チェンソーが山村人口を減らした?
山村は、どれほどの人口を抱えることができるか考えると、否応なく林業に目を向けなくてはならない。では、林業と山村人口の関係はどうなっているだろうか。
『森林からのニッポン再生』で、私は「かつての山村は過密だった」ことを記した。戦争直後は、町からの疎開者を多く抱えたうえに出産数が高く、山村は人にあふれていたのだ。町に出ようと思っても、焼け野原の都市部に、さほどの雇用吸収力はなく、逆に山には林業バブルのおかげで伐採から造林まで多くの働く場があったからである。
だが、そこに大きな技術革新が起きる。チェンソーの登場だ。
チェンソーは、手ノコの10倍の効率で木を伐れるという。ということは、伐採仕事に関しては、10分の1の人数で同じ仕事ができることを意味する。単純に言えば、今までどおりの雇用を続けるには仕事量を10倍に増やさねばならない。あるいは雇用者を10分の1に減っても同じ生産量を確保できるということだ。
また一人で10倍の仕事量をこなす計算だから、一人当たりの利益も10倍に理論上はなるはずだ。しかし、山村住民の生活レベルも上がってきた。かつての自給自足的生活ではなくなるからお金も必要になる。仮に生活レベルが2倍に上がったとしたら、利益は半分の5倍に留まることになる。その点からも、扶養数は少なくなる。
林業の仕事量は、簡単には増やせない。森林資源が有限だからだすると労働人口は減らさざるを得ない。結果的に山村の扶養人口数は減少する。
※余った労働力をどこに回したのか。かつては復興してきた都市部への流出させた。言い換えると、山村は都市への労働力供給基地になった。しかし、山村そのものは適正人口へと落ち着かせる過程だったろう。だが、その後は適正人口を割り込んで過疎化へと進んでいる。
今や林業現場では、高性能林業機械を導入して、さらに効率をアップさせる方向に進んでいる。ただ仕事量は、そんなに増やせない。森林資源量の限界のほか、木材需要も今後の日本はそんなに伸びないと思われるからだ。
一方で、日本人の生活レベルは、戦後すぐの山村住民とは比べようもないほど高まった。それと同じ生活を林業従事者も送るためには、効率アップによって増えた収入の多くを当てねばなるまい。
このように考えていくと、林業人口は、今後もあまり増えないのではないか。言い換えると、山村人口を支える仕事に林業は、さほど期待できないのではないか。……こんな結論に導かれてしまうのである。
もし山村の維持を目的とするなら、林業振興に頼る発想は危険かもしれない。
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某役所の友人の教えてくれたデータです。
過疎地域の就業人口割合
農業 全国 4.4% 過疎地域 14.7%
林業 全国 0.1% 過疎地域 0.5%
漁業 全国 0.4% 過疎地域 2.0%
建設業 全国 8.8% 過疎地域 11.2%
サービス業 全国 28.5% 過疎地域 26.2%
卸売・小売・飲食店 全国 23.2% 過疎地域 19.2%
製造業 全国 17.3% 過疎地域 15.1%
公務 全国 3.4% 過疎地域 4.4%
過疎地域なので山村とは微妙に違いますが、実情はそんなに違わないでしょう。林業就業者が倍になってもたかが知れており、仮にチェーンソウを廃止して10倍になっても建設業はおろか、農業にも及びません(公務員と同程度)。
山村の「人口維持」のための直接手段として、林業を過大評価してはいけないというのは、田中さんの言うとおりだと思います。
もちろん、基幹産業として自立させることの意味は別に考えるべきですが。
投稿: おく | 2010/10/01 00:33
現在なら、そんなものでしょうね。過疎地でも一番多いのは勤め人でしょうから。
ただ戦後すぐなら、かなり農林業の比率は高かったと思いますよ。集落の働き手はほとんど林業関係だというケースも聞きます。でも、生産性は低かっただろうな。
投稿: 田中淳夫 | 2010/10/02 00:08