCO2という指標も生まれた。輸送で消費するエネルギーをCO2排出量で表したもの。輸送に汽車を使うかトラックか船かによって、エネルギー消費量が変わってくるからである。そのほか建築物ウッドマイレージ…など、ほかにもいくつか派生した指標がある。
その概念自体はしっかりしていて、疑問を挟む余地はあまりない。だから、新月伐採のようなオカルトもどきと並べては失礼かもしれない。
しかし、実際の数値の計算や運用となると、途端に無理が出る。
そもそも産地を詳しく特定するのが大変な上、その輸送経路、輸送手段を確認するのも並大抵ではない。それに途中で製材したり、人工乾燥させれば、またエネルギーを消費する。しかも製材や乾燥で木材の材積や重量が変わると、その後の輸送にも影響が出る。計算する前のデータを集めること自体、極めて難しい。
ああだ、こうだと議論していても、何が正しいウッドマイレージなのかわからなくなる。しかも、根本的に木材を対象にするから、木材の使用量が少ない建築物ならウッドマイレージも小さくなる。これでは、木材を使うな、という主張になりかねない。
一応、計算を簡単にするため、産地と消費地を直線で結んだ距離と最終材積だけを使った「建築物ウッドマイレージL」という簡略版?もあるが、指標ばかりが増えて何がなんだかわからない、イヌのお巡りさん状態になってしまった。
しかも、消費者(建主)はそんな数値を見せられても喜ぶだろうか。外材で同じ家を建てるのより、ウッドマイレージCO2は3分の1ですよ、ぐらいのことを聞けば満足する人が大半ではなかろうか。細かな輸送経路と輸送手段を聞いても心は動かされないだろう。
ウッドマイルズの研修会に参加したことがあるのだが、発表者はわりと楽しそうに研究結果を話している。それは研究者の愉悦を感じているようだ。
また参加者の多くは、地方自治体関係者なのだが、自分の地元の木がどんな数値によって表されるか気にする雰囲気もあった。しかし、もともとは国産材と外材の違いを環境面(エネルギー消費面)から際立たせるためのものではなかったのか。国産材の中で地域材の数値を競う必要はあるのだろうか。
……といったところから、理論は万全、運用は愕然、消費者は憮然となることに疑問を感じたのだ。学問をするのもよいが、実際の効果を生み出す指標にしてもらいたいと思う。
ちなみに6月30日に、「ウッドマイルズフォーラム 2007 in つくば」が開かれる。
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