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森と林業の本

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2009/11/25

書評「国産材はなぜ売れなかったか」

昨日は、東京日帰り。往復8時間以上の列車の中は、やっぱりきつい……。

で、その中で読み上げたのが、「国産材はなぜ売れなかったのか」(荻大陸著・日本林業調査会・2000円)である。さっそくサイドバーに入れた。

少し前に発売を知ったので、すぐに申し込んだら、その前に著者から贈呈を受けたという有り難い本。私は、以前から著者の薫陶を受けており(^^;)、実は私の林業観にもかなり影響を与えられている。

だから届くとすぐに読み出したのだが、あまりの忙しさに中断していた。それを長い移動のおかげで読めたというわけ。だから、鉄道の旅は好きなんだ。鉄道オタクのカテゴリーに、「読み鉄」(列車の中で本を読むのが好き。ただし鉄道本を読むわけではない。)というのも作ってほしい(^o^)。

内容は、基本的には戦後日本の木材産業の動きを追っている。そして国産材が売れまくった時代、外材解禁後の展開、さらに集成材時代となり、まったく国産材が売れなくなってきた構造的問題を見事に描いている。そして最後に激動する現在から将来への展望と提言も触れている。

私には、それなりに知っていることも多いはずなのだが、それでも仰天することのオンパレードだ。おそらく業界人でも、常識のウソに縛られている人が多いのではないか。

たとえば「国産材は安い外材にやられた」なんてのは、いまさらのウソであるが、

戦後は、太い丸太より小丸太の方が値段が高かったことを知っているだろうか。そして、その理由は。
実は、「空気売り」と言われる、実際の寸法より大きく表示して売る販売が横行していて、小丸太の方が、値段を化かすのに都合がよかったからである!  丸いままの材を角材として売ることもあった。元口と末口の太さが違っているのも当たり前。だから細い材というだけでなく、木口が先の方が細くなっている、いわば円錐形の材の方が高く売れた。まともな太さの変わらない丸太は、空気が入らず「うまみ」が少なかったからだ。

そのほか、吉野でさえ「安い外材が入ってきて木が売れなくなった」なんて平気で言う人が多いが、実は外材が入り、並材需要が外材に取って代わられる中で、役物(銘木)を出せる吉野は、逆に価格が跳ね上がって大儲けしているのだ。なぜ、それを隠すのか?

……こういった事情を、細かな資料・数字で示す。いくら反論したくたって、当時の業界新聞や統計で示されたら、誰も言えないだろう。徹底的な現場調査から導き出しているのである。

そして、現在は、集成材が価格形成のプライスリーダーとなり、常に無垢材の価格は抑えられている。そして「国産材の値段は、もう上がらない」と断言する。

私も同意だが、こうした業界事情を知っている人は、意外と業界人にさえ少ない。

一見専門書だし、内容も木材産業の分析ではあるのだが、一つの産業の歴史として読んだら、非常に面白いだろう。ビジネスの世界で、こんな目茶苦茶なことが可能だったの? と驚くか、商品の価値や価格形成がどのように変動するか、時代の潮流を感じ取ることができる。普遍的な経済勉強にもなるだろう。

多少とも林業に興味を持っているのなら、育林の世界より前に、木材の世界を知ってほしい。そのための好書である。

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コメント

「読み鉄」
初めて聞く言葉ですが、私もそれです。

「空気売り」
きっと木材に限ったことではないんですよね?
いろいろそうやって売られていた時代があったんでしょうね。

列車に乗って本を読む「読み鉄」は、私が作った言葉です(^^;)。通常は、鉄道本を読んで喜ぶ人を指すでしょうね。

「空気売り」も、木材業界に限らず、バブルになった業界では、どこも展開する異常商売でしょうね。それを異常だと感じない人がいるから困るんだけど。そしてバブルが弾けて、その後遺症に苦しむことになる。今は空気でなく本物の木が詰まっていても売れないことがある。太い木は製材機に入らないから。

私も読みましたが、統計でキチンとして証拠を出されており、木材偽装?が当たり前で通用してことが良く分かりました。
が、どうしてこんなやり方が通用したのか、業界の非常識が通用した社会的な背景が今ひとつピンと来ませんでした。

それと、シックハウス症候群を引き起した集成材の接着剤の問題点の指摘が今ひとつ明確に指摘されていない事もあります。

まあ、30年から40年前の木材業界のあまりに非常識な取引が暴露されていますが、どうしてそうなってしまったかの社会的な背景の分析が弱い感じがしました。

庶民が健康で安全な住環境を求めている時代背景をしっかりと見据えて欲しいものです。

無垢材が好まれる理由や、集成材で10年保証すればいいという問題ではない、もっと長く使える住宅は在来工法ではないかとも思います。
伝統的な在来工法でも、耐震構造が出来ることを書いて欲しかったです。

 いつも興味深い書籍の紹介ありがとうございます。早速購入して読みました。付き合いのある人や会社、また取り扱っている商品が取り上げられていました。特に池見林産さんの対応力には驚きます。 

 かつての木材業界が殿様商売でいい加減なことをしていたとは断片的に聞いてはいましたが、改めて文章で見ると自業自得だなと言う感じです。集成材・合板・プレカット加工を敵視して、無垢の木材と手加工を礼讃する雰囲気がまだまだ強いです。

田中様

本当にそうなんです。
今でも、同径木の体積の寸法計算を直径×直径×長さでやっているんです。「小学生でもやらないよ」と最初は反発していたのですが、変更させられるたびにアホらしくなりました。

木材業の人たちは、自分たち中心の商習慣を改めないとインタナショナルなスタンダードに流されて滅んでしまいますよ。

「木材は、国際価格で動いています」と言っても理解してくれないのですから…。

お椀、家、家具、大八車に至るまで全て素材が木材であった時代は、材木商が総合商社の役割をしていたのでしょう。自分たちだけで仕切れる時代は、もう来ないでしょう。

なぜ、こんなデタラメ商売が一世風靡したか……私は当時の木材産業についてはわかりませんが、山元でも同じ雰囲気があって、当時は異常な木材バブルだったことを感じます。狂騒状態になると、何が異常で何が正しいかなんてわからなくなる。やりたい放題だったんでしょう。

そう言えば、私も大学で丸太の材積を簡単に計算する方法として、直径×直径×長さと教わって驚いたことがあります。ただ、その直径は末口を使うことで、あまり誤差は出ないという証明を授業で習いました。現場では元口直径を使っているんですが。

いずれにしろ、この本が描いている状況が、今も続いている地域があるのだから事態は深刻です。

田中様
末口径ならわかるんですが、海杉の場合、同径木何ですよ…。

現場は、元口ですか!(怒)

儲からないと嘆いていても襟を正さなければ、その体質を見抜かれてしまうのではないでしょうか?

林業・木材業界が川上川下と言ってなかなかまとまらないのは、そんな不信感の塊がお互いにあるからかもしれません。消費者はもうとっくに両者を見抜いて離れているのでしょう。

意外とよそ者が「ここがおかしい?林業・木材業界」と言う本を出せば売れるかもしれません(爆笑)

海杉さんへ

まったくこの本に書いてある事が、本当だとすると木材業界は常識のない人の塊で世間をなめていますね!!!

意外とよそ者が「ここがおかしい?林業・木材業界」と言う本を出せば売れるかもしれません(爆笑)

ご意見に、大賛成です!

外から見ると、おかしい商慣習がある業界は、木材業界だけではないから、洗い出すとよい娯楽本が書けるかもしれません(笑)。

さすがに、いつまでも昔の意識のままの製材業界では、今後淘汰されるでしょう。

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