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2010/05/20

寡黙だった日本人

福島の集落で驚いたこと。

ここには、わずか9戸しか残っていない。ところが、その家が、実に広い地域に点在しているのだ。並んで家が建つところはいくらも目にしなかった。この点は、関西に多い、急傾斜の山斜面にへばりつく集落との違いだろう。土地が緩傾斜で、広々としているのだ。

ただ在住者は15,6人だというが、一堂に会することが年に1回か2回しかないという。しかも独居者も多い。

おそらく会話も少ないのではないか。

もちろん、個別に数人集まることはあるだろうし、積極的な声かけも行われているようだ。しかし、人数が少ないから寄り添って生きる……というイメージとは違っていた。

私が田舎社会を説明する際には、「人が少ないからこそ、濃密な人間関係がある」と言ってきた。それは今も間違いだとは思わないが、濃密な人間関係と、対人接触、会話とは必ずしも同じではないのかもしれない。

かつては自家用車もなかったから、点在している各家を訪ねるにも、結構な手間がかかったはずだ。すると、否応なく接触は少なくなるし、会話もしない。

以前記したが、明治の農山村の人々の会話は柳田国夫の記録によると、1日15句だったという。実は、その傾向はつい最近まであった。

1949~50年に国立国語研究所が調査した記録によると、山形県や福島県では、ほとんど人はしゃべっていなかったという。たとえば商店主の記録によると、話した言葉を現在のラジオの語り(放送事故にならない程度の間隔)の量に直すと、10分足らずだった。しかも、その内容は「はい」という一言の相槌が大半であった。

社会学者の加藤英俊氏が、55年に奈良県の山村で調査した記録もある。
それによると、家族が集まる夜、大人が8人もいて、一人当たり1時間に8回しか発言しなかった。それも大半が「はあ」といったつぶやきだったそうだ。

日本人は、寡黙だったのだ。

だとすると、現代社会は、いかに「しゃべりすぎ」か。加えてテレビなどの「しゃべりの情報源」も巨大だ。パソコンで、ブログやツイッターの「発言」「つぶやき」も多い。
今や饒舌の日本人になってしまっている。

まあ、しゃべること自体が悪いというわけではないが、しゃべらないことへの罪悪感を持ちすぎているとも言える。

ちなみに、私がこの集落に滞在中に集まったメンバーは、みんなよくしゃべった(笑)。酒が入ると、大声になる人もいたし、私も居眠りしながらしゃべっていたよ……。

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コメント

誠に興味深いお話しです。
私が住んでいる集落は、十七世帯です。谷川に沿うように、密集して家が建っています。
毎日お会いして会話する方もいますが、こちらが出向かない限り接触しない方もいらっしゃいます。
まだ転居したばかりなので確かなことは言えませんが、気付いたことがありましたら随時ご紹介したいと思います。

ありがとうございます。
しゃべりすぎの今に共感し
なんとも染みいりました。
寡黙さは互いを尊重していた事の現れでしょうか。

おそらく、東北は全般的に寡黙な傾向が強いと思います。これは、山村だけではなくて、今や市街地でもいえることです。そして、独居→寡黙→認知症といった傾向もあり、いかにコミュニケーションを高めるかという課題もあります。
一昔前と違って、ヨソモノにたいする干渉も低レベルだと思います。

もう一つ驚いたのは、こうした限界集落で、携帯もほとんど圏外であるにも関わらず、ネットはすでに重要な役割を果たしていることでした。
近く、ここからユーストリームの中継も行うという……。

会話しないでもよいとは思いませんが、かつては「話さないでもわかる」という文化が広がっていたんでしょうね。今や「話してもわからない」社会になりつつありますが。

確かに。
明治生まれだった祖父母(両方とも福島県人)は寡黙でした。
夫婦喧嘩をしたことがないって言ってましたので、当時子供だった私は、二人は仲が良いんだと思っていましたが、あの寡黙さでは喧嘩が出来なかったのではと思う次第です。
が、祖母は友達が来た時は、普通に喋っていましたし、祖父も亡くなった後、外では大変陽気に喋っていたことが判明したので、寡黙さは家の中だけだったようです。

・・・私も家の中では寡黙です。

福島県人、家の中では寡黙?


>・・・私も家の中では寡黙です。

えええっ!

先に「話さないでもわかる」と書きましたが、「話さないから喧嘩しない」かもしれませんね。

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