えち鉄とソーシャルキャピタル
昨日の書評で書いた「ソーシャルキャピタル」について考えていた。
この言葉、いろいろ学者で論考されているし、定義もあるのだろうが、私なりに考えてみる。ソーシャルキャピタルを具体的に言えば、町内会や婦人会、あるいはNPOのようなつながりだ。そこには暗黙のルールがあるが、縦の規範ではなく、横の規範だ。社則とか主従関係ではなく、横に結びついたものだ。
なぜ、えちぜん鉄道には、ソーシャルキャピタルがあると思えたのか。そして、それがあるとなぜ組織は甦るのか。
半官半民の第3セクターは、ともすれば無責任になりがちだ。しかし、うまく行くこともある。いや、完全な民間企業でも、大企業病になったり、中小企業でもまともにシステムが機能しないで崩れていく組織はある。同じことは100%公務員の行政組織でも、トンデモナイ活躍をするケースがある。
すくなくても越前鉄道は、風通しのよい会社らしい。現場の声をすぐ受けとめてくれるようだし、現場の判断で動ける範囲も多そうだ。言い換えると、権限委譲が進んでいる。
以前、ある飲食関係の会社を取材した際に、仕入れ担当の女性(30歳前後)のところに、雹にやられ割れ傷ついたキャベツが山と持ち込まれていた。その数4000個。収穫直前に1日にして全滅したという。売り物にならないから、畑にすきこむしかない。これを買い取ってくれないかという相談だった。それを担当者は、即決で買い取った。しかも言い値である。その後、いくつかのレストランや製造部門に連絡してキャベツメニューを作らせ消化させるよう手配した。さらに割れたキャベツの説明を書いて店頭で販売もする。「最後は社員に販売してでも、全部使い切ります!」
この会社の活力は、この連携の力である。連携は、命令ではなく、横の関係であり信頼関係だ。買い取りを決定する権限委譲と、買い取ってもみんなで処理してくれるという信頼がないと動けない。これは、企業という縦社会に、横断型のネットワークを築いたとも言えるだろう。いや、社内だけでなく、傷物を即決で引き取ってくれた企業には、地域も協力する。会社の枠を超えた連携を生み出す。……えち鉄と同じだ。
権限委譲は、やる気を生み出し、労働満足度を高める。そして公的意識を生み出し、結果的に社会貢献度も高まる。
同じ構造になっているのが、ある種のNPOだ。儲からないのに、熱中する。与えられた役割以上の仕事をする。仕事をすることが存在意義の確認となり、それが目的となる。だから公的事業を担うことが多くなる。社会起業となっていく。
えち鉄は、まさに社会起業になっている。本の中には「地域共生型サービス企業」という表現になっているが、この仕組みを解明して、実行するノウハウを築けたら、私は超経営&地域づくりコンサルタントになれるかもしれない。
そして「行政のNPO化」という、もう一つの考察へとつながるのだが、それはまた別の話。
« 書評「ローカル線ガールズ」 | トップページ | 奈良大学で講義 »
「地域・田舎暮らし」カテゴリの記事
- 獣害でそば屋が休業(2025.03.17)
- 道の駅と富雄丸山古墳(2024.12.05)
- 熊野古道の雲海の村(2024.12.03)
- 道の駅「なら歴史芸術文化村」(2024.11.30)
- 流行る田舎のパン屋の秘密(2024.07.11)
何が望まれているか、ということを知ってる。
現場を知ってる。
ボランティアとか自発的に動けるひとがいる。
そんなとこが、ポイントなのかなあ、とNHK見ました。
「地域のために」なにができるか。言い古されてますけれど、これかな。
ひとりの、乗り遅れたお年寄りために、電車を動かすことができることに、自分の仕事っぷりを情けなく思い、反省。
投稿: とんばらじん。 | 2008/05/11 10:58
NHKの番組見ました。かなりお馬鹿なつくりだったけど、動いている嶋田さん(アテンダント)を見ただけで満足(^^;)。
それにしても、一人の客のために電車を移動させたのには仰天。あれ、ほかの電鉄会社がやったら運転手は処罰ものでしょう。運転手には、それを判断する意欲も権限もあるわけですね。
投稿: 田中淳夫 | 2008/05/11 11:12