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2009/06/11

公有化で森を守れるか

日経ビジネス・オンラインに、

しのびよる外資、林業ブームの死角
日本の森林を守るなら、今すぐ公有化せよ

という記事が出ている。執筆者は、平野秀樹氏。元林野庁で現・森林総研の理事だ。ちなみに、これまで「森の巨人百選」とか「森の聞き書き甲子園」とか「森林セラピー」などを仕掛けた人でもある。

ここに記されているのは、タイトルのような外資問題はほとんどなく、今の林業のダメさ加減である。また補助金がジャブジャブつぎ込まれるが、こんなことはいつまでも続けられないよ、ということだ。一部の「林業ブーム」にも警笛を鳴らす。そして森林所有者に対し、人工林経営を補助事業で勧めることの限界を訴える。

農業政策については、いろいろと論争があるが、こと森林政策については、異論は聞こえてこない。

これは、大いに同意。少なくても減反政策を始めとして農業政策については、かしましいほどに論争が行われている。どれが正しい政策なのかわかりにくいが、ともあれ関係者も世間も関心を示しているのである。ところが、森林政策になると、ほとんど異論はなく、間伐推進と言えば誰も反対せず補助金は出るし、森林環境税を作ろう(増税する)と言っても、反対は少なく議会を通過する。不思議だ。

ところが、その対策として提案するのが、森林公有化なのである。

林業が産業として危ぶまれ、植林放棄が相次ぐ今、どのようにして森林を維持していけばいいのか。上記で述べた問題を踏まえると、考えられるのは森林の「公有林化」しかないだろう。

 「公有林化」――それは、所有権そのものを公的セクターに寄せてしまうことだ。水源林など公益性の高い私有林を公的機関が公有林として買い上げてしまう。これによって植林放棄を減らせる。それと同時に、農業経営が大型化を志向するように、林業もパッチワーク状の所有形態を大型化する策を探るべきだろう。

なんで、こうなるの?

本気でできると思っているのか? 財源問題はさておき、森林所有者は国や自治体なら森林を買い上げてもらおうと考えると思っているのか? 長期的な森林管理を公的機関ならできると思っているのか? よほど、お上の実力を信じているのか?
地方によっては、「荒れている山を見たら、国有林と思え」と言われているのを知らないのだろうか?

林業における土地集約化と所有形態の大型化は、農業以上に進めるべきだと思うが、それをできるのは誰なのか。

儲からない私有林は林家にとっても国家としても今、ドラ息子状態だ。自立できず、親にカネの無心ばかりをする。そろそろ、放任型の下宿生活をやめさせ、管理型の安上がり寮生活を勧める時だ。

ここにも、民間はどら息子放任型で、公的機関は安上がりな管理型と思い込んでいるらしい。私は、国こそ「高くつく放任型」と思えてならないのだが(笑)。

森林経営の最大の難点は、長期スパンで考えないといけないことだ。最低でも50年、できれば100年単位で考えないと森林の育成や更新は行えない。
たしかに、これだけ未来のことを考えるのは、一見公的な役割と感じてしまう。国家百年の大計を考えるのは、政治家の役目であろう。が、これまでの実績を見ると、もっとも目先のことしか見ないのが官僚であり、政治家ではないか。ほとんど数年しか見ていない。

その理由は簡単。任期が短いからだ。政治家は選挙があり、官僚も同じポストに2、3年しか留まらない。あれよあれよ、と変わってしまう。林野庁長官なんて、ほとんと1年交代だよ。だから自分の任期の間以上のことは考えても仕方がない。どんな100年の大計を立てても、次のポストに着く人が引っくり返す(笑)。この点は同情するが、自分が立てた施策が実現しなくても責任も問われないというのはどうだ?
まあ、地方自治体では、長く同じ部署に留まる人もいることはいるが……。

拡大造林期に植えた人工林がいよいよ伐採適期を迎え始めたからだ。今、伐採して植林するという2巡目の新しい動きに入るタイミングにある。選択の時だ。また、環境的視点のウエートが森林には高まってきていることも見逃せない。さらにもう1つ。林地と立木の価格が下がり続け、現在、底値近くになっていると見込まれるからだ。

これは同意。今は、新しい体制に持ち込むチャンスだ。
でも、そこに公的機関が出しゃばるんじゃなくて、できれば林業に興味を持つ財産家などが参入してほしい。せいぜい10億円で数百ヘクタール、いやうまくすると1000ヘクタール以上の山主になれるのだから、それくらいの金を動かすのはなんともない人は少なくないはずだ。

公的機関には、森林の売買を促進するような側面援助に徹するべきではなかろうか。荒れた森の所得税・相続税は高くするとか(^o^)。大面積ほど所得税を安くするとか。そうすれば、手放しやすくなり、買いやすくなる。そんな売り手と買い手を発掘する。

買い手は「緑のオーナー」だ。ただし、一口1億円で、売買面積も100ヘクタール単位(^o^)。そんなマッチングできたら、面白いだろうなあ。

なんにせよ、あまり時間がない。早く新体制づくりの議論を行ってほしい。

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コメント

BPオンラインでは好意的なコメントが多いようですね。個人的には平野氏の担当である林木育種について何も書かれていないのがなんとも。林木育種に関しては素人ですからしょうがないのですかね。

同じ記事が2つアップされてしまいましたので、片方を消し、そのコメントを移動させました。

さて、平野氏は、インナーの立場からは思い切った発言をした、と評価されるんでしょうか。それとも余計な発言だと敵視されるんでしょうか(笑)。

ともあれ、将来の森林政策を議論する土壌を作るところから始めねば。

どうしてこういう記事を書く人がいるのか。
ヒントは「マッチポンプ」ですよ。

垣内慶修と言います(1957年生まれ)。NPO法人生物多様性復興委員会というものを立ち上げました。第1次産業を公共事業として実践すべきだと考えています。
田中様が今年の正月に読まれた「水の文化史」を書かれた富山和子教授の著作14冊と「水田が環境と文化を守る」というカレンダーのバックナンバー13年分をすべて読み、「受益者である都会に住むあなた、あなたは何をするのか」という問いかけに答えるべく動き始めたところです。是非ともお話したい。できればお会いしたい。と強く望んています。ご連絡頂ければ有り難いです。
  大阪市天王寺区玉造本町13-●-▲◇
  垣 内 慶 修 090-****-++++

林野庁の森林経営と言えば、「緑のオーナー制度」。
とうとう訴えられちゃっけど、公有化するということは、こういう事をまた繰り返したいのか、と思ってしまいます……。
それとも、本当にマッチポンプで、森林を買い上げろ、と言われないようにするため、あえて問題提起したのか?

なお垣内さんの住所、電話番号は、このような場所で公開するべきではないと考え、伏字にしました。

ご連絡いただければと思います。
宜しくね。

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