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森と林業と動物の本

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2007/11/13

白神山地の無断伐採事件

ちょっと気になっているニュース。

世界自然遺産に登録された白神山地で、ブナに巻き付いているつる植物約220本が無断で伐採されていたことが今月初めにわかり、警察に被害届を出した、というものだ。
その場所は、国定公園内の第三種特別地域だから、県と町は自然公園法違反容疑での告訴も検討しているとか。

ただ、よくニュースを読むと、伐採されていたのは白神岳の人気のある登山道沿いで、ブナに巻きつくツルアジサイやツタウルシ、イワガラミなどのつる性植物が、高さ1―2メートルのところで切断されていたというもの。切られたつるの太さは1㎝から10㎝で、発見されたのは9月末らしい。

ここまで紹介すればわかるだろう。おそらく“犯人”は、ブナの幹を締め付けているつる植物を除いてやろうと、「善意」で切ったことが推察される。たしかに放っておくと、ブナが枯れる恐れもある。ただ、ツルアジサイなどは美しい花を咲かせるので、それを破壊した面もある。

私は、このニュースを二重の面で面白く感じた。
まず、四角四面に法律を適用して、世界遺産・国定公園内の植物を無断で傷つけた、と騒ぐ人々。
一方で、ブナこそ大事とつる植物の排除を善意で行った人。

どちらが正しい? いや、どちらも馬鹿げていると思うな。
これがスギやヒノキの人工林なら、つる植物を除いてやることは重要な育林だ。他人がやっても感謝されるだろう。「他人の森であっても、つるを払ってやる」ことを美徳とする杣人の話を聞いたこともある(土倉庄三郎も言っている)。その善意をブナにも適用したのは、案外林業家かもしれない。

が、すべての植物を保護し管理下におこうという法律の元では、ケシカランことになってしまう。法律違反なのは間違いない。しかし、あまりにせこい了見だ。枯れたつるが、下を歩く登山者を直撃する危険性もあるなんて理由を付けているが、ブナが枯れたら、その枝も落ちるかもしれないよ。

私は、ブナのためを思ってツルアジサイを伐った“犯人”の気持ちはそれなりにわかるが、問題視されることに同情する気持ちにもならない。が、こうしたことで摘発を考える輩に対してはもっと胸くそ悪い。騒ぎ立てるほどのことじゃないだろう。まさか、本当に犯人探しをしないだろうな。いよいよ、自然に触らぬ神にたたりなし、になっちゃうよ。

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コメント

最近林業をやっている父親と自家山林に行った時のこと。当家の山に行く途中に他家の山林を通っていくことになります。父親は(何十年ぶり)久しぶりに行くので、径路を補修しながら行くのであるが、同時に他人の山の天然雑木林のつる切りをしていた。たぶん、山桜とケヤキが中心だったと思う。途中の植林された人工林にはつるはなかった。理由は、痩せ地であることと、日光が届かないことだと思う。とにかく、天然雑木林のつるを切っていた。きる理由は、巻きつるにより枯れて径路をふさぐことを防止すること、雑木林の中の有用樹の成長維持(他人の山であっても気になるそうだ)だそうだ。特に、桜は景観も気にしていた。白神山地もそんなところでしょうか。

とにかく、「220本」がすごいと思う。

切った人も数えた人もすごい労力。

なんか、コントみたいです。

 9月に白神山地、奥入瀬渓流辺りを廻りましたが、やはりガイドさんが「枯れかかっても、倒れても手を触れてはいけないことになっています。」と言っていました。
頷ける部分もありますが、トニーさんのおっしゃるように、自然を守るための手助けは必要ではないかなと思いました。
要は、自然をどうしたいのかが確定していないんじゃないでしょうか。
このまま放っておくとどうなるか。流れに任せるのか。
今の状態を保ちたいのか。などをはっきりしておかないから、こんな問題が起きるんじゃないかと思いますが、専門家のご意見は如何ですか?

いかにも現代的かつ象徴的な事例ですね。福島県内の森林でも数年前に同種のニュースがありました。法律的には、ケースバイケースという緩やかな判断が難しくなっているのでしょうか。
とりあえず、みんなの森的な部分では、例え善意だとしても個人的判断で手をいれることは時代として認め難いでしょうね。協議会的な話し合いの場による合意形成をへて、価値基準のあいまいな揺らぎを舵とりする仕組みつくりがこれから重要になると思います。

そう、220本という数が、単なる思いつきではなくブナを守るためにしなくちゃならん、という意志を感じます。それを「自然破壊だ」と糾弾されて、かなり居心地悪い思いをしているのではないでしょうか。

とはいえ、協議会で合意形成をして…という手続きは、そうした人にとっては遠い世界の話でしょう。時代とともに価値観のズレが大きくなっていると思います。ただ、あまり騒ぐほどのことではない、担当者がちぇっ、と舌打ちして見逃せば済むだろう、と考える私は甘いか?

事前報告、せめて事後報告をしていれば、管理者の対応も違っていたかも。
「たとえ善意でも、黙ってやれば人に迷惑をかける事もある。」
という教訓でしょうか。

ところで「無断で切った人」には是非、私の地元の山に来て欲しいです。
知らない内に除伐も枝打ちもすっかり出来ていたら、こんなに嬉しい事はありません。

昔なら、伝説か民話の主人公になるかもしれません。他人の山を人知れず手入れする7人の小人……じゃない、善意の人ですから(笑)。

もし開放感などを求め、自然破壊しようと思いやったなら、220本もやりませんよね…
あきらかに善意だと思います(-。-;

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