中国資本の山林買収?
近頃、新聞や雑誌によく持ち出されるのが、「中国資本が日本の山林を狙っている!」という話題だ。とうとう林野庁も調査に乗り出したそうだ。
私は、3年前からこの事象について耳にしていた。ターゲットになった大台町では、この動きを警戒して何やら右翼やら政界、官界、財界を巻き込んだ動きもあった。だから、今頃になって記事にするなよ、林野庁も動くの遅すぎ! と思ってしまう。
実は、私のところにも意見を求める打診が来ている。
これまで山林の所有などに全然興味を示さなかった人たちも、今回は色めき立っているというのが印象だ。やはり中国が、日本国土を所有することが驚きを持って感じられたらしい。
中国筋の意向で、山林を探すバイヤーが各地を物色しているのは事実らしい。
実は春先に、東京財団がこの問題を調査して報告書を発表している。日本の林業の動を分析して、森が荒れていることも、山林価格が暴落していることも指摘していた。そして、中国資本が日本の山を買収しようとする理由は、木材ではわりに合わぬ、きっと水資源を狙っているのだ、と推測を立てている。
なるほど、話はかみ合う。
世界的には水不足が激しくなり、各地で水源の確保が問題になっている。各国の大手資本が水源地の買い占めに動いたという事実もある。中国も、黄河は枯れ、長江も汚染が進み、飲み水が逼迫してきた。一方で、降雨量が多く、水不足は局地的にはともかく、国民のほとんどが気にかけない日本。しかも林業は落ち目で山林価格も底のまま。買収するにはもってこいの状況だ。日本人が潜在的な山林の価値に気づかないうちに買い占めるべく、赤い資本主義国家が手を延ばし出した……というわけだ。
とくに最初に狙われた三重県大台町は、日本有数の多雨地帯で水に溢れているから真実味も増すというものだ。
なかなか、よくできた話だ。
が、少し冷静になって考えると、どうもおかしい。東京財団の報告書も読んだが、最初の部分は、よく林業を勉強したなあ、と思わせたものの、後半の水資源の話になると、飛躍が目立ち、しかも推測に推測を重ねたもの。とても議論に耐えられない。
だいたい、本気で水資源を狙うのなら、最初に地下水脈を調べないで、いきなり山林買収とは無理がありすぎる。しかもいきなり掴み金渡すように山林を買収するなんて目茶苦茶だ。
何より、安いといっても日本の物価は、世界有数。あえて水源地を買収しなくても、水そのものを買い取る手段はいくらでもある。木材についても同様だ。
加えて、いきなりマスコミに色めき立つのも深慮がない。その下にナショナリズムの香りとともに、反中意識や警戒感が透けて見える。
この論考、続く。
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産経新聞のウェブ記事によると日本の地下水を汲んで中国へ持って行くとか。SFかと思いました。水が欲しいなら海水淡水化プラントを中国に作った方が早いと思うのですが。福岡市では稼働してますし。
さすが産経新聞です。発想が飛んでますね。
投稿: adfl | 2009/05/15 22:46
なかなか、裏があるようなないような信憑性が疑わしい話ですね。田中さんの正確な情報収集を期待します。
もし,日本の山林が中国資本に買収されるようなら、林野庁はどうしようと言うのでしょうか?山林の振興をしてこなかった自らの失敗を隠すためでしょうか?
投稿: しゃべり杉爺 | 2009/05/16 06:31
おそらく誰も真相はつかめないまま推測を重ねている状態でしょうが、急に世間が色めき立ったのは、やはり中国が絡んでいるから。
ナショナリズムの台頭でしょうね。
もし本当に中国企業が日本の山林を買収しているとしても、法的には何もできないはず。日本だって海外の土地を随分買い占めている。不在地主が増えるのは困りますが。
投稿: 田中淳夫 | 2009/05/16 09:28