ナラ枯れは、なぜ問題?
小さな記事だが、ナラ枯れについて触れる機会があった。
そこで「ナラ枯れ」で検索すると、なんと私がブログに記事を書いていた。2006年である。へえ、俺って先見性があるな、と感心した次第(~_~;)。アホ
自分の記事を読みながら、別の記事を書くというのは,ちょっと恥ずかしい。
ま、それはともかく、今年はナラ枯れが大変な話題になっている。ナラ類(コナラ、クヌギ、ミズナラ、カシワ……)などがどんどん枯れているのだ。その原因は、カシノナガキクイムシが媒介する糸状菌だとされている。このムシや菌は、在来種らしい。その点、マツクイムシ(マツノザイセンチュウ)が、外来種であるのと違う。
すると、だんだんわからなくなってきたのだ。なぜ、ナラ枯れがいけないのかが。
今のところ、カシノナガキクイムシが穿孔を開けてもぐり込み、菌を移して枯らすのは、直径10センチ以上のナラ類だとされている。この太さがないと、産卵して繁殖できないからだ。
これまでは人間がナラ類を早めに伐採して利用していたから、あまり増えなかった。ところが、戦後は里山の放棄が進み、ナラ類も生長して太くなった。だからカシナガが活躍し始めたのだ……このように説明されている。
で。何が問題?
今、里山の植生は、遷移が進んできたことが問題となっている。放置により落葉広葉樹(主にナラ類)が大木化し、そのため林床に光が入らす稚樹が育たない。代わって照葉樹が伸びてきている……。結果的に生態系が変わってきたと言われているのだ。
森林ボランティアも、大木を伐採せず(できず?)、逆に低木類、稚樹を刈っているから、全然里山再生になっていなかったりする……。
ならば、ナラ枯れで大木が枯れた方が、いいんじゃない?
ナラの大木が枯れた方が、林内が明るくなる。そうすると照葉樹よりも落葉樹のドングリが芽吹くだろう。落葉樹の雑木林が維持されるではないか。もちろん若いナラ類は枯れないから、完全にナラ類が排除されることもない。
これって、生態系の妙かもしれないよ。
しかも、カシナガにしろ糸状菌にしろ、在来種なら遺伝子汚染を叫ばなくてもいいし。
だいたい、防除することなんか、不可能だ。里山は広すぎるし、ナラ類も多すぎる。マツのように経済的価値も高くない。景観は若干あるが、マツほど価値はないだろう。
まあ、枯れた木をシコシコ処分するだけでいいのではないか。
……このように考えると、ナラ枯れが問題だ、という記事は書きにくくなったのである。誰か、ナラ枯れの問題点を教えてほしい。
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短期的にいえば、絶滅はしないにせよ次の更新までに空白期間が出来るので、そこで何が起こるかわからないと言ったとこでしょうか。
ナラ枯れの場合劇的に且つ一辺にナラの大径木を枯らしてしまうので、場所によってはササ等の侵入を許してしまい更新が難しくなるかもしれません。
また、熊森の言う様(正しいわけではない)にクマやその他の動物の食料源が減るのも確かです。
また、文化、歴史的に重要視される木が被害にあってしまう事も考えられます(諸行無常とたぶん萌芽する?ので生命の力強さを知るには良いですけど)。
何にせよ劇的なのがよくないのだと思います。
投稿: B3 | 2010/11/23 00:19
個人的には、自然の循環であり放置しておけば天然更新する森を観察できるのでいいと思います。
が、京都では京都伝統文化の森推進協議会が今年8月には「京都三山の危機」というパンフレットを出版しており、京都の景観が、伊勢湾台風以来放置した事で遷移が進んで現在のシイ林になった、と解説されています。そのため、今後は落葉広葉樹林にするのがいいのではないかと提案しております。
ご存知のように、小椋純一著「人と景観の歴史」(1992)雄山閣には、すでに昭和の初期の東山中央部のシイ林の広がりと昭和54年のシイ林の広がりが比較された図(p.7)があり、知恩院から清水寺に掛けてシイ林が拡大している事が示されています。
つまり、30年も前からシイ林が東山に広がっていましたが、ここ4、5年程まえからカシナガキクイムシによる被害が目立ち始めました。恐らく、シイが生長して、樹齢が50年以上となったのでカシナガの絶好の繁殖木を提供しているのでしょう。
したがって、見捨てられた里山からの警告であると考えて、ドンドン利用すればいいのですが、大木のシイやコナラの伐採が費用がかかり、薪にするのも人手がいりますし、薪の利用が激減したのもあり、ナラ枯れ木を伐採して燻蒸する作業は専門業者に補助金が流れているのが現状です。燻蒸しても被害はドンドン広がっていますし、燻蒸したあとの被害木が林内に放置されています。搬出には補助金が出ないためです。
京都市もようやく重い腰を上げまして、昨年から森林インストラクターやボランテイアを集めて、清水山のナラ枯れのコナラを薪にして、東山にあるハイアットリージェンシーで使用してもらっています。
私も昨年の12月と今年2月に、豊国神社境内のナラ枯れのコナラを川上村のヤマツ産業に依頼して薪にして頂き、学生達と搬出作業をして、1束800円程度でハイアットリージェンシーで購入して頂き燃料として利用して頂きました。
したがって、今後は里山管理としては大径木のコナラやシイを伐採して薪として利用するのがいいでしょう。ただし、伐採に費用がかかることと、搬出にも費用がかかることが課題です。
わたしは薪割りは業者に依頼して、搬出は学生やボランテイアで無料で搬出作業すれば薪の値段が適正な価格で販売できると思います。
今年の12月には、京都伝統文化の森推進協議会では、私が昨年実施したようにボランテイアを募集して3日間かけて薪作りをしたあと、100名程度でバケツリレーで搬出する予定です。
幸い亀岡に住む陶芸家が500束の薪を引き取ってくれるそうです。また、市内の銭湯等も利用してくれそうです。
私はこれを京都方式として全国で広めたいと思いますが、田中さんも参加しませんか?12月の第3週当りに計画されています。
投稿: 高桑進 | 2010/11/23 06:30
やはり大木が枯れるだけなら、通常の攪乱の範囲内だと思います。自然界の循環の一部でしょうね。
問題になるのは、やはり景観か。でもシイは常緑だから枯れた後に落葉樹が増えたら、明るい森になるかも……。
里山の産物として、今後期待できるのは薪というのは、私も感じているところです。ただ伐採搬出の経費と、流通網づくりが難しい。また量もそんなに出ないでしょう。決定打にはなりにくそうですね。
投稿: 田中淳夫 | 2010/11/23 09:28
田中様
まあ、色々課題はあるでしょうが,千里の道も一歩からでやりましょう。
決定打は出したら、大企業に食われますからね(笑)
投稿: 高桑進 | 2010/11/23 13:11
カシナガの被害が拡大し深刻な状況になってますが、原因は雑木林の循環型の木材生産が滞っている事にあると思います。
幸いな事に僕の地域にはチップ工場が材を引き受けてくれますので枯損状況が深刻でなければ何とか採算が合いますが、皆伐事業には補助金が一切出ませんので枯損が酷い山に立木代金を支払ってまで搬出するのは無理があります。
マツ枯れ被害の時は補助事業で薬剤処理をセッセト行ったのですが結局、松林は守れなかった訳で残った松がまだポツポツと枯れて混生していたナラの木が今枯れ始めて悲惨な状況になっています。
森林所有者の意識ですが、年代が60歳を超える所有者は雑木林が深刻になる前に皆伐して天然更新を考えますが、50歳以下の所有者ですと所有林が何処にあってどんな状況になっているか知らない方が多く森林の荒廃が進んでいる。
国有林においては、雑木林の立木販売をするシステムがありませんと門前払いされていますから大切の国民の財産はカシナガの餌場になりつつあります。
一般の方で「立木に天然のナメコが沢山出ていました」とコンビニ袋一杯手に携えて山から下りてくるのに出合いましたが、枯木はいつ何時枝が落ちてくるか解かりませんから危険ですよって話をしたら青ざめていました。
里山と呼ばれる人の出入りの多い森林の雑木林については事故が起こる前に皆伐して天然更新するのが望ましいと思います。
枯損状況が深刻でなければ森林所有者に立木代金を支払っても採算の取れる木材業者に任せるのが一番コストがかからないと思いますが、木材業者もリスクの少ない加速化事業に事業展開しているので暇な時でないと雑木林の伐採まで手が廻らない。
簡単に思い当たる雑木林の問題を書いてみましたが、マツ枯れの被害が起こる前は製紙会社にパルプ材の原木として供給していたのが、被害が拡大すると海外からの輸入に替わり廃業する木材業者が出ました。
また同じような事が起きないか心配しています。
投稿: 林家森平 | 2010/11/24 01:55
詳しい状況をありがとうございました。
なるほど、チップとしての需要をつかめれば可能性があるか。もしれませんね。でも、皆伐にしなければ採算が合わないのでは、ちょっと無理……。
私は、列状皆伐(?_?)できないかと思っているんですけどね。10m幅くらいで伐採する。おそらく5年で、見た目は雑木林にもどるから、苦情も出にくいかと……。もっとも、それも所有者のOKを取らないといけないわけで、ハードルは高そう。
投稿: 田中淳夫 | 2010/11/24 15:40
「農耕と園芸」の最新号に、椎茸原木とカシナガの関連記事が掲載されていますよ!!
投稿: hide | 2010/11/24 18:49
「農耕と園芸」ですか。渋い雑誌ですね(笑)。
探してみますが、内容簡単に教えてください。
投稿: 田中淳夫 | 2010/11/24 23:01
ナラ枯れは自然淘汰の一種ではないかと個人的には思っています(-.-;)知り合いに話したら、同意してもらえませんでしたけど(ToT)
農耕と園芸の掲載内容ですが、ナラ枯れ被害木はキノコの菌床栽培・原木栽培にも使用できるという研究発表です。
投稿: hide | 2010/11/24 23:10
そうか、被害木でシイタケ栽培できるんだ。
チップにして菌床つくるか、枝など細いところを原木にして、コマいっぱい打って、ホームセンターで高く売れないか(笑)。
私も、余裕ができたらシイタケ原木用のコナラを伐りにいかねば。
投稿: 田中淳夫 | 2010/11/25 00:48