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森と林業と動物の本

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2011/02/14

林業の「発生」

今、内山節の「怯えの時代」(新潮選書)を読んでいる。

実に興味深い論考なのだが、それについての書評&感想は改めて取り組みたい。今日はその中の一部に触れる。

この本は、今世界中が突入している未曾有の時代を語っている。その中に経済史に近い分析も含まれるのだが、内山は、林業を次のように説明している。

林業は山に木があるから発生するのでも、その木を切る労働をする人がいるから生まれるものでもない。木材を流通させる方法がみつかることによって発生するのである

一般に、我々の産業に関する理解は、まず生産があって、余剰物が生まれ、それが流通しだし、小売りが生まれ、消費される……というものだ。つまり生産-流通-消費である。
しかし、それは間違っているというのだ。そうした伝統社会から受け継いできた経済の理解は誤解なのである。

もちろん食料など小集落内だけの取引・経済なら、そういう流れもあるだろうが、実際は、まず流通があり、それによって消費が生み出され、それが生産を刺激するというサイクルを描くのだという。

哲学者が経済学を語っているわけで、これを専門の経済学者がどのように論評するかはわからないが、私はこの見方に賛成する。

私は以前から移動学というものを提唱しているのだが、その中の一分野が流通である。そして移動=流通が全体を規定するという仮説を立てている。これに、ピタリとハマるのだ。

木材をほしい人がいて木材が生産され、運ばれるのではなく、木材を目にして欲しくなるのだ。そして対価が提供されることによって生産が始まる。この対価を資金とするなら、資金の流動こそが生産と消費を規定する。

この単純だが、経済サイクルの概念をひっくり返すと、昨今の林業の姿も違って見えてくるのではなかろうか。まず、木材を動かすこと。そこから林業は始まるのだ

ただし、内山は警告する。農本主義から資本主義、そして金融資本主義へと“発展”した先に行き着いたのが、サブプライム・ローンだったと。このローンは、いわば貧困を証券化して商品にしてしまった。

これまでの流通は、それがモノであろうと資金であろうと、流通することで生産と消費を刺激してきたから循環が成り立った。しかし、貧困の証券取引は何も生み出さない。虚構のバブルの中で名目の金額が膨れ上がるが、それはいつか確実に弾けるものである。

だから木材も流通網の中を転々とさせて儲けてはいけない。確実に消費につながる流通を確保することから林業を始めるべきではないか。

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林業・林産業」カテゴリの記事

コメント

今回のエントリ、非常に興味深いのですが、
現状この業界、そんな議論のだいぶ前の話でつまづいているような。。

極端な話、中央は生産しろだし、地方は山に経済を持ち込むな、だし。

(⌒ー⌒)。 実は、全木を確実に商品化して売り切る理想的な木材流通を描いてみたのだけど、それは現在の日本社会・木材産業界では、絶対に不可能だな、と気づいたところでした。

すいません。源氏名で。
最近、森林や山林や林業や木材などのイベントなどが急激に増えているように思います。
どうも、クリエーター系の香りがして不気味なのです。

いいことなのか、悪いことなのか。

森林林業で確実に利益を上げている企業はあるでしょう。でも、残念ながら山元に利益はほとんど回ってきていない。

消費に繋がる生産と流通を考えていかなければならない。少しづつでも、と思います。

 12月に実家で親父と弟がサクラほか広葉樹を伐っていました。ナメコを作りたくなったのとシイタケ原木を欲しくなったからだそうです。
 一緒に木工屋さんも玉切りしていました。好きな木を持っていくのだそうです。
 
 去年(正確には昨シーズン)伐った木は現在薪として燃やしています。

林業系のイベントが増えているのは、私も感じているところです。また仕掛け人がクリエーター系が目立つのも事実だと思います。
これは、いいことだと思いますよ。林業界に欠けていた人材たちが林業に目を向けだした証拠だから。もちろん、トンチンカンな発想や思い入れもあるだろうけど、門外漢ゆえであり、暖かい目で見てやってください(^o^)。

ただ、本来の流通は、しっかり生産現場に還元するものです。さもないと貧困証券と同じになる。その点を理解して、しっかり組み立てた流通システムを確立してほしいものです。

「流通がはじめにあって、経済が・・・は」とても、重要なことだと思います。

鳥居をキットで販売するという発想がなかったら、鳥居専門店は成り立たなかったからです。初めは、運送屋さんにとんでもない金額を提示されましたが、数を定期的に出すことがわかっていただくと運送料もこなれてきました。今では、トレーラーで運ぶこともできます。

インターネット販売を始めて、気づいたことですが、一般のお客様は、送料を気にしていますが、決して、送料を無料にしてくれと言いません。インターネットでは、送料が必ず発生するんだということを学んでいるからです。

インターネットの世界は、必要なもの、欲しいものが目の前にあります。すぐれた検索機能です。木材だったら流通のシステムさえ、構築すれば、ビジネス展開は出来ると私は思っています。

ニッチなビジネスで実績を作り、より多くの人が求める製品開発に結びつける戦略なのですが・・・。まだまだ、課題は多いです(笑)

流通には、物の輸送だけでなく、情報の伝達も含むんです。とくにニーズとか、ノウハウのようなものを運ぶことによって、新たな生産を喚起する。検索機能も、流通の一つでしょう。

そう思うと、送料というのは、非常に価値の高いものなんですね。鳥居輸送のノウハウを握り理論化したら、木材流通のエキスパートになれますよ(笑)。

山の木の利用の向上を考える上で問題なのは、チップの海外輸入を物理的に減らすことではないでしょうか?

関税をかけるとか、50%以上は国産材利用を義務付けるとか、何とかならないものかと思います。

どうして遠くから運ばれてくるチップが国内のチップより安いんでしょう??

日本の山・林業家はもう瀕死の状態です。林業から足を洗ったほうがいいのでしょうか? 生活が苦しいです・・

たしかにチップは8割方輸入もので、それを国産チップに変えるのも大切なのですが、林業的にはあまり期待しない方がよいと思います。針葉樹チップはだぶつき気味だそうですし。

なお輸入チップの方が高いと思いますよ。国産チップの価格は安く抑えられています。やはり量と安定供給が課題のようです。チップは林家収入にはあまり寄与しないでしょう。

林業の改革案はいろいろありますが、一個人としてできることは限られていますね。副業経営を考えざるを得ないでしょうか……。

>チップは林家収入にはあまり寄与しないでしょう。

林家は適正な価格で取引されてないんでしょうかね?

こちらでは建築材の製材所より、
チップ製造の製材所のほうが
皆きれいなで立派な事務所ですよ。

本当に儲からないんでしょうか?

事務所の見た目は知りませんが(笑)、事業をしているところはちゃんと利益を上げているでしょうね。

でも、チップ材だけを出す施業で利益出るのかなあ。1立米500円だと聞いたことがあるけど。

それに本当に持続可能な伐採の仕方をしているのか、一抹の不安があります。やはりチップにするC材は、A材B材とともに出してきて、仕分けするのが本来の形だと思うのですけどね……。

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