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森と林業の本

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2010/08/03

菅首相の「森林からのニッポン再生」論

ちょっと、ボルネオ話は小休憩。

私がまだ帰国する前だが、菅直人首相は、7月30日の記者会見で、日本の成長政略として林業を取り上げたそうだ。そして熱く、林業の復興が雇用を生み出し、地域再生にも結びつくと語った、らしい。
また国会冒頭の田中康夫・新党日本党首の代表質問でも、林業再生問題に突っ込んだ質問をしていた。

少なくても、与党内では、林業は注目すべき政策になろうとしている。これで参議院選挙敗北からの転換を狙っているのかもしれない。

これをもって菅首相の『森林からのニッポン再生』だ、と持ち上げたい(^^;)。

ところで、その中身だ。林業を復活させる方策として、強く主張しているのは、林道・作業道の開設だ。ドイツの10分の1、20分の1しかない林業の生産効率を上げるためには、高性能林業機械(ハーベスタという名称まで出している。やはり、日吉町で自ら乗ったからか?)を入れるための作業道が欠かせないというのである

まあ、ツッコミどころはいっぱいあるのだが、足を引っ張るつもりはない。たしかに今日本の林業で一番足りないものは、と言えばハードでは作業道だろう。どんな作業をするにも、道は基本だ。伐採搬出だけでなく、育林を考えても、現代の林業は車両が必要である。だから、一義的には賛成する

しかし、ねえ。林道・作業道をどんどん入れるために特別枠で予算をつける、と言っても、それで道が入れられるだろうか。

私の感じるのは、急な山林に効率的な道をつける(それもコストを考えながら)のは、特殊な技能と知識が必要な技である。そして、技のない人が道をつけようとすると、とてつもない失敗をしでかす。

日本各地の大規模伐採地では、下手な道の入れ方が森林土壌を破壊し、取り返しのつかない荒廃を招いている。伐採だけが悪いのではない。たしかに木が一本も残らないような皆伐地はイメージが悪いが、ていねいな施業を行えば、崩壊は最小限に抑えられる。再造林も必要だが、天然更新のように、自然にまかせても森林が復活させることも可能だ。

しかし、土壌をかき回す道づくりは、失敗すると、そこに草も生えないし土壌流出・斜面崩落を引き起こす。もっとも危険な作業と思う。

つまり、全国的に作業道の開設を行うというのなら、まず作業道づくりの技術者を養成しないと危険なのだ。施業に則したルートの設定から、地質の読み方、地盤の削り方、土砂の積み上げ方、排水路など、細かな技術がないと、トンデモ道づくりになる。平地の道路建設をしていたような建設土木業者に作らせたら雇用対策になる、と短慮してもらいたくない。
この際、大橋式がいいか、四万十式がいいか、なんてレベルではなく、基本を学ぶ必要がある。

かつて、私は鹿児島大学の林業技術者養成講座に参加したが、その中で作業道づくりは大きなテーマだった。こうした講座を全国的に展開して、また練習させてから、本当の現場に向かわせるべきだ。それこそ、コンクリートから人へ、である。ハードの整備の必要も否定はしないが、それをすれば林業が復活すると単純に言えるほど甘くない。そして、それ以前にハードを整備するにもソフトが必要なのだ。

さもないと、作業道の開設が、日本全国の山をズタズタにして、林業の効率を上げるどころか大破壊を押し進めることになりかねない

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政策・行政関係」カテゴリの記事

コメント

21年度から作業道、林道等の予算が付き数千mの道を作りました。設計は委託、施工は建設業者です
負担金も無く、作りたかった場所に出来たことで森林所有者は喜んでいます
ただ、こうした道は作る場所によっては、言われるとおり森林崩壊を招きます
道を作れば水が集まり、崩壊する可能性が増えます
土砂崩れだけだといいのですが、死者でも出れば大変ですね。人災です
その後砂防やスリットダムなどが作られ、結局税金が使われる事態も予想されます
作る場所、傾斜や地質など知識がないと怖くて作れません
また、今まで便利が悪かった山も道が出来ることで、資産価値も増え、売買の対象となり伐採⇒放棄ということも考えられます
数年後、こうした話が話題になっているでしょうね!

 田中様、ご無沙汰をしています。
 常日頃より当ブログの内容を話題に使わせていただいており、ありがたく思っています。
 実は、本日林家とこの内容と同じ話題で話をしていたところです。
 森林組合をはじめ事業体中心の施策で、林家の立ち位置が見えていないことと、作業路開設の経験をつんでいくには相当の場所をやって、道が作れて行くのだということを話していました。
 特に、失敗をしてその経験が次の作業現場で生かされていくこと、行政はその失敗をしないように指導していく必要があるだろうことを話していました。
 ただ、林家サイドは失敗した現場をなかなか公にしてくれないですから・・・。
 当方の手段としては、ここ何年かの間に新設された現場で、実際の作業員やコレからやろうとする人が意見交換会(ダメダシの会)などを繰り返していくのがいいだろうと思っています。ダメダシ覚悟で現場を提供してくれる林家、いないかな?
 小さい町や村ならば、みんな知り合いでしょうから楽しくできる気もします。

全く同感です。菅総理の林業に対する認識には、一応の賛同はしますが、一抹の不安も感じています。
私自身、あるモデル事業の現場に入り、ただでさえ粗雑な作業道を更にフォワーダで荒らしたことがあります。
あの時の球磨川支流の濁水は、私が原因です。(泣)

なんか、凄い告白まで出た……(^^;)。

現場の人は、みんな、薄々感じていることでしょう。作業道を入れるのはいいけど、誰がどのように入れるんだよ、と。

菅直人総理は、付け刃の知識で政策を作っている(悪い意味ではない。政治家一個人が、すべての分野に詳しくなれるわけないから、聞きかじりの情報の中からエッセンスを読み取れればよい。)のでしょうが、それを実行に移すに当たっては、よほど現場に精通した人が参加して政策を実行可能な形に揉まないといけない。
でもGMな官僚に期待できるだろうか……。

本当に機械化に則した林業技術の学ぶ場を全国に設ける必要があります。予算を、直接道づくりに関する経費だけに当てると破壊的な道となり危険です。

こんばんは

私は「○haの皆伐地」と言われてもピンとこない素人ですが、かつては山歩きを趣味としていた事もあり、一本の踏み跡が洗掘されて、深さ1m程の塹壕状態を見たこともありますし、開設されて数年の簡易林道が、グランドキャニオンばりの様子を呈しているのも見ているので、安易に「作業道をつければ良いぢゃん」と発言するのは、控えてます。

土木事業者に予備知識なしに「道をつくれ」と命じれば、山を荒らすだけに終る可能性は非常に高いと思いますが、先に上げた様な事例を見せれば、逆に森林事業者が気付かなかったor知ら無かった解決例が出て来るんじゃないかと思うのですが、如何でしょうか。
私が知るとある零細土木事業者は、林業では食えないからと、作業道作りで鍛えた土木機械操作術と経験を生かして、元請けと対等に渡り合っている方がいます。林業界から土木界へ流出した人材も多いんじゃないかな。

 だいたい概要はまとまってきているようですから、現場でがんばっていくことの積み重ねになるのでしょう。
 
 なるべく多くの人と現地で話をしたり、作業を確認したりしていくようにします。

概して土木業者の道づくりは、林業家の林道・作業道よりていねいだと言われますね。
でも、山の地質や地形を熟知していないと、舗装しない作業道では危険になるでしょう。また使い勝手が悪くなる。

道づくり技術をもっと研究し、普及する必要かあります。

>あの時の球磨川支流の濁水は、私が原因です。(泣)

とある集まりで、中村さんがその話と写真を披露された時、会場に流れた不穏な空気といったら・・・・

私は興味深くウォッチングさせていただきましたけど

すみません。上の投稿は私です。

あえて告白・公開された中村さんの勇気を讃えます。

これまで伐採は悪、林道は自然破壊、というステロタイプな自然保護関係者の意見に対し、そうではない、日本の森林は繁りすぎていて間伐が必要だ、そのためには道が必要だ、と言い続けて、それなりに理解が広がりつつある昨今ですが、現状の大面積皆伐や野放図な作業道開削を見ると、また先祖返りしそうな予感がします。

日本の森は、もうダメかもしれない

……と聞いたら、どう思います?

KoKo 様へ
おお、お久し振りですね♪私は今、水俣に居ます。またお会いしたいですね。

田中淳夫 様へ
過分なお言葉、恐れ入ります。m(__)m
実体験を披露するのが、現場の人間の使命だと、私は考えております。

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