集落の消滅
昨日は、終日吉野に行っていた。数えてみると、7つの用件をこなしたことになる。
収穫は非常に大きかったのだが、ここではそのうちの一つ。
写真は、川上村白屋地区文化財民俗調査報告書。用件とは別にオマケに教育委員会よりいただいたものなのだが、厚さが2・5㎝もある。内容は、白屋という集落を根こそぎ調べた、という印象だ。
なぜなら、そこにあるすべての家屋の見取り図が掲載され、住民の生活も聞き取られている。さらに発見された文書類の数々。全人口89人の集落に、これほどの古文書が眠っていたのか! と驚嘆してしまった。これらの解読が進めば、新たな山村像が生まれるかもしれない。
が、悲しむべきは、この白屋の集落は、現在、実質的に消滅したことだ。それも過疎などが原因なら、まだあきらめもつく。そうではなく、外部要因にある。
それは大滝ダムの問題だ。4年前、川上村に誕生したこのダムに試験溜水を行ったところ、ダムの上流部に位置する白屋の集落斜面に亀裂が走り、地滑りの発生が予見されたのだ。おかげで全住民は強制的に撤去された。今は、村の内外に移転することが決まっている。つまり、白屋集落は、その瞬間に消滅したのだ。
ダム湖に沈む話なら、各地にあるが、それは少なくても心の準備のある事象だ。しかし、白屋は何も考える間もなく消滅に追い込まれた。
今回の調査は、集落を根こそぎ破壊するため(移転が決まると、補償金の支払いとともに集落の家屋等は破壊される決まりである)、その前に行われたのだ。そのため、各家に眠っていた文化財や文書が明るみに出たのである。
かつて吉野林業に深い関わりを持ち、1000年を越える歴史を持つムラが、1冊の報告書と引き換えに消えていく。
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勝ち組負け組とかに始まって、
地域格差とか云われるこの頃、
暮らしをつくってきた、
人間の文明の役割や背景を、
もっと、
史観をふまえて思想や哲学に、
に高める時がきていると、
感じてます。
そうしないと、
人間は、
目の前のことだけの考えで、
とりかえしのつかないことを、
何でもやってしまうように、
恐れるのです。
投稿: risu | 2007/07/20 13:19
歴史というのはかけがえのない財産です。一度消えたら取りかえしがつかない。
結局は欠陥ダムだということが立証されたのに、国交省は地盤の補強工事を行って、ダムを完成させるつもりです。(ちなみに、今は完成していないから、固定資産税に相当する地元に落とすはずの交付金を払わないでいます。それが村の財政を悪化させるという矛盾。)
投稿: 田中淳夫 | 2007/07/20 18:21