油ヤシ・プランテーション
ボルネオ談。オイルパーム(油ヤシ)について。
ボルネオ(サラワク州)の町・ミリは、漢字(つまり華人の表現)では、「美里」と書く。なかなかオシャレな語感である。が、ミリの町を歩いていて、別の漢字表記を見つけた。「油城」である。
サラワクで最初の油田。「オールドレディ」の名前が付けられ、記念碑が立つ。この横には、石油博物館も。
現在は、ミリの沖合に海底油田がある。隣のブルネイも産油国として有名だ。たしかに油の城なのである。
だが、近年は新たな油が登場している。それが、油ヤシから取れるヤシ油。
パームオイルは、今世界的に非常に注目を浴び、増産が続いている。食用油になるだけでなく、バイオマス燃料にもなる。また洗剤やアイスクリームなど、融点の関係で使い道が広い。おそらく日本人の食生活も、ヤシ油を抜きに考えられないだろう。
そして、その大生産国がマレーシアなのである。なかでもサバ、サラワク州というボルネオの地が非常に多い。
前回も熱帯雨林のど真ん中を焼き払って農園開設を進めている写真を掲載したが、それが広がるとどうなるか。
ムルからミリへ飛ぶと、突然、下界の森林が途切れたと思うと、広大な農園が空から目に入った。
油ヤシのプランテーションである。
少し拡大気味に見ると、農園の中はうずを巻いたような文様があった。油ヤシを植えた筋である。
こんな光景が珍しくない。すでにボルネオは全土が油ヤシ・プランテーションになっている、と思うほどだ。わずかに森林が残っているところは急峻な山岳地帯と国立公園・保護区のみ。一応、緑に覆われていても、林道が縦横に入り、スカスカの森になっているところが多い。
ボルネオは熱帯雨林に覆われた島と思うと、肩すかしをくらう。ボルネオは油ヤシ農園の島である。
これは、ミリの街の高台から見た景色。地平線まで油ヤシ農園? と思わせた。
いまや熱帯雨林の研究者が、油ヤシ園内の生態系を無視できないのも、これほどの規模になったからであろう。
そこで、、肝心の農園に押しかけてみた。広大な敷地をトラックが走っていた。
なんだか古生代のシダ類の森を想像するような景観である。
間にトラクターが入る。
そして、これが油ヤシの実。赤く熟すと、非常に油成分の含有率が高い。
果肉だけでなく、中の種子の核からも油が採れる。
ただし、収穫後はすぐに分離精製しないと変質してしまう。そのため近くに工場が必要となり、また工場周辺にプラントを稼働させるだけの油ヤシの実がないといけない。おかげで、大規模化が進んでいる。
マレーシア政府は、この油ヤシを植えることを「緑化」と呼ぶ。森林は減っていない、改変しているだけだ、と。
なんだか、低質広葉樹林を伐採して、スギやヒノキなど有用樹種に変えた拡大造林を思い出させる。工場の大規模化も、今の日本の林業を連想させる。
しかし、油ヤシが整然と植えられた農園の生物多様性は、天然の熱帯雨林に比べて確実に低い。林業でなく農業なので、農薬や肥料もまく。ヤシそのものも10年くらいで植え換え、回転が早い。木材より有効な資源である。おそらく政府も、木材輸出は今後縮小して、ヤシ油生産が主流になると捉えているのだろう。
そして、農園を開いた村は、物質的に豊かになっているのである。
これが曲者だ……。
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風が吹けば桶屋がもうかる。
水環境を守るためには石鹸への転向は欠かせない。
でも石鹸を作るのにはヤシ油が必要。
ヤシ油を作るのにボルネオの森が伐り開かれる。
ボルネオの森が伐り開かれると熱帯雨林の生物多様性が
損なわれる。
答えはどこに?
答えは無くても落としどころはきっとありますよね。
投稿: スポット | 2010/08/07 12:39
もっと突っ込めば、石鹸だって水を汚すし、ヤシ油がないと美味しいケーキが作れないし、動物性油脂ばかりとっていたら成人病になるかもしれない。石油燃料とバイオディーゼルのどちらが環境に優しい?
また油ヤシの農園つくった村人は、豊かになって教育も受けて、病気になっても助かる確率が高まっています。
単純な反対は、世界を見る目を狭めます。
投稿: 田中淳夫 | 2010/08/08 08:43