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2009/06/24

書評「田舎ごこち」

1冊の本が送られてきた。 

「田舎ごこち」。ソウダ、田舎デ暮ラソウ。 鄙びと著 
出版は、ワン・ライン 出雲市の出版社である。

田舎暮らしを行っている人を紹介する、島根の本。有体に言えば、島根に暮らす人を増やすための本(笑)。正確には、本というよりムックだろうか。
送り主は、島根県の人で、このブログの読者である。感謝。

内容は、島根にIターン、Uターン、嫁ターン(^^;)などして、外から移ってきた人。そして、現在農業、酪農、林業、漁業などに就いている10組取り上げている。ほか、周辺情報もある。その点は、出版社のサイトを見ていただきたい。

一読、素直に伸びやかに、それぞれの人が描かれていると思った。デザインも、少しパンフレット的だが、スマートに仕上がっている。
東京のマスコミ人は、地方マスコミを見下すケースが多いが、実は、編集者からライター、カメラマン、デザイナー、音楽家まで、個別には非常に優秀な人がいる。そもそも、そんな人材もUIターンしているのだ。それがシステム的に機能しにくいのが残念だが、私は、レベルの低い東京マスコミともたくさん出会っており、人口比でどちらが上かわからない。

一人一人読んでいると、ああ、島根の暮らしって、楽しそう……と騙されそうになる(笑)。農林漁業も悪くない、俺にもできるんじゃないかって、信じたくなる(笑)。

それは裏を返すと、パンチ力がなく、本を売るという点では弱いかもしれない。
だが都会の出版社が、今の田舎暮らしブームに便乗しようと作っているムック類との違いを感じる。そうしたドギツイ本の裏には、執筆している人の都会臭さがプンプンし、しかも本人たちは田舎に興味も理解もないことが透けて見える。田舎は商売のタネであり、自分が住むところとは思っていないからだろう。
それがこの本にはない。むしろ、それが魅力になっている。あくまで書き手も田舎(島根人)の視点なのだ。執筆者の寄って立つ位置は、人物を描く際の重要な要素だ。記事から書き手の人生まで透けてくる。

ただ本書の書き手は複数だ。その点は、気をつけて読まないと混乱する(^^;)。

私も、田舎暮らしをしている人(主にIターン)を3桁以上取材して、それを記事にしてきた。その際に心がけているのは、この人物は、何を田舎に求めてやってきたのか、何が都会を捨てさせたのか、という点を聞き出すことだ。
もちろん、本音を聞き出すのは簡単ではないし、聞き出せてもそのまま記事にするわけではない。周辺事情から推察するだけに留めることも多い。だが、田舎暮らしをする人物の心の背景を察するということは、記事の根幹に関わるのだ。
それを抜け落とした人物の田舎暮らし事例は、深みがない。

ちなみに、本書に登場する隠岐の海士町でイワガキを養殖する人が登場する。彼は、もともと隠岐に初めてのダイビングショップを経営することを目的に移住した。この人を、私は以前に取材している。またその後も幾度かお会いしている。一緒に海も潜った。(正確にいうと、奥さんに手を引っ張られて、海の底に連れて行ってもらった、というべきか。)
ところが、そのダイビングショップを手放したという話を知り、あれ、都会にもどったのかと思ってしまった。なんの、ダイビングからイワガキ養殖へと転換したのであった。

写真を見ると、かつての風貌とかなりの変化。たくましい……おっさんになっているわ(笑)。

一方で、同じ隠岐でも隣の知夫里島でイワガキ養殖をしていたIターン者も取材している。彼は、最初から漁師。イワガキが隠岐で広がるまでの話を聞いた。その際に、私は一晩でイワガキ10個食ったことは、自慢だ(^^;)。

だから、それなりに裏事情を知っている(~_~;)。

この本には、田舎暮らしの厳しい点や、農林漁業の難しさには触れられていない。移住後の苦労話も少ない。だが、必要ないんだろうな。どこぞのテレビ番組のように、田舎暮らしの失敗談を探して、その人を嘲うつもりはないだから。この本は、島根に移住を誘うように見せかけて、実は、こんな人生もあるよと、オルタナティブな生き方を見せているのだから。

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コメント

今朝の京都新聞の「時のひと」に、若者向け農業雑誌を創刊する、荻原昌真(おぎはらまさちか)さん29歳が取り上げられていました。
そのタイトルが、若い人がどれだけ農業を面白がっているか、本当の姿を伝えたい、とありましたよ!

長野県で径65ヘクタールの田畑を管理する農業長で、編集長を兼務して同世代を対象にした農業雑誌「Agrizm(アグリズム)」を7月中旬に創刊するとか。

農業への関心が、若い人を中心に広がりつつあることを実感しました。

農業雑誌「Agrizm(アグリズム)」は、もうゼロ号が発行されているようですね。どんな雑誌になるか、期待しています。地方各地が動き出していることを感じます。

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