書評「竹の経済史」
「竹の経済史」 岩井吉彌・著 思文閣出版 4500円(税別)
なぜか、この本が送られてきた。乞う、書評……ということなのだろう。
この本、結構特殊である。なぜなら、これまで竹、それも竹材の流通や加工に関する業界について研究されたことも、執筆された論文・著作もないからだ。言われてみれば、竹細工の世界を工芸や民俗学的に取り上げたものはあるかもしれないが、竹材産業のものを見たことはない。
しかし、竹林も森林の一部として扱われており、竹材も林業の一分野なのである。
そう思って読むと、なかなか興味深い。取り上げているのは、西日本の竹産業で、大分、鹿児島、熊本、そして京都ではあるが、輸入竹の動向にも触れられている。
なんでも、昭和の前半期が竹産業の全盛期なのだが、昭和50年ごろから急速に廃れていく。その理由として想像するのは、プラスチックなどに竹製品が取って代わられたこと、輸入竹に押されたことが考えられるが、実はそう一筋縄でいかないらしい。
たとえば大分では竹製品の種類を時代とともに変えながら、うまく生き延びている。徐々に高級品・装飾品へと変え、しかも輸入物にはない特色ある商品開発が行われた。そして全国的に竹産業が衰退していく中で、大分が全国をカバーするようになっている。
一方、輸入竹が増えた経緯も、想像する「安いから」というのは、どうも違うらしい。
まず国産ものでは供給が足りなくなったから、海外、台湾からベトナム、そして今は中国に頼るようになったのだ。折しもマダケの一斉開花があって、国内でマダケが足りなくなった事情もある。
この当たり、国産材事情と似ている。国産材も、足りないから外材を導入して、粗品外材にシェアを乗っ取られるのである。
そして興味深いのは、モウソウチクではマダケの代わりにならないこと。モウソウチクは太くてよい竹材のように思うが、実は細工物にはダメなのだ。仕方なしに使っている状態らしい。
竹割り箸についても触れている。熊本が主流だったのだが、輸入物に押さえ始めると、業者は中国での竹割り箸生産に乗り出す。つまり竹割り箸づくりの技術を移転したのだ。しかし、結果的に中国の業者に出し抜かれた……?らしい。
ほかにもいろいろ興味深い点がある。
竹材を林業の一部として見ると、新しい発想が生れるかもしれない。
追伸 この本、まだAmazonが対応していないようだ。サイドバーに載せられない。
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