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2008/01/21

捨てるシステム

先日のシンポジウムの続き。

国産割り箸問題に関連して、M氏は、なかなか興味深いことを言っていた。

それは「捨てる」ことだ。捨てないと世の中の循環が保たれない。それなのに「捨てること」を悪いことにしてしまったことが、木材業界の失敗だった、という見立てである。割り箸なんぞは、その象徴だろう。ちゃんと使って捨てているのに、まるで捨てるからいけない、使い捨てはいけない、という象徴にされてしまった。しかし捨てないと、次の商品を買えずに社会的な循環が保てない。また割り箸の木材自体の循環も止まってしまう。

例に出されたのが、ペットボトル。石油製品であるペットボトルは、捨てても腐って分解されることもなく、燃やせばCO2排出につながるわけだから、決してよいものではない。ところが、業界上げて「捨てるシステム」を作り上げた。ゴミの分別項目にも入った。回収されたペットボトルは、中国などに送られて別の製品に化けたりする。
そのため、「使って捨ててもリサイクルされるからいいんだ」という意識を市民に植え付けた。おかげでペットボトルの生産は下がることはない。しかし、実はペットボトルによって石油資源が浪費され、最終的にはCO2排出につながることは何も変わらない。

木材にも「捨てるシステム」をつくるべきである。そうすれば、ペットボトルよりももっと環境に優しい使い捨てが実行できるのだ。すると心理的抵抗もなくなるだろう。

……なかなか意味深である。
私は話を聞きながら、江戸時代の「改革」を思い出した。享保の改革、寛政の改革、天保の改革……いずれも幕府の財政難に対応するため打ち出した改革だが、内容は節約と禁欲ばかりであった。経済の循環をストップさせる方向に働いたのだ。結果的に社会・経済を沈滞させて、さらなる財政難と社会不安に陥り失敗に終わる。

何も割り箸の回収システムをつくれというのではない。そんな小さなレベルではなくて、建築廃材も含めた大きな木材回収システムが必要だというのはよくわかる。それをチップ化して紙にするもよし、木粉から新たな製品を開発するもよし。捨てるから廃棄物が出て、廃棄物から新製品を生み出す発想を持たねばならないのではなかろうか。
「捨てる」だけではダメ、「捨てない」だけでもダメ。「捨てて利用する」システムを作り出したい。

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コメント

ふと思いついたセンテンス「石油製品を捨てるのは悪いことか」でググったところ、上位に来たのがこのエントリー。
某T大で森林科学を専攻した身としては、なるほどなるほどと納得できる展開です。
ただ、こうも思うのです。「人類なんざどうでもいいと思えば、ただ捨てるだけでもいいんじゃない?」と。人類が加工した上に捨てたゴミであっても、億年単位の時が過ぎれば、いずれ地(あるいは空や海)に帰るでしょうし。
逆に言えば、向こう数万年のスパンの間で人類が存続しようと思ったら、捨てて利用するシステムの定着は欠かせないでしょうね、やはり。

よく思うのは、鉱山からの採掘です。
鉱石に目的とする金属(金、銀、銅、鉄、アルミニウム……)の含有率は、かなり低いですね。気性金属だってある。
それを取り出す技術があって、それでコストが引き合うなら、現在ゴミとしているものから有用物を取り出すこともできるんじゃないか……。

まあ、石油や木材など有機物とは話が別ですが。

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