ワンフレーズ地蔵とパワースポット
京都府木津川市の海住山寺をご存じだろうか。
ここを訪ねた。
実は奈良に近く(京都府の南端)、しかも奈良時代の一時はこの辺りに都が移されていた。いわゆる恭仁宮である。ここにある海住山寺は、天平7年(735)の創建。
現在の寺は鎌倉時代に再建されたものだが、国宝の五重の塔がある。
小ぶりながら、整った形の塔である。
いかにも古代史の舞台の風情が漂っているのだが……。
こんな祠があった。
やる気地蔵。
こんなのもある。
苦抜き観音。苦抜き地蔵。
なんだか、神仏混交だ。
さらに、こんなのも。
ぼけ止め地蔵。
そして極めつけは、一言地蔵。
一言で願うのがよいのだ。ぐだぐだ言葉を連ねてはいけない。
ほかにも、「持ち上げ地蔵」と言って、小さな石仏を持ち上げることで願いが叶う……と書かれたのもある。
思わず、どれも手を合わせ、賽銭を入れたくなる(~_~;)。
だが、よく考えると、いずれも最近の命名らしいし、そもそも地蔵もそんなに古くなさそうなものもある。古くても、さして造形的に優れていると思えないものも……。
ようは、命名したら勝ち、なのだ。
なかなか、ここはお寺として“商売”が上手い。何も賽銭を増やそうしているというのではない、お参りさせる気持ちを喚起するのが上手いのだ。
昨今はパワースポット流行りだが、それも元をたどれば命名の勝利である。
パワースポットという新しい言葉と、断片的・断定的な情報が人々を集めているのだという。難しい理屈よりも、短く断定することで、人々の心にすっと入って行ける。その方が楽だし、効果も出る。とくに癒しとは、理屈ではなく信心である。
小泉元首相は、ワン・フレーズ・ポリティクスと言われて、一つの命題を一つのフレーズで説明することで、それに圧倒的な訴求力を持たせて他の意見を圧倒した。世間は、経緯よりも答を欲している。そして答が自分の感性に合えば、熱狂的に支持する。
パワースポットも同じなのである。この泉は恋愛運を高める! と誰か(できれば有名人)に断定された途端、その情報は世間を駆けめぐり(マスコミだけでなく、ネット口コミも含む)、ブームをつくる。
海住山寺は、何も世間を誘導しようなんて意図はないだろうが(どの地蔵も牧歌的だ)、うまく参拝者をノセる命名術を持っている。この手は、地域おこし、あるいは国産材振興にも参考になるかもしれない。
ただし、気をつけないと、ワン・フレーズは暴走するよ。
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すると、やりようでは、田中邸もパワースポットになる可能性が・・・。
恋愛成就で若い女性がたくさん訪れる。
のと、
老若男女が手を合わせて、お賽銭を置いていく。
のでは、
どちらがいいでしょうか。
投稿: 熊(♀) | 2010/06/14 20:51
むらづくり業界では、木の板に下手なお習字でつまらない人生訓みたいのを書く人もどきどき見られます。原価に対して、かなりの利幅。
羨ましくも思いますが、私の場合は友人数人から「そういうことに手を出したら火を着けに行く」と脅されているので、まだやっていません。
熊(♀)さんの2択ですが、やっぱり花より団子、女子より賽銭では?
投稿: 沢畑 | 2010/06/14 21:32
今度、我が家の祠に添える仏像を彫ることにしました。やっぱり石かな。それとも木彫りにしようか。
で2択では、「恋愛成就」を掲げて若い女性を集め、その祠の横で占いの看板を掲げる、というのが正解ではないでしょうか。手も握れるし(^^;)、賽銭より団子大きいよ。
投稿: 田中淳夫 | 2010/06/15 00:48
こんばんは
暴走しちゃった例です→中日新聞 http://www.chunichi.co.jp/article/nagano/20100613/CK2010061302000006.html
五年くらい前までは、地元でも観光資源として使えないかと検討していたらしいんですが、ワイドショーで取り上げられてから、雲霞の如く人が殺到しているそうで。
私自身も有名になる前には、何度も通り抜けている、変哲ない峠なんですけどね。
その頃は地質学や考古学マニア、そして酷道マニアくらいしか訪れなかったんだけどなぁ。
ちなみに麓にある醸造所では、「気場の清水で仕込んだ」を売り物にする、日本酒があるそうな。
投稿: 飛魔人 | 2010/06/15 01:15
都会の片隅ではなく、かなり遠方まで人を吸引する力があるんですね。それも5年以上持続しているのか。これは、やっぱりパワーが強いのでしょう(笑)。
でも、考古学や地質学の面からも価値があるんなら、今後もいろいろ打つ手はありそうだな。
投稿: 田中淳夫 | 2010/06/15 10:16