大林業という概念
林業とは何か。
なんて、根源的な問いかけをするほど青臭くないつもりだが、意外とわかりにくい。
かつて自著では、林業を、「森林育成業」と「木材利用業」に分けて考えようと提案した。
つまり、一般に林業というと、山に木を植えて育てる育成を思い浮かべる人と、育った木を伐採搬出する仕事を想像する人が混ざっている。この混乱が林業理解を間違わせる元になる……という意である。木を育てるまでと、木を利用する分野に分けるのだ。以前は利用を林産業という言葉で表したのだが、今や影が薄くなり消滅したかのようだ。むしろ木材産業という言い方がされる。
実際は、もっと細分するべきかもしれない。山主が森林育成するのは同じようだが、意識の中では治山や環境育成業と木材資源育成業に分かれる。その後も伐採する素材生産業と、製材業は別世界。そして製材と集成材、合板業界はそれぞれ別業界のように振る舞う。またチップを取り扱う製紙業も別枠だ。
加えて、外材業界も別に存在する。同じ木材を扱うのに、林業には入れてもらっていない。
たしかに理解するためには、細分して見るのは有効だと思う。実際、各業は対立していることが多い。いかに安く買いたたくか、高く売り飛ばすか、腹の探り合いみたいなところがある。それらを十把一絡げに「林業」とまとめるには無理がある。
しかし、林業の革新を考える上では、この細分化は困る。とくきに林政に関しては、この分化が縦割りを生み出し、お役所的産業になってしまった。
本当は、林業の要は木材を売る(商品化する)ことのはずなのに、それが見えなくなる。育てることが目的化したり、丸太や製材そのものが求められている商品と勘違いする。木材を売るには、最終商品を考えないといけないのに、その姿を見ないのだ。
実は、この細分化に陥っているのは、業界人だけでなく、研究者もそうである。林学と一括りするほど森づくりと木材流通を同時に把握している学者は少ない。さらに役人も細分して縦割り行政をしているし、政治家に至っては細分業界のことさえ知らない人が多い。
しかし、森林ビジネスの全体像をつかみ発展させるためには、分化させるのではなく、むしろ全体の流れを俯瞰することが大切だ。
そこで森林育成から伐採搬出、製材加工、そして木材商品加工までまとめた区分けをしたい。いわば大林業構想である。山の木が、家になる、家具になるまで一つの産業として俯瞰してこそ、本当に実のなる政策も作れるというものだ。
※ もっとよい言葉はないだろうか。大林業がおかしければ、拡大林業。汎林業。森林材業。グレート林業(笑)。
俗に言う川上-川中、川下をまとめて一つの産業と見なして政策を考える。外材の扱いから、国産林業と外国林業の融合も考えるべきだ。すると貿易分野まで広げて輸入木材と国産材輸出も一元的に扱うのである。
むしろ、治山とか環境、里山、生物多様性なんぞは切り離す。そんなもの研究したり政策したい人は、大林業に入れてやんない(笑)。あくまで大林業は、産業と経済の概念なのである。
自治体の役所は、林業課ではなく大林業課と名付ける(^o^)。林野庁も大林野産業庁である。当然、建設業界にも口を出せるようになる。すると山村振興や木の街づくりまで含めることができるのである。
こうした意識改革を業界内に持ち込みたい。マネジメントでいう「顧客の創造」の前に、「業界の創造」を行うことが、真の新産業の創出につながるのではなかろうか。
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以前から大変気になっていたことを書いていただけました。その通り、「林産業の大連立」、「大林業」構想こそ、これから10年の大きなテーマだと思ってます。私たちNPO法人でも、大林業構想を実現すべく活動を行ってまいります。
この記事に、なにか、大きなよりどころを手に入れた気がしております。
投稿: tets | 2010/08/11 07:56
ん~。
複雑な思い、想いが・・・・。
投稿: 鈴木浩之 | 2010/08/11 08:00
林業とは何かと聞かれたら、「森林管理の手段のひとつ」と答えますね。私が言うと意外に思われるかもしれませんが。
ご指摘の「治山とか環境、里山、生物多様性なんぞ」ですが、個人的にはそれは対立軸ではなくて、共存すべきことだと思っています。持続的な森林管理を実現させるためのツールとしては同等であるという考え方ですね。まあ、カルトな人たちとは相容れませんけど。
経済活動である以上利益を出さなければならないのはあたりまえですが、その結果が適切な森林管理に結びつかなければ続かない。続かない経済活動は産業とは呼べません。
ところで、
>森林ビジネスの全体像をつかみ発展させるため
>には、分化させるのではなく、むしろ全体の流
>れを俯瞰することが大切
については全く同感で、利益体質に繋がっていない根本の原因でしょうね。つまりユニバーサリストがいない。いや、ローカルでは存在しますが、マスではいない。
そのヒントを学ぶのに良いフォレスターが見つかったので、来週から渡欧してきます。機械化や作業道作りを勉強するのは、あくまで「ついで」です。
投稿: kao | 2010/08/11 09:28
この項目のカテゴリーは、「政策・行政関係」にしています。
つまり林業そのものを定義づけるのに、加工・住宅建設まで含めるとか、環境分野は排除する、という発想ではなく、森林経営や製材所経営、さらに政策立案上、「大林業」という概念を持とうというものです。
考えてみれば、ほかの業界なら当たり前のことです。製鉄所は、世界各国の鉄鉱山の状況を見つつ、鋼材販売先の景気も見ているのだから。
ぜひヨーロッパの林業界では、どのように展開しているか教えてください。
投稿: 田中淳夫 | 2010/08/11 10:00
田中さん、こんにちわ
>細分化に陥っているのは、業界人だけでなく、研究者もそう
耳が痛いですね (^^ゞ・・・「研究者も」と言うよりは、研究者こそ最も細分化されてる業種だと認識してますが・・・ジェネラリストが居ない・・・(__;)
>全体の流れを俯瞰することが大切
小惑星まで往復してきた「はやぶさ」。当たり前のことなんですが、このプロジェクトは、エンジンなどハードの開発者と、軌道計算等航行担当者という、うーんと離れた分野間のコラボがあればこそ成功したわけで、「大林業」の中身なんぞ、それに比べたら近いはず・・・
>治山とか環境、里山、生物多様性なんぞは切り離す
切り離したら、ほとんど残らないんですけど・・・(^^ゞ
土佐の林家のおっちゃんは口は悪いけど、研究者に意見ぶつけて下さるので良い勉強になります。京都や奈良の林家さんは、研究者なんかと(あまり)口きいて下さらない・・・・(__;)
投稿: とり | 2010/08/11 12:23
林業課ではなく大林業課・・・・
林野庁ではなく大林野産業庁・・・。
大林道整備課長・・いや、林道大整備課長?
林道整備大課長?
それはさておき、名前っては大事かも。
印象変わりますもん。
投稿: 熊(♀) | 2010/08/11 19:31
大林業の設定には大賛成です。
>むしろ、治山とか環境、里山、生物多様性なんぞは切り離す。そんなもの研究したり政策したい人は、大林業に入れてやんない(笑)。あくまで大林業は、産業と経済の概念なのである。
私は森づくりを行っていますが、経済性はないので、大林業の隣接業界として「森林業」を実践しますね。今日も働くアウトドアの合宿中で、現在14人も宿舎にいるのですが、大変楽しい日々です。昼間はきっちりつる切りをして、森づくりは着々と進行中。でも、どこからもカネを儲けることはないので、国土緑化推進機構や県の緑化推進委員会、県庁(森林環境税)などをいただいてやっております。
この合宿の楽しい空気が、カネには換算できないし、経験者にしかわからないので、大林業に入らないのが残念です。
投稿: 沢畑 | 2010/08/11 21:04
垂直林業というのはどうでしょうか?
投稿: | 2010/08/11 21:05
森林整備と素材生産を生業とする者ですが、毎回大変興味深く読ませていただいております。
机の上で林業を考える御役人様が様々な補助金をぶら下げて自立できない林業屋を増やしている限り林業に未来はないと思う、最近は補助金目当ての土建屋さんが俄か林業屋になりすましていますし。
補助事業を行わずに、僅かに黒字を出している林業屋は、補助事業の申請書類を作るのが上手な補助金太りしている林業屋に絶対に仕事は負けはしない、プロ意識が全く違いますからね。
しかし、補助金の使い方を間違うと将来を担う林業屋は育ってはいかないだろうと感じる。
とにかく補助金がなくても経済活動を行える林業屋になることが第一で、それが出来なければ「大林業」を語ることは無理です。
結局ただの税金泥棒に成り下がるだけですから。
投稿: 林家 森平 | 2010/08/11 21:16
そうか、大課長とか大部長、大長官、大大臣も登場しそうだ(笑)。
この概念は、何も一人の人物、一つの会社に、森づくりも、伐出も、製材、住宅建築まで背負わせようという発想ではありません。ようは大きな業界意識を持つことで、反発するのではなく協力する、コラボする環境づくりを行えないかという思いです。
そのためのコーディネーターを設けるか、垂直業界協議会・組合を立ち上げるか、方法はいろいろ考えられます。
その結果として、林家森平さんのいうように、補助金抜きでも成り立つ林業の一歩になるでしょう。
一方で、森林業の概念も育てることに異論ありません。環境など公益的機能を中心に据えた森づくり業界もあり得る。こちらには福祉や医療機能、さらに教育、研究を包含させることができます。これは公林業かもしれません。
この二つの業界は隣り合い、一部は重なり合うでしょう。
そして、各々の概念の業界に必要な施策が推進されれば、そこに大きな「日本の森」業界が誕生するのではと期待します。
投稿: 田中淳夫 | 2010/08/11 23:38