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2010/06/25

東濃檜のふるさと-加子母

昨日まで訪れていたのは、岐阜県中津川市の加子母森林組合。

グリーン・プレスクラブのツアーに参加したのである。だから向こうで記者会見もあったし、いろいろ案内していただけた。

ただ、加子母と言えば、私にとっては「東濃檜」のふるさとである。ここでは、東濃檜(東濃ひのき)から見える木材の価値について考察しよう。

もともと、この地方は「裏木曽」とも呼ばれ(地元では、今でもコチラの方が多いとか)る東美濃地域にある。木曽と言えば、木曽檜で有名で、日本林業の一方の雄だろう。東濃地方も、江戸時代かららさかんに檜を伐りだしたようだ。
とはいえ、基本的に天然林から伐りだす木曽檜は、育成林業地としてはそんなに知られた存在ではない。植林が一般的になったのも明治以降である。施業も、間伐や枝打ちはほとんどされなかったらしい。
木曽檜が一般に天然林から伐りだされたもの(最近では樹齢150年以上のものと定義付けられている。)であるのに対して、東濃檜は、この造林木の製材品である。

東濃檜が世に出たのは、昭和30年代後半だ。決して歴史的に古いものでもない。にもかかわらず、その名声はじりじりと高まり、とうとう20年前(平成元年周辺)には、吉野材の価格を上回るようになった。

今更だが、吉野は日本最古の育成林業地であり、古くは500年前、全体でも江戸初期から造林を行い、精緻な育林技術を磨いてきた林業地だ。そして吉野杉、吉野檜と言えば、まさに銘木として一般材の3倍4倍、ときに10倍以上の価格をつけられてきた。

そんな吉野材が、世に出て数年の東濃檜に価格で負けたのだ。

なぜか。

少なくても東濃檜の原木の質が、吉野材より優れているとは思えない。なかにはすばらしいものもあっただろうが、全部がそうであるはずがない。無間伐であることで、密生状態になり生長が遅く、枝もこすり合うため落ちて、年輪が密になり節も少なかった…というが、それをもって材質がよいというには無理がある。

答は、簡単だ。製材がよかったからである。

加子母の伊藤林産のほか東濃地域の何社かの製材メーカーは、きっちり乾燥させ、寸法どおりに製材する。扱いもていねいで、流通過程で傷をつけるようなことはしない。材の上を歩いて足跡をつけることもない(^^;)。

すると、価格が上がった。当時の日本の木材取引では、まったくいい加減だった。寸棒も乾燥も、量も質も安定供給もできない中で、正直な商売に徹した製材会社が価値を高めたのだ。

つまり、「東濃檜」とは、製材会社のメーカーブランドなのである。その品質が、吉野材を抜いた、少なくても同等の価値に高めた。

ここで、木材の価値とはなんぞや、ということが問われるのではないだろうか。

何も木材に普遍的価値があるわけではない。それを商品とした時に価値が発生する。その中には、一応木質や色なども含まれるが、同時に寸法とか乾燥、表面加工が美しいかどうか、さらに配達期日や契約の信用性、提供に関するサービス全体が入っている。

たとえば、金はそれだけで価値がある。それが砂金の粒であろうが延べ板であろうが、指輪であろうが、金は重さで取引される。マテリアルとして金は交換性のある物質の価値があるからだ。
しかし、木材はマテリアルそのものの価値より加工サービスによって価値を作り出すものなのだ。

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家一軒分の東濃檜のプレカット材。




さて、現在は銘木も役物も価値を認められなくなってきた。木目や色は気にしない。製材加工の正確さは、機械化が進むと当たり前になる。買い手は、そんなものに大金を払う気がしないのである。
その結果として吉野材も東濃檜も、どんどん安くなって、今や一般材と同じようになっている。

さて、それなら今度はどんな価値をつけるべきだろうか。(続く)

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コメント

>木材はマテリアルそのものの価値より加工サービスによって価値を作り出すものなのだ。

そこのところが良く認識されていないような気がします。
今頃、価値創造の必要性に気付いたのでは遅いのでしょうか?

まだまだ気づいている人は少ないですね。
どうしても林業関係者は、自分たちが育てた木そのものに価値があると思いたがるから。

たとえば布地もそうですね。それが高品質な絹であろうと幻の手織り・染め物であろうと、価値が出るのは、どんなデザインの服飾にするかにかかっています。

遅いと言っても、諦めて放置するわけにもいかないですし、これからやらないと仕方ないですね。

>遅いと言っても、諦めて放置するわけにもいかないですし、これからやらないと仕方ないですね。

そうですね。
林業関係者はもちろん、むしろ製材、木材販売の側でそれに気づいていない人が多い。
付加価値を付けるすべを持つ人たちにその気づきの少ないことのほうが問題だと思います。

生産者に、すべてを期待する(押しつける)のは酷なような気がします。
付加価値を付け方を教えるのは都会に住む専門家の役割ではないですかねえ。゛

でも、教えずに安く買いたたいた方が儲かるのも事実なんだな。国内フェアトレードの概念を広めないといけない。

>生産者に、すべてを期待する(押しつける)のは酷なような気がします。
付加価値を付け方を教えるのは都会に住む専門家の役割ではないですかねえ。゛

生産者(素材生産者)に全てを押しつける気はありませんが、生産者も付加価値を付けることが大切ということにもっと気づいて欲しいですね。
都会に住む、田舎に住むに限らず“専門家”からいろいろな付加価値の付け方を学ぶ、聞く耳を持ち、実行に移す努力をしなくては。

>国内フェアートレードの概念を広めないといけない。

まさにその通り。

まさに、●を■にして、儲けて商売していた時代の中で東濃の材が、消費者に近い立ち位置で商売をしていたということでしょう。あの良かった時代が、逆に足かせになって消費者に近づいたビジネス展開ができないでいるようです。でも、それだけでは、足らないようです。消費者の求めるものに対応できる木材。海杉は、「喜ばれる木材」売って欲しいと思います。

木材に限らず、ものの価値は、売り手の都合から買い手のニーズ重視に変わりました。

しかし、今はさらに先に進んだと思います。消費者ニーズをいくら重視しても売れない時代になってしまいました。同じニーズをカバーする商品がどっさり登場しているからです。

今は、ニーズの先にある、消費者も気づいていないインパクトが求められる。それは驚きであり、感動であり、快感です。それがないと売れない。

商品開発やマーケティングの世界では「ニーズ」というのは存在しない。近年は「ニーズ」は「探す」ものではなく、「生み出すもの」とも言われています。

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