1400年間の人力林業
昨日は木馬を紹介したとおり、古い林業を追う仕事をしている。簡単に言えば「伝統技術の記録・保存」というやつだ。
私はこういうのは嫌いで、役立たない技術なんか消えてしまえ!派なのだが(笑)、仕事と受けてしまったからには、やらねばならぬ。
が、担当者がどうにも……なのである。「林業技術を記録するって、どの時代ですか」と幾度となく尋ねるのだが「全部」という。全部なら現代も入りますよね、と念押しすると、戸惑っている(~_~;)。ようするに民俗学馬鹿なのだが、現代林業は民俗的に魅力がないらしい。
しかし、それならば、木馬を伝統技術と言ってよいかどうかさえ怪しい。登場したのが明治中期で発明者ははっきりしないが、昭和30年代には消えてしまうのだから。つまり使われたのは50年程度の間なのだ。そのことも指摘するのだが、では止めましょう、とは言わない。
伐採だって、斧で伐るのか、ノコギリかチェンソーか。チェンソー技術を保存してもよいと思うのだが、それは好まないらしい(-.-)。
ま、こんな調子でどうすりゃいいのよ、と思うのだが、現実問題として記録すると言っても、木馬体験者でさえ、80歳を超えている。これを江戸時代の技術だ明治はどうだと言っても、記録しようがないのである。文献調査では出てこないだろう。
苦肉の策として、私の切り口は……
人力林業と、動力林業の線引きだ。
人力林業とは、ようするに人力を主に使っている林業のこと。斧であれ、ノコギリであれ、人の力による手仕事である。搬出も木馬は人力で行う。それに自然エネルギー系(位置、重力、水力など)と動物系(牛や馬)を加えたもの。
一方で動力林業は、動力機関を使うものである。チェンソーやトラックはもちろん、索道もエンジンが必要だ。森林鉄道、そして高性能林業機械は言うまでもない。
ようするに、人力林業を記録したいんでしょ! とタンカを切ろう(笑)。
この分かれ目が、昭和30年~40年である。ここを境に、チェンソーが登場し、ケーブル張って索道で吊り上げたり、トラック輸送へと代わっていく。それに連れてノコギリによる伐採や木馬や筏流しは消えて行った。
一般の産業界は、それより約100年ばかり前に、すでに動力系が入って産業革命が起きているのに、林業は随分遅れたことになる。
この人力林業は、約1400年続いてきた。石斧まで含めたら何千年にもなるが、産業としての林業は飛鳥時代に生まれたとすると、それから延々と昭和まで続いたのだ。
そして、それが動力林業に切り替わる時代が今から50年ほど前なのである。
そう考えると、かろうじて両方の林業に触れることのできる現代は貴重な時期と言えるだろう。
「林業・林産業」カテゴリの記事
- トランプは森のラストベルトを救うか(2025.03.14)
- 林業機械に林業3原則を植え付けろ!(2025.03.10)
- トランプ、木材にも関税か(2025.03.04)
- 見えないカルテルが、木材価格を下げる(2025.01.13)
- 理想の林業~台湾の公有林がFSC取得(2024.12.27)
伝統技術というよりは、
消えゆく技術の記録の感じなのですね。。
ところで、私は小心者なので、
そ、その担当者の人が
このブログ読んじゃったら?
などと考えてしまうのでありました。
投稿: 熊(♀) | 2011/01/17 07:32
おはようございます!
今日は白銀の世界でした!
ところで、伝統文化とか伝統技術というのは、使われなくなったか使われなくなりつつあるものではないでしょうか。
21世紀に入り10年経過、ようやく人々は伝統文化や技術の良さに気づき始め、復活や継続をしようと立ち上がったというのが現状ではないですか。
私もようやく日本の伝統文化や技術のすごさに目覚めた一人ですが。
投稿: 高桑進 | 2011/01/17 09:01
担当者が読んだら……はっ(x_x)、考えもしなかった(笑)。
まあ、いいや。二度とここと仕事はしないし(~_~;)。
伝統技術が「使われなくなった」ものとしたら、それを復活させたら、伝統じゃなくなりますねえ……。
投稿: 田中淳夫 | 2011/01/17 09:16
なるほどです。人力と動力の境目が、現代なのですね。ところで、伝統技術についてですが、私は、将来復活させる必要に迫られる可能性を視野に入れて、木馬道や筏下りを捉えております。無論、あくまでも極論ですが、石油の枯渇や枯渇せずとも人為的に使用禁止となるのでは?と勝手に推測(妄想?)しています。
投稿: 中村和彦 | 2011/01/17 09:56
木馬や筏流しを、そのまま現代に復活させるのは不可能でしょうが、位置エネルギーの利用や河川による流通など応用できる余地は十分にあると思います。
こうした伝統技術の記録事業も、「何のために」を明確にすると、やる気が出るのですが。なんか、民俗オタクの趣味になってる……(笑)。
投稿: 田中淳夫 | 2011/01/17 10:42
30年前は利用間伐するのに牛で木を引っ張っていたのがブルドーザになり、それからグラップル+フォワーダーと内燃機関を持った林業機械に進化しましたが、相変わらず植林だけは苗木袋を持って唐鍬で植えています(笑)。
倉庫には先祖が使っていた土ソリが二組捨てられずに残っていますが、昔はこの道具で日当が出た位の木材価格だったんですよね~。
投稿: 林家森平 | 2011/01/17 19:31
牛を使っていた経験があるのですか! 貴重だ……。ぜひ、記録したい(^o^)。
たしかに植林を機械化するのは難しいでしょうね。おそらく技術もほとんど代わっていないはず。
投稿: 田中淳夫 | 2011/01/17 21:17