深夜、目覚める
日々の深夜、キッチン・ドリンカーになる。できるだけ暗くして、バーをイメージして。
突然、水槽の金魚が跳ねた。動物は、周囲に何の変化もないのに、急に思わぬ行動を取ることがある。ふと十数年前を思い出した。
それはまだ勤めていたときだが、たしか伊勢の方に取材に行き、宿に泊まった。その夜は、嵐だった。風の音が部屋の中まで響いた。暗くした部屋で寝ころびながら、天井を眺め、風で宿全体が揺れる感覚を味わう。
突然、会社を辞めることを決意した。
考えてみれば、まだバブル景気の最中であり、待遇は悪くない。仕事の内容に不満はあっても、少なくても記者であり、書く仕事という希望を保っている。出社も退社の時間も自由。経費は使い放題だし。それなのに……
辞めて、山に通い、林業を学ぶ。その体験を書きたいと考えた。おそらく夢うつつのその夜の思いつきが、今の私を作ったのだろう。
実際には、それから会社を辞めたのは半年以上先だし、山に通いだしたのはさらに先。とりあえず目先の食える仕事を探すことに必死にならざるを得ない。ちょうどバブルが弾けて、世の中の景気は急激に悪化していた。私が辞めたからバブルが弾けた、と周囲には自慢? していたが、当てできる仕事はなく、何がやりたいのかも明確につかめなかったあの頃。
人生の選択なんて、実はいい加減だ。正解だったか、失敗だったか、誰も判断できない。あの嵐の夜の風の音がなかったら、とふと、考える。
もちろん、今もキッチン・ドリンキングでほろ酔いだよ。
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私も先月、隠岐でさざえ採りにもぐっていたとき、
海中を泳ぎながら、さらに深みをめざしたとき、
突然「やめよう」って思いましたけど。
でもやめてない。
まだ、なんもしてない気がするから?
あ、ちなみに飲んでないですよ?
投稿: とんばらじん。 | 2007/09/21 13:54
辞めようと思って行動に移すまで、半年くらいかかってもいいですよ……と、辞めることを勧めていいのか(^^;)。とりあえず、もっとサザエ食べてからにしましょう。
勤め辞めるのも、ふらりと長旅に出るのも、結婚するのも、離婚するのも、突然失踪するのも、人生の一大転機なんて、実は何も考えないからやっちゃうものです(笑)。考えると、できない。
投稿: 田中淳夫 | 2007/09/22 00:35