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森と林業と動物の本

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2010/03/16

「誤解だらけの日本林業」を読んで

日経ビジネスオンラインに、「誤解だらけの日本林業」という連載が行われている。執筆者(というより、語り手)は、内閣官房国家戦略室の梶山恵司氏である。これまで2回分掲載された。

「林業は衰退産業という“ウソ”」

「林業は途上国の産業という“ウソ”」

林業に興味のある方ならわりと知っているだろう。ブログでも結構あちこちで取り上げられている。みんなが触れるネタは、私は敬遠しがちなのだが(^^;)、あまり無視するのもナンなので、少し触れておこう。

今回の第2回目は、機械化問題を取り上げている。

立派ですよ。内容は。読んでください。相変わらずドイツ林業を例に、ズバズバ日本の林業の問題点を指摘して、ここをこうすれば治る、生産効率は上がる、日本の林業は成長産業になる、と訴えている。

なるほどなあ。その通りだなあ。でも、多くの現場と照らし合わせると……。


                                                      

で、私はこの前の滋賀県で行った琵琶湖森林づくりフォーラム講演後の質疑を思い出した。

林業関係者らしき質問者は、間伐が進まないしコストダウンもできない、どうしても伐り捨て間伐になってしまう、と悩みを訴えた。では、どんな手があるか?
私が、日本の林業は生産性が低いと指摘し、同時に最近は集約化、機械化も少しずつ進んできた……と話したことを受けたのだろう。

ところが肝心の山林は、所有者は多いが所有面積は小さく、林齢もバラバラ、作業道もあまり入っていない……と条件が説明された。

これでは、林地の集約化・機械化を進めて、生産効率を上げなさい、という解答はふさがれたも同然(^^;)。
たくさんのやる気のない地主をせっせと口説いて集約化しなさい、銀行から金を借りて機械化を進めて作業道入れなさい、あるいは補助金が空から降って来るのを待ちなさい、とは言えない。

では、なんと答えたらいいのか。

私は「そんな方法知っていたら、特許取ってロイヤリティもらいます」と言った後に、考え方を転換することを提案した。

たしかに日本の林業の諸問題を解決する大きな一手は集約化や機械化なんだろうけど、それが簡単にはできない現実と条件がある。その場合、どうするか。

効率を挙げてコストダウンし、安い材価でも利益の出る体質にするのが難しかったら、ほかにどんな手があるか。

単純だ。材価を上げることである。コストダウンができなくても利益の出る価格に木材の方を上げる方向をめざすしかない。正確には、購入者・消費者に高く買ってもよいと思わせることだ。

そのためには何をするべきか。
一つは高く売れる最終商品を開発すること。そこに使う木材ならば高く買ってもらえる。スギ間伐材で作ったイスが一脚100万円で売れるなら、材料費に10万円や20万円は払ってもらえるだろう。

もう一つは、木材そのものを高く売る販売方法を考えること。具体的には特典を付けること。
たとえば立木直接販売制度では、市場価格の2倍にしても売れる。買い手は、自分で購入する木を選んだり、実際にチェンソー握って伐採させてもらうことで、喜びを感じるから払う気になる。

あるいは、丁寧な施業により、ユーザーがほしがるきめ細やかな造材をする(長さや太さなどの注文に応じる、スピード配達……などサービスを高める、その他)。怪しげな新月伐採も、その一つか。とにかく付加価値を感じてもらえれば、価格は高くても売れる。

また同じ山林、同じ木でも出荷する材積を増やすという手もある。玉切りの仕方一つで市に出す原木の総材積は変わってくる。切る場所で直径が変わるからだ。伐採搬出の段取り・システムを変えて、昔ながらの機械・手作業でも搬出量を多少は増やすことも可能だろう。
また細い木も手間・コストをかけず搬出すれば、安いなりに利益になる。日曜林家とか、森林ボランティア組織の利用などもその一つ。
出せる材積が増えたら、結果として山林全体の利益は増える。知恵を絞って小さく小回りを効かした経営を行い、利益を残す方法を考える。

収益アップには、コスト削減のためのハード(機械)整備だけでなく、ソフト(知的アイデア)、ハート(情熱・モチベーション)も大切だ。つまり人次第で変わるはず。ここでは、今すぐできることを考え、目先の利益こそ最重要と捉えるのだ。

壮大な目標は、ときとして人を疲弊させる。森林が対象だからと言って100年後の未来を語るより、10年後、いや来年までに行う目標を決める。そして来年の目標を達成するためには明日から何をするかを考える。組織体の目標より、個人でできる範疇のテーマを探りたい。それらが、結果的に美しい100年後につながる。

林業に限らず、経営には経営者の精一杯の努力が求められる。一発逆転の妙案を探したり、誰かが助けてくれるのを待つという対応では目の前の危機は乗り越えられない。

それは昨日の「限界集落のむらづくり支援員」と同じ。まずは目先の利益を求めて知恵を絞ってみないか。

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コメント

ご意見に賛同します。10年後の目標に向かって、その手始めに、来年度からNPO法人の活動を本格化します。

立木直接販売制度、売れてますか?

4月から新しい仕組みで立木販売の仕組みで家作りを提案します。
近日中にwebでオープンします。

記事に関連して、情報検索してますと、以下のような記事に遭遇しました。
梶山氏の周辺も、中央でなにやらざわついているようですね。
http://www.bionet.jp/2010/03/20100315iinkai/

紹介された記事、数日前に紹介した国交省の取り組む「木の家造り」ですね。こんなところに委員会の報告が載っているとは。

さて、温かくなったらまた丹波にお邪魔します。


私は東京の桧原村の山林の林業作業を昨年から見学させていただいています、私のプロジェクトは林業作業中にチエンソーなどで大怪我しても、チエンソーなどの騒音でけが人の発見がどうしても遅くなり最悪の場合は死にいたります、当然、山中は携帯電話やWi-Fiは通信できませんので救急車も呼べません。


 日本国内の林業作業中の事故死は年間50人以上です、この問題は作業者の高齢化もそうですが、経験不足な林業者それと、無理をする作業者などが含まれます。

来年の春には製品化する予定の林業安全安心装置を大急ぎで
開発中です。


---本題の---高く売れる最終商品を開発---については大賛成です、山の木が宝物になることを考えないと、このまま手付かずの山林が増えれば、山は崩れて、せき止湖が増えるばかりですね。
少し怒りのコメント:福島原発事故は山林にも大きな影響を与えています、放射線飛散マップを見ると東京都の奥多摩の山林にも落ちています・・・・東電さんはどこまで保障するのでしょうか?

このエントリーは1年以上前なので、すでに林業界の情勢は変化しているところもありますが……いまだに林業が労働事故率NO.1なのは、困ったことです。高性能機械の導入は、怪我や死亡事故を減らす効果はあります。
ただし、やはりオペレーターは相当の熟練を要しますね。

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