木材は花だ
木材の用途について考えた時、今後、構造材としての需要は減っていくだろうと予想する。建築物の骨格としてなら、鉄骨やコンクリートを始め、ほかにも素材はたくさんある。何も木材でなければ困ることはない。むしろ鉄骨の方が機能的に優れている面もあるだろう。とくに現在のような大壁構法の家ならば、柱や梁が木材である必然はまったくない。
さらに高層建築物になればなおさらだ。あえて木造でビルディングを建てる必要性は感じない。木質ボードは生き残るかもしれないが、無垢製材は減っていくだろう。
そこで考えられる用途は、やはり人の目に止まる部分、つまり内装材だ。
内装材は、建築物の強度などには関わることはなく、見栄えが大切だ。人が目にして、それを好ましく思うことが重要である。
……このように考えると、それは花ではないか、と気づいた。木材は花と同じだ。
花は通常食べられない。花卉産業は、農業の中でも特殊な世界だ。花は、人々の生活に絶対必要なものではない。あくまで生活に潤いをもたらすもの。だから流行があり、花の形や色に左右される。つまり食料を生産する農業の中では、傍流だ。
にもかかわらず、農業でもっとも利益率が高い作物が花卉かもしれない。見栄えが人の感性に合致すれば、高値は思いのまま。海外より切り花の輸入が盛んだが、それも空輸されている。飛行機で運んでもペイするのだ。花卉産業は、農業の中でも非常に高度な情報化分野だ。
木材も、そうした感性商品となれば、将来は明るい。デザインやアイデア次第で高値が見込まれる。花を活けるように内装を変える時代が来るかもしれない。今後、木材は花卉産業と同じように、毎年の流行を考えながら商品開発をするようになるかもしれない。内装材は切り花なのである。
反面リスクも高く、流行は移ろいやすく、鮮度も求められる。花の売れる時期は野菜よりはるかに短い。少しでも花が開いてしまったら売り物にならない。また毎年何百という品種が登場して流行は変わる。
同じように内装材も移ろいやすいが、花のように枯れることはないから、在庫になっても、すぐに処分する必要はない。その点は、花より有利かもしれない。
それが発展したら、家庭で花壇づくりを楽しむように、森林をデザインして楽しむ世界が誕生するかも。寄せ植えで雑木林とか、スギの一輪挿しとか。
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コメント
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今後という 期間をどれくらいに思われているかわかりませんが
輸送や製造に必要なエネルギーの問題が たぶん近い将来 出てきますので
低層の建築物については、国産の木材の需要は増えてくると思いますよ。
逆に、「高層建築に木を使う必要」を問うよりも「鉄やコンクリートを使う高層建築が本当に必要か」という発想も大切なのではないでしょうか。
誰にとって大切かは、難しい問題ですが。
建築の構造材という狭い範囲ではなく、ちゃんと考えている企業は、既に国内でいかに資源を確保するかに こそっと 動き出しています(模索中ではありますが)
化石資源ではなく、持続可能な資源の確保やそれを利用した製品への対応をはじめていない会社は、会社そのものを存続させる意思がないと評価される時代になってくるのではないでしょうか。
コンクリートや鉄の原料が どこでどうやって生産されるのかを考えると、その業界にとっては明るい未来だとも思えないのですが。
森林関係者は、目先の数年の話ではなく その時に備えて 木材が輸入できている今の間に
ちゃんと資源量と成長量の把握、そして環境と共存して日本と日本人が持続するためのルールづくりの準備をはじめた方がいいと思いますが…。
温暖化の問題より ずっと大切な事です。
投稿: 樹 | 2010/04/19 22:04
私と正反対の認識ですねえ。
私は、木材が環境に果せる役割はそんなに大きくないと思っています。少なくてもエネルギー問題から木材使用が増えるとは想像できない。
建前はともかく本音では、多くの人が環境なんて面倒なことは考えたくないと思っているように感じます。
投稿: 田中淳夫 | 2010/04/20 00:44
そうきたか!!
って感じで、ものすごく興味深く拝読いたしました。
10年前くらいまで農園芸雑誌の記者をやっていて、全国の花き産地や農家を取材してまわっていたんですが、生産者の皆さん、すごかったです。
当時から、農業を生業ではなく、ビジネスとして考えてましたし、流行のファッションやらカラーなどアンテナを思い切りのばしてました。
それと花き産業には、育種というロマンがあります。例えば、不可能と考えられていた青いバラ、最近開発されましたよね。
投稿: may | 2010/04/20 08:18
私も多少花卉産業を取材したことがあるんですが、一般の農家と全然違う世界ですね!
まさにビジネスとして、「生き馬の目を抜く」覚悟で取り組んでいる。第1次産業として非常に参考になりました。
木材の世界で育種に相当するロマンは何かな。やはり景観づくりでしょうか。それとも木工でしょうか。
投稿: 田中淳夫 | 2010/04/20 10:10
神奈川の関西人建築造形作家です

関西の農業高校で耐用年数二年 自然に戻る素材で年一回 家その他造形デザインコンテストを一般参加形式でやってました。紙と木材 廃材がいちばん素材として多かったです
投稿: 康弘 | 2010/05/19 07:48
耐用年数2年ですか。
木材を花にたとえるなら、華々しい時期をすぎたら取り替えるという発想も可能ですね。その方が、木材需要は増えるし(^^;)。
コンテストというのは面白い。
投稿: 田中淳夫 | 2010/05/19 12:22