林業は都会の産業
参議院議員選挙の開票速報の続く中……。
政治は都会で行われている。だが、林業は山村の産業……と思いかけて、それは違うのではないかと気がついた。林業は都会で生まれたのではないか。
理屈は簡単だ。なるほど、木は山にあるが、それを伐って近くで使うのなら、それは林業という産業ではない。自給自足は、産業ではないのである。しかも、この場合は天然林からの木材採取だろう。
現在の林業が、育成林業を意味して、それは植林から育林、そして伐採・搬出という収穫作業を経て、製材加工される。こんなシステマティックな物資の動きを行うようになったのは、木のない都会で木材需要が生まれたからである。
木があるから木材が資源となって、都会に売られたのではない。都会が木材を欲したから、山間地域で木材生産、ひいては森づくりが進んだのではないか。この一連の流れが林業へと成長させたのだ。
実際、歴史的に林業が発達したのは、近江-奈良、丹波・北山-京都、吉野-大坂、多摩-江戸など当時の都など都会と結びついた土地である。(奈良の都の木材は近江から調達された。また吉野は、奈良よりも水運で結ばれた大阪と関係が深い)
やっぱり需要が先にあるのだ。
そう考えると、「植林から始まる林業」とか「伐採が先にありき林業」というのは、いずれも間違いだ。たしかに最初こそ、需要に沿って天然林を伐採したのだけど、それは林業ではなかった。枯渇して初めて植えて育てる、さらに収穫する技術や仕組みが誕生するのである。
逆に言えば、日本の多くの林業地は、これまで確たる需要先を持たない(決めない)まま、木を育ててきたのではないか。だから、失敗したのだ。
幸い、今は流域など考えずに木材流通は可能になった。言い換えると、林業地の才覚次第で、全国、そして世界に需要を見つけて結ばれることが可能だ。
これは、ある程度、早いもの勝ちだ。いまだ売り先が定まっていない林業地は、大急ぎで営業に走り回ることだ。
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植えた木を収穫するのが30年とか40年先になりますが、その辺の市場動向を見通すのは人間の力では無理な気がします。
となると、現在手持ちの林業資源をいかに需要に合わせるかという能力が必要なのですね。
投稿: 沢畑 | 2010/07/12 12:02
江戸時代なら、そんなに大きく変わらなかったかもしれませんが、現代社会では10年後の市場を読むのも難しいですね。
となると、商品開発ということになる。
たとえば大口径の吉野杉は、樽の材料として重宝されましたが、大木があったから樽材にしたのか、樽材を得るために長伐期にしたのか、研究者によって意見は分かれます。いずれにしろ、他に真似のできない商品(需要)と結びついたから、よく売れたのです。それも戦後は、プラスチック製樽に取って代わられせるのですが…。
投稿: 田中淳夫 | 2010/07/12 17:01
今から、30年後とかの需要を作り出すことはできますかね?
例えば、薪も使える仕様の住宅を流行らせ、燃料薪化計画・・・。
ショッカー軍団の世界征服計画よりはイケるかと。
投稿: 熊(♀) | 2010/07/12 17:49
あ。薪じゃなくともいいんですが。チップとか。
木をいっぱい使って家を建てるより、木をいっぱい使い続ける家です~。
投稿: 熊(♀) | 2010/07/12 18:00
薪になる家、案外イケルかも。
環境省は、オフセット・クレジット(J-VER)制度の対象に「薪ストーブによる薪の使用」を追加したそうですから。薪ストーブを使用することで、二酸化炭素(CO2)排出量の削減になり売買対象にできるんなら、自宅を燃料にする家というのは…。
もともと木の家に限らず、メンテナンスは必要なんだから、木の壁やフローリングを自分で毎年交換できるようにしたらどうだろう。常に新品感覚の家。そして外した材を薪にする。
投稿: 田中淳夫 | 2010/07/12 22:58
田中様、皆様おはようございます。
仰る通り都市に需要あってこそ林業が産業として成り立つのだと思います。
それは時代が違えども歴史的に見て普遍の原理ではないかと。
若者世代の一人として、例えば都市に暮らす20~30代の若者に需要を興させる魅力的な戦略が官民にあれば良いのですが…。
しかし、日常生活の現実として消費者(需要側)と生産者(供給側)との間に(第一次産業の全体としての)距離感や温度差がある事は否めません。
私は某農大の学生時代から国産材割り箸や国産材配合の印刷用紙、名刺などを愛用していますが、それ以外の消費財を購入する場合にはどうしても二の足を踏んでしまいます。
正直なところ価格もその要因の一つですが、それ以上に消費者が得られる情報が少ない又は理解し辛い点が最大の理由です。
(続く)
投稿: 新井 克志 | 2010/07/13 05:03
(続き)
先日、四谷林業の話に触れましたが多摩(武州)の先人達は需要を良く理解していたと思います。
特に四谷林業は謎多き点もありますが、その特徴として
①山主が小規模(1~2町歩)である。
②造林地が(薪炭林とは別に)畑作地に立地している。
③以上の条件から他所に比べて施業が容易である。
④施業方法から高品質な小丸太を志向している。
⑤材木商は品質が担保されれば少量多品化で商売できる。
が挙げられます(まだまだ勉強不足ですが…)。
ここで最も重要なことは需要に対して柔軟に丸太を「育て・売る」確固たる戦略があったと考えられる事です。
ただ、山主(半農半林の百姓)にとって売れる丸太を育てられるか否かは貧富の格差(年貢を納め、肥料や種苗を買う等)と直結した事情もその背景にありますが…。
ちなみに、造林地であった場所は農地改革の保留地を経てその多くが住宅地となり、一部は生産緑地となっています。
山林(市街地山林)として現存している場所は高井戸の極一部に限られるのではと思います。
以上、長文失礼致しました。
投稿: 新井 克志 | 2010/07/13 05:04
そう、国産材商品の弱点は、価格以前に買うところが見つからないことです。
以前、デッキをつくろうと計画して、こんな仕事やってるから高くても国産材使おうと思いましたが、売っているところがなくて難渋しました。しかも角材や板は、素人大工には使いづらい。
今年、デッキを新調しましたが、迷わず、外材のツーバイフォーにしました(笑)。安かった!
四谷林業についてありがとうございました。まだ山林が残っているところがあるんですね。一度見てみたいものです。
杉並区にもう一度杉並木を、というプロジェクト立ち上げて、東京の地価でも採算合う林業に挑戦する人、いないかなあ。
投稿: 田中淳夫 | 2010/07/13 11:46
杉並区ってそういうことなのだったのですか。
学生の頃、連れが結構高井戸、笹塚あたりに住んでいてよく行ったもんです。
さて、ツーバイの国産材、最近注目を浴びていますね。国のほうでも、建築材としてですが、強化分野になっているみたい。
外構、ウッドデッキ系の国産木材のツーバイ規格材は、宮崎の酸化亜鉛含浸処理木材(弥良来杉=みらくるすぎと読みます)がありますね。
通信販売(宅配)もしてくれるみたいですし、申し込めばサンプルを送ってくれるみたいですよ。ネットでも詳しく解説しているブログがあります。価格も、安いと思います。
投稿: 鈴木浩之 | 2010/07/13 12:25
木材の通信販売ですか。宅配料金が心配だ。
近くのホームセンターで売ってほしいなあ。軽トラに積んで持ち帰りたい。
投稿: 田中淳夫 | 2010/07/13 14:07