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2010/06/17

兼業者のダンピング

田舎社会は兼業社会、と指摘してきた。一つの仕事で十分な収入を得られないからいくつか掛け持ちをする。多品種少量生産であり、多様性職業だ。
それがリスクヘッジにもなる。一つの仕事が失敗しても無収入になるわけではないからだ。

が、一方で、兼業ゆえに真剣さが足りないケースもある。逃げ道があるわけだから、乾坤一擲の勝負を挑む……ということはなく、暇なときにできる仕事をやる感覚になる(^^;)。

どちらがよいか、もちろん程度問題なんだろうが、近年は弊害の方が多いような気がしてきた。

農産物直売所には近隣の農家が出荷するのだから、同じような種類の野菜が並びやすい。同じ季節、同じような土壌条件でつくる野菜は決まってくるからだ。加えて農協などの指導もある。

が、同じ野菜が並べば、売れ残る確率も増える。そんな場で専業農家と兼業農家が争うと、そこで何が起こるか。

よほど品質の差がないかぎり、価格競争が始まるのである。

いかなる結果が出るか。

兼業農家が勝つのだ。誰だって自分の野菜が売れ残るのは気分悪い。なんとか売り切ろうとする。だが専業農家は、原価計算をするし、自分の労働を安売りしたくない考えもあるだろう。一方で兼業農家は、ほかに収入源があるから、見境なく下げることができる。

だが、真剣に農業をやっているのは専業農家の方だろう。にもかかわらず専業者は駆逐され、利益の出ない直売が広がれば、やがて農業自体が衰退するのは目に見えている。

林業でも、たとえば建築業界から参入する場合、本気で林業に鞍替えするのではなく本業の仕事のないときだけ林業をしようという発想だったら、山特有の技術も知識も十分に磨かれないだろう。結果的に赤字になったうえに山は荒れる。

ちなみに、ここで専業と兼業として比較してみたが、これはプロとアマと置き換えてもいい。専門家と、何でも屋の差ということだ。複数の分野でプロ級の人の場合は、兼業を同じように扱ってはいけない。

ま、こんなことを考えたのは、私も基本的に専業者だからだ。

取材して、情報集めて、文章書いて、あるいは人前でしゃべってギャラをいただく。

ところが、ダンピングする人々がいるのである。安い額で原稿を書く、講演を引き受ける。それでは仕事にならないだろう、と思うのだが、彼らは兼業のなのだ。別のところから給料もらったり収入があるから苦にならない。
大学の教員だったり、リタイヤして年金生活だったりする人が、書けるだけで嬉しい、人前で話すことにステータスを感じる、ということで引き受けてしまう。が、それは業界全体のレベルを落としているダンピングなのだ。

私が、金額をどうにかならないかとクレームを付けると、「それなら……」と断ってくる。だって代わりはほかにいるから。

でもね。質は違うと思うよ。(負け犬の遠吠え)

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コメント

 そうなのです。お茶の価格(荒茶出荷価格)が下がっても何とかなってるのは兼業だから。
 でも、専業も直販とか工夫していますね。
 こうやって、切磋琢磨がおきて、質が上がり価格が下がる。消費者にはメリットが・・・。
 でも、本質的には業界全体のキャパと室が下がって、結果全体が斜陽になっていくのかもしれませんね。
 専業農家の皆さんなんとか、プロの根性を見せていって欲しいです。

 すいません。いつもの追伸です。
 専業農家の技術や本気度はいつも感心させられます。その専業農家に食らい付いていい茶を作っている兼業農家も多いも事実。
 農業、副業(その逆もあり)、消防、PTA、家族、近所づきあい、生産組合、林業・・・、いつ遊んでいるのだろうと思うときがあります。

近ごろでは、退職して趣味で野菜を作っている方とかも、直売所に出すようですね。
自分の作った野菜を食べてもらえることがうれしい。という気持ちですから、価格は安いです。(だって、多くの人に食べてもらいたい。が第一なので。)


こんなでしょうか。
生業(専業VS兼業)VS趣味
  ↑
でも、買う人は、これを基準には選ばないですし。


「専業の人のは、やっぱり美味しいよね。」
となることは結果としてはあるでしょう。


個人的には、専業の人(プロ)は生産から販売まで、優れていないとならないのかなあ。と思います。

生産から販売まで、すべてに優れているというのは、もはや専業者というより多彩な才能の持ち主ですね。
そこまで行かない、「生産」だけのプロは、販売や宣伝で負けてしまう……。
厳しい時代です。これも肉食系時代でしょうか。

>大学の教員だったり、リタイヤして年金
>生活だったりする人が、書けるだけで嬉
>しい、人前で話すことにステータスを感
>じる、ということで引き受けてしまう。

はい,かつての僕です(笑).原稿執筆や講演の前にギャラを聞いたことは一度もなかったなぁ.そういえば先日のTV出演のギャラも事前に聞いてなかった.で,入ってきた金額をみて(その少なさに)びっくり.事前に聞いて「プロレベルを求めるならそんな額では無理ですよ」とつり上げればよかったのかも.

それでバチがあたったのか,救急車に乗る羽目になりました.入院は免れましたが,現在静養中です.

今後は仕事を引き受ける前にいくら受け取れるのかちゃんと聞こう(笑)

でも、兼業者が、研究者としてはプロの人が、原稿執筆や講演でプロ並の金額取られても嫉妬する……。

救急車、乗れてよかったですね(^^;)\(-_-メ;)違うか。

兼業・専業、区分けが難しいところです。
兼業者の年収、売上のほうが、
専業者より多い、なんていう場合も多々あります。
こだわって、普通の人には簡単には
理解してもらえないようなところまで、作りこんでいるのに、
ろくに向上心も持たず、作っている方が売れる。
販売、宣伝といった広報・広告の手腕だけで
売れて行くなんてこともあります。
こだわって作っている方ももっとこだわりを
伝えていかなきゃと思います。
口下手、話下手ですけど。

そう、現実には「生産の質」よりも販売・宣伝の上手さで決まることが多い。また兼業者の方が上手いことが多いんだな。

かくして営業至上主義に陥りそうになる。


 販売、宣伝業務は大変なことで、個人自営農にとっては至難だけれど、加工品となるようなものまで生産している場合(古くからやっているのはお茶がそう、乾物など)は、加工方法など製品字体を向上させるのに繋がります。販売宣伝をしている人は、品質にフィードバックしますので。
 でも、外側で勝負する人もいますね。パッケージは大切です。

本来は、「中身の品質がよいのは当然」で、その上でネーミングやパッケージ、そして営業販売活動に熱心……であるべきなんでしょうね。
外見で勝負して、中身が伴わないのは、言語道断。

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