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森と林業と動物の本

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2010/01/08

素材生産業の収支

世の中、デフレだとかいって、価格は値下げ続きだ。

素朴な疑問だが、どうして商品の価格を下げられるのだろう。いくら安くないと売れないからといっても、原価を割ったら自分が損をするわけで、そんな安売りは利益が減るどころか身を削ることになり、とてもビジネスとしてやっていけない。それくらいなら廃業した方がマシだ。

やはり、それなりに工夫して損はしないように(従来ほどの利益は出ないにしろ)しているはずだ。

実際、某ファーストフード・チェーンは、店内の内装を削ったり、原料を安くしたり、規格外品を仕入れるなどして、原価を下げているそうだ。そのほか流通過程を変えたり、加工の下請けの価格を切り下げたり、自らの利益を削るにしてもマイナスにはならないよう考えている。

それは言い換えると、無駄を省き、知恵を絞っているということにならないか。

そんなことを考えたのは、先日の佐賀で訪れた素材生産業者の話を聞いたからである。

彼は、「補助金をもらってはダメ」だというのだ。

そして、材価が下がっても利益を出す方策を模索している。それも、施業の低コスト化を進めているわけでもない。

あくまで架線を使い、作業道もあまり入れない。プロセッサはあるが、枝払いに使うのであって、玉伐りはチェンソーで丁寧に行う。だから毎月の出材量と現場作業員の人数からすると、一人一日の生産量は3立米にも満たない。今どき流行りの、機械化によって生産量を増やす手はとっていないのだ。

これで、どうして利益が出るのか?

彼のいうには、機械化すると利益が出ないのだそうだ。たとえば玉伐りの際に無駄な端材が出て、全体の生産量が減ってしまう。また径級が狂って安くなる…などするらしい。

このあたりのテクニックは簡単に説明できないが、手作業で丁寧にやることで、結果的に同じ本数の木を伐っても出材する材積は増える。たとえば土場に捨てる端材を減らすことによって一割出材を増やせば、利益も一割近く増やすことになる。
そして丁寧ゆえに高く売れる。全体として利益は出るのである。また直接注文で求められる材質・材長の木を出せば、当然高く売れる。

……このような話を聞いたら、もしかしたら、材価が下がって利益が出ない、と嘆いている素材生産業者は、こうした努力をせずに、昔のままに大雑把な造材をして、無駄をいっぱい出して、利益が出ないと嘆いているのではないか、と思えてきた。

そして、自ら努力をせずに、補助金をもらって穴埋めしているだけではないか・・・・もちろん、各地の事情によって、そんなにうまくいかないところもあるだろう。しかし、である。反論があったら聞いてみたい。

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コメント

私の住む地域でも、架線以外の高性能林業機械をつかわない方は「儲かっている」といいいます。理由は高性能林業機械のコスト(減価償却と燃料費、メンテ代)が、機械化によって実現された搬出量(と材価)と対比して割に合わないから。

今の数倍の材積を処理できるようにならなければ儲からないのではないでしょうか。

私には、林業の効率化は変な方向に行っているように感じています。

そう、機械化はコストも増やすんですね。しかも稼働率を上げなくてはいけない。そのためには利益の出ない仕事も引き受ける…歩留りは悪くなる、結果として悪循環になる。

効率化とは無駄を省く、いわば「もったいない」精神でやるべきであって、規模拡大ではないはずです。

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