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2009/05/21

ICタグによる立木管理

埼玉県飯能で、山林の立木にICタグを付けて、生育状況や品質を管理しつつ、産地証明にも生かそうという試みが始まった。東京大学生産技術研究所のグループと科学技術振興機構(JST)が共同で2年かけて実験するようだ。

具体的には、樹齢90~100年のスギ・ヒノキ500本にICタグを装着し、GPSによって立ち木1本ずつの位置を地図上に示す。そして樹種や直径、品質等級、手入れの履歴などの情報をICに打ち込んで、生育変化も定期的に更新する。
一方で建築業界から注文を受けて、仕様に合った立木を選び出し、製材から工務店納入までスムースに流す。いわゆるトヨタ自動車の“かんばん方式”を取り入れるわけである。

……というニュースが流れた。まあ、この仕掛け人は知っているし、このプログにも以前からコメントを寄せていただいている人なのだが……(^o^)。

私が思うに、このシステムの肝要は、立木を換金しやすい形の“在庫”として管理できることではないだろうか。これまで在庫といえば、原木市場だったり製材所やプレカット工場などが溜め込んでいるものだった。その情報は一元管理されていないから、注文があってもスムースに流れない。しかも保管料的なマージンが発生して製品価格を上げてしまう。
だが、立木のまま山林に生えていれば、在庫管理料はかからないだろう。それでいて、情報を完全につかんでいる。だから担保価値が生れて、融資にも使える。すると山主の資金繰りにも役立つ……というわけだ。(間違っていたら、指摘してね)

これまで山林=立木は、ほとんど資源として管理されて来なかった。どこにどんな木があるかは、山主もしくは山守の記憶に頼っていて、それも大雑把。一山いくら、という売買がされてきたのは、そんな理由もある。

だが、一本一本にちゃんとした情報を付けつつ管理できたら、真っ当な取引の舞台に載れるだろう。実は、これこそ証券化などを可能にする基礎条件だ。言い換えると、情報を持つ立木は、価値を明確化して金融機関も扱えるようになる。たとえば住宅ローンと組み合わせることもできるのではないか? 
かつての「山林の価値」とは、実は立木の価値であった。土地はあってなきがごとしである。ところが今では山林とは土地、つまり不動産として扱われてしまう。それが不幸の始まりだったような気がする。土地として見れば、里から遠く、急傾斜の山なんて、価値は低い。
だから立木が不動産ではなく、動産的な扱いを持てるようになれば、生きた山林の価値が再び生れるかもしれない。

地方銀行よ、これを前提に金融商品を作ってくれ(笑)。

もちろん現段階では、ICタグを付ける立木は、銘木と言われるような個別の木に限るようだが……。全山の立木にICタグを付けて、山の価値を弾き出せるようにするのは、まだ難しいだろうか。

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コメント

立木を在庫として管理、動産としての資産価値を正しく評価するとのご指摘、その通りです。
この取り組みは、木材流通のトレーサビリティシステム、立木管理システム、木質系バイオマス資源発生状況モニタリングシステム、そして木材流通動産担保システムと、過去6年間かけてそれぞれ単独に実証実験をしてきたシステムを統合したものです。
タグを付ける立木は銘木と言うわけではなく、山林地主が選んだ売りたい木で、売却後には取り付けているタグは別の木に付け替えます。(一緒にやっている林業地の樹齢が90~100年という訳です。特に選んでいるわけではありません。)
山全体の立木データは中央のサーバーに格納、公開しており、山で売却や伐倒を予定している立木に着けています。つまり現地で判断し処理をするための情物一致の仕組みです。(たとえば個人への立木売りをしている丹波市では、6500本の立木をデータベース化していますが、電子タグを付けているのは150本です。)

このやり方とは別に、千葉県山武市の溝腐れ病の被害木(85%が被害)の識別にも同様な手法を適用しています。こちらは健全木の方に付け、被害木伐倒の効率化を狙っています。
山武市は4220haの森林がありますが、最大高低差が30mと平坦で、被害木伐出後の跡地利用として様々な形態を検討しています。(再度植林するのは地主の希望か、市としての100年後のランドスケープ、グランドデザインに沿って決める予定です。)
被害木の利用としてどこまでリファイナリー出来るか、そしてその運転資金調達として動産担保の仕組みを適用しようとしています。
現在のところ、ノンバンク系の金融機関が2つ、コンタクトしてきています。

さっそくの登場、ありがとうございます。
タグを付ける木は、樹齢90~100年の木を選んだのではなく、林齢がこのくらいの山というわけですね。でも、かなり立派な山ですね。
山林全体の管理も可能なら、一気に資産価値の規模は膨らむでしょう。

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