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森と林業と動物の本

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2009/01/29

書評「森林の崩壊」

新潮新書の新刊 

「森林の崩壊」 国土をめぐる負の連鎖 白井裕子著 

を読んだ。

まず、著者を紹介しておこう。建築学科出身で、野村総研の研究員や早稲田大学の客員准教授などを務める一級建築士だ。シンクタンクの人間が森林・林業に進出するのは流行っているのだろうか、と思いつつ、期待を持って読んだ。

内容は、1章から3章までが、日本の森林の状況。植えられた木はあふれているのだけど、使われなくなって腐っている、補助金でがんじがらめになった林業の紹介もされている。

一読して引っかかったのは、内容が間違っているわけではないけれど、ちょっと古い。だいたい使っている資料が、みんな2005年までだ。つまり統計的には2003年か2004年のもの。これが曲者なのだ。なぜなら、日本の林業は2005年から大きく変わり始めたからだ。その点をまったく無視したのは、著者が知らなかったのかあえて省いたのか。

また最初から目立つのは、現場を大切にしている、ということを繰り返し触れている点だ。書斎で書いたのではないよ、森林や林業の現場を歩いて調査してきたよ、と幾度も示しているわけたが、それにしては、どこの現場を歩いたのか具体的に書いていない。わずかに林業なら岐阜県が登場するだけ。それも詳細な地名や人名は出していない。それにオーストリアなどが語られる。

岐阜県が悪いわけではないが、伝統的な育成林業を俯瞰するなら、吉野や北山、あるいは多摩などを押さえないとマズいし、何より現在の林業を語るのに九州に触れないようでは、話にならない。また日吉町森林組合も八木木材もどこも登場しない。「岐阜は全国の縮図」とあるが、読んでみた限り、そうは思えないなあ。ヨーロッパと比較するのも鼻につく。
どうも仕事で数年前に調査した岐阜だけの事例、それに留学した経験のあるオーストリアの事情だけで本を書いたのではないか。

おかげで新刊にして、古色蒼然とした内容になってしまった(笑)。

4章は、欧州の森の思想や文化論に触れているほか、5章、6章は建築の話。ここは専門分野だからと期待したのだが、なんだかエッセイみたい。

建築といっても伝統的木構造の家ばかりが語られ、伝統構法を礼賛して、それが現在に活かせないことの恨み節。法律の問題など並べているが、どうも勘違いしているようだ。

現在は、施主が伝統木造の家を求めていないのだ。畳の部屋さえいらないと言われる時代に、伝統木造でどんな家を建てるのか提案なくして嘆いても無意味だろう。木を見せる真壁構法の家は、今や1%以下なのである。私は、伝統構法が廃れたのは、顧客のニーズを拾えなかった建築界にあると思っているけどね。
また、ほとんどの大工は、伝統工法なんか興味ないと思うよ。だって、作るの大変だし、注文ないし。大工の方が、外材使いたがることが多いだろう。

ということで、サイドバーに載せるのはやめときます(笑)。

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コメント

何か複雑なエントリーですねぇ。

私は書籍の内容を確認していませんので、正直、書評もしようがないのですが、恐らく「今は昔」の今須林業の話について触れているのじゃないでしょうか。

今須林業は確かに素晴らしいのでしょう(私は実物をじっくり見たことがないので)が、今は余り県内でも話題になりません。

嘗ての林業地ほどその傾向が強いです。

最近は、どちらかと言えば、手遅れ気味の林分ほど人が林内に入る機会が多い、という皮肉な現象が起きてます。


それから田中さんがコメントしたとおり、最近はシンクタンク系統の人材が、森林・林業分野で活躍する機会が多いです。

勢い、私たちはご一緒させていただくことも多く、いろんな尺度で我が身を振り返る良い機会になっていることも確かです。

それはさておき、明日にでも早速、内容を拝見してみたいと思います。(とりあえず、立ち読みで・・・)

今須というより、岐阜県各地の流域林業を紹介しています。
岐阜県の人は、著者を会っているかもしれませんね。以前、かなり大規模な調査をしたようだから。そして現場の嘆きを聞いてきたようです。
でも、岐阜には新生産システムのエリアが2つも被っているのだけど、それには全然触れていません。

確かに建築系の新人が書いたという印象はぬぐえないですね。なんか博士論文かエッセイか、報告かよくわからないちぐはぐな内容ではありますね。

何を言いたいのか、伝統的な建築が廃れたのは良くないのか、現実はどうなのか、田中さんが指摘されるような弱点がいくつも見つかりますが、まあ何にも林業を知らない人が読むと、いかに我が国の林業が衰退しているかを感じて?怒る事になるでしょう。

それぐらいの期待を抱かせますが、いかんせん林業の崩壊ではなくて、森林の崩壊、というタイトルにしては中身が違いすぎますね。

現地取材の仕方がいまいちどこかわからないように書いてあるのも気にかかります。
自分はオーストラリアに留学して、向こうでは有名人であることをことのほか強調する文章は、内容とは関係なくてどうかと思いました。

まあ、色々不備な内容ですが、これでも文庫になるんですから、田中さんが森林ジャーナリストとして厳しい点を付けるのもわかりますね。

要するに、本の内容に一貫性が見られないという事でしょうね。

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