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2010/04/08

木材価格の決定権

先に「悪のり」でも触れた林業関係者を対象にしたセミナーでは、「商品の価格の付け方」という会計の講義の時間もあった。

そこで、商品の価格の付け方は、原価に加工費や流通費、利益……などを上乗せして最終価格を決定する「売り手」方式と、市場で売れる価格を想定して、それに合わせて原材料の選定から加工方法、流通方法まで考える「買い手」方式があることを学んだ。

かつての日本は「売り手」方式が主流だったが、現代の日本では「買い手」方式が主流になりつつある。いわば、営業優先の考え方に変わってきたのである。売れないと意味を成さないからだ。物余りの時代の典型である。

その、もっともよい例が、牛丼戦争だろう。松屋も吉野屋もすき家も、価格を一斉に下げてきたのは、さもないと売れないからだ。そして売れる値段に合わせて、牛丼の提供の仕方を帰るだろう。(今度の期間限定値下げは、もしかしたらシェアを取るための戦略で、本社の内部留保を吐き出しての体力戦になるかもしれないけれど。)

そして、同じことが木材(国産材)でも起きている。

「売れない」から、価格が下がってきた。今、自給率が伸びている理由の一つである合板や集成材に国産材が使われ始めたのも、最大の要因は「安くなった」からだ。
しかし、肝心の値下げ分のコスト圧縮はうまく行われていない。大規模化・機械化・集約化などにより伐出や流通、加工分野のコストダウンも進んではいるが、限界がある(あるいは努力を怠っている)。この部分は、ちゃんと経費と利益は(薄くなったとしても)得ている。

それでは、売れる価格まで下げられない。そこで足りない部分は、山主がかぶっている。そのため造林・育林分の回収はできず、再造林という当然の投資もできず、赤字に追い込まれている。それも木を伐るのは、ほかに収入源があり、また持続性を捨てて目先の利益を得るだめだろう。

木材価格の決定権を「売り手」にもどせないか。「売り手」方式で木材価格を決められないだろうか。
もちろん、「売り手」の希望の値段を出しても、それで木材が売れなければ意味がない。残念なことに、国際商品であるうえに国産材市場でも分断と小規模産地が多い木材は、ダンピングする業者が必ず出る。「売り手」がまとまっていないのだ。

そして「買い手」は安い方がよいから、当然「買い手」方式を望む。しかし、ここをよく考えてほしい。
エンドユーザーの求めているのは、「最終商品の安さ」であって、「山元の安さ」ではない。安くても立木や丸太や単なる板を普通の市民が買うことはない。ほしいのは住宅であり、家具やグッズになった木材商品だ。

きっと、両者が折り合える方法はあるはずだ。

ここ数年は環境問題的に、公共事業では「合法木材」の使用が求められている。違法な伐採による木材の締め出しは、国際的にも進んでいる。これは「法による規制」の典型例。

一方で「森林認証」のように経済的な方法で、環境保全への誘導も図られている。

これらの手法を融合させて、経済的誘導と法規制を一体化できないか。

大阪では、タクシー会社の値下げ申請を陸運局?が却下した。その価格では、適正な経営にならないと指摘したのだ。これ自体は、民間企業の経営に介入したとも言えるのだが、林業界にそうした仕組みづくりはできないものか。

たとえば再造林しない山の木は、ペナルティ価格にする。あるいは木材に「森林破壊シール」を貼るとか(笑)。売るな! という規制ではなく、ペナルティを与える。
それとも、合法・持続木材は、取引税を安くする。それともエコポイントを付与する。逆規制というか、公共事業の優先順位を高くして誘導するような方法だ。

合法的かどうかだけでなく、適正価格かどうかもフェアの要素に含めてほしい。適正価格の木材もフェア・ウッドと呼びたい。

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コメント

 木材の適正価格を算出しようと声をかけられた事があります。価格は市場が決めることだとその時は返事しました。

 国産木材の競争力?ってどれだけ税金を投入されたかで決まるように感じます。

 遠方より首都圏まで持ってきて良く安値販売できるなといつも思います。近くの木より遠くの木の方が安い状況、どんなからくりになっているのでしょう?

税金投入額で価格を決めるというのは、産業の体をなしていないですねえ。

距離じゃなくて、供給力でしょうね。製材産地なら近くの木でも安い。東京に隣接して、大量の木を生産したら近くて安い木が供給できるのではないかなあ。

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