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2009/01/11

林業技術の伝承

昨日の「森林の仕事ガイダンス」の続きだが、水野氏の発言の要旨は「今、林業技術を次世代に伝えないと、途絶えてしまう」ということだ。

NPO法人ウッズマン・ワークショップも、そのために「林業寺子屋」を開いたり、Iターン・ミーティングをしているのだろう。

ただ、ここで疑問がある。本当に、現在の日本の林業技術は伝承に値するものなのか?

というのは、彼のいう技術は、たとえばチェンソーの使い方であったり、ロープワーク、掛かり木の処理、そして森の中の身のこなしとかである。しかし、彼はこういう発言もしている。

スウェーデンなどでは、林業現場ではチェンソーは使われていない

そうなのだ。ヨーロッパなどの先進林業では、作業はみんな重機でやる。作業員が自ら現場を歩き回ったり、伐ったりすることはほとんどない。日本が完全にそうなるとは思わないが、そのうち林地に一度も足を付けないで行う作業というのも出てくるのではないか。
間伐も、いくら列状間伐が嫌いと言っても、時代はその方向に行くのは間違いない。重機で列状に伐るのが、もっとも効率的なのだから。

今もっとも急いで覚えるべきは、使わなくなるかもしれない古い技ではないはずだ。全国に広く伝えるべき林業技術は、たとえば重機の操り方とか、崩れない作業路を作る方法とか、安全で効率のよい伐採と搬出のノウハウではないか。

実は、水野氏にその点を突くと、「そうしたやり方は好きではない」という応え方をした。
その気持ちは十分にわかるが、林業の技術を匠の技としているかぎり、それは産業技術にならず、趣味の域に陥ってしまう。
もちろん、山の技を知ることは大切なことだが、すべての新人に要求するのは無理だ。まず必要なのは、それをビジネスとして成り立たせることだ。さもないと新規参入は増えず、林業そのものが営めなくなる。

自動車産業にだって一部に匠の技はあるだろうが、普段の生産は未経験の者でも務まるように仕事を単純・システム化している。だから派遣や期間工でも任せられた……という副作用もあるが、林業もそうならないと、従事者を増やすのは夢のまた夢だ。

今後の林業技術の課題は、安全と効率と環境、そして普及しやすさだと思う。

チェンソー技術で残るのは、チェンソーアートだけ、という時代が来るかもしれないよ。

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林業・林産業」カテゴリの記事

コメント

「そのうち林地に一度も足を付けないで行う作業」はありえませんwww
冗談ですよw土足厳禁のオペもいますが。
チェンソー技術はもう特別だと思います。もう既に北海道ではチェンソー技術の伝承の危機はあります。

「スウェーデンなどでは、林業現場ではチェンソーは使われていない」

とても、そんなことはないと思いますよ。ま、趣味といわれればwしょうがないですね。
なにか、ものすごい勘違いをされていると思います。林業じたいが産業として成り立ってはいませんよ。トヨタ生産方式は参考になりますが、林業は林業技術と呼べるだけの体系化も蓄積もないと思います。

ちなみに私はスウェーデンの方に習いましたよ、12年前かな(?)一日だけw。日本の技術とはかなり違いましたが。ただ、チェンソー技術としては、まだ進化していると思います。平ヤスリで研ぐ方法とか(?)外人のやることですからwww

明けましておめでとうございます。
 今年も舌鋒するどい林業ジャーナリストの活躍を期待しています。

 今、宗教的情熱で杉檜林を広葉樹に転換する動きが盛んですが、すでに手に負えなくなった平地林の里山の管理技術がクレーンの持ち込みだけ・・・という現実の姿をみると、ちょっと首を傾げてしまうところがあります。
 西欧文明が歴史的に帆船技術を持っていた事も林業技術の成長方向を決定づける要因になっているんですね。

 人の手による通直な材の伐採技術はほぼ完成の域に達しているかと思います。
 ご指摘のとおり、伝承価値さえ疑われるような古典的技術もあるとは思いますが、その成立要件に目をむけると、人の知恵とか工夫のありかたのようなものに気づかされることがありそうです。
 登高技術としてのぶり縄は素朴さの極限のようなものでしょうし、逆転姿勢で降りることの意味も安全確保という視点で評価される部分があるかもしれないと思います。
 でも、自分でそれはやりたくないですね。 それよりも、もっと磨きをかけておきたい技術がいっぱいありますし(^^;

西欧の林業技術が帆船技術に負う……というのは面白い指摘ですね。

私も、たとえば吉野林業の技術を目の当たりにすると、ほとんど極致まで行き着いていると思います。造林・育林・伐採と、ここまで緻密に制御する技術は世界でも例を見ないでしょう。そして、そんな技術が廃れつつあるのが残念でなりません。
ぶり縄などの木を登る技についても、水野さんたちと話したのですが、みんな憧れの世界ですね。

ただ、そうした感傷とは別に、今の林業界で求められている技術とは何か、と考えた際に、ちょっと違うんではないか、と思ってしまうんですね。

スウェーデンに限らず、日本でも一部にチェンソーなどほとんど使わなくなった現場があります。否応なく、その方向に進まざるを得ないのでは……という気がします。

先日のある会議でも、行政(県)は伐採面積の増加と人材減少に対して機械力で対応する意向を示しました。
けれど、高密道路網や列状間伐を大規模に実践している林家から「それでも人の技術は必要なんだ」と切実な声が。

反面で雇用対策に林業を、という施策案も示され、「いや、過渡期なんだろうなあ」というのが素人(私)の感想。
そして林業を学んだ相方も、土地の人の間違った伝承技術にびっくりする、と。

いろいろな側面がありますね。
でも、産業として成り立っていかないと、重機導入も人材確保も補助体制がある期間だけのことになってしまう。
補助がある、ということは、ある意味拘束でもありますしね。

ビジネスと匠の技の両立は棲み分けで可能だと思うし、必要だと思う。
でも、それではビジネスということに施策が向いているのか、というと、ここがさっぱり空白な気がする。
せいぜい、木質バイオマスの推奨くらいで、温暖化とCO2の取りざたがおかしい、と感じている身からするとこれも情けないんですけど。

>「それでも人の技術は必要なんだ」

水野さんも、そう言っていました。私も、誰一人もチェンソーを使わず、樹木のことも、山の歩き方も知らない状態で林業ができるとは思いません。重機のオペレーターを束ねるためにも、そうした名人が必要です。そこに水野さんが伝承したい技があるでしょうね。

でも、悲しいかな、そうした技術伝承者はほんの一握りしか需要がない。
まさに匠たちを生き残らせるためにも、林業を本気で産業化しないといけない。

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