火山灰と生態系復元緑化
鹿児島・宮崎県境の新燃岳の噴火が続いている。
どうやら溶岩ドームが成長し始めたようだ。流動性の低い溶岩が地表へ押し出される過程で盛り上がってできるドーム状の岩山である。
しかし、流れ出ないことで、逆にエネルギーをため込みやすい。溶岩ドームが大きくなると、崩壊にともなって火砕流が発生しやすいし、柔らかい溶岩と違って爆裂も激しい。火山灰も多く出て降り積もると、周辺は生命のない世界になりかねないだろう。
ところで溶岩ドームや火砕流と聞いて思い出すのは、長崎県島原の雲仙普賢岳だ。1990年代に噴火を続け、島原に大災害をうもたらした。95年に一応の終結を見たが、今度は荒廃地の治山と砂防が大きな課題となった。
実は、この普賢岳周辺の火山灰に埋まった地域の緑化を取材したことがある。
普賢岳の大部分は国有林で、緑化を受け持ったのは林野庁。噴火が収まってからとはいえ、危険なので航空機で植物の種子などを撒いた。種子は、ほとんど牧草である。記憶では、ウィーピング・ラブグラスなどではなかったかな。
ただ、約30haの垂木台地は、県有林だった。そこは、火山灰が降り注いで、まさに死の世界と化していた。私は、特別の許可をいただいて、現地を歩くことができた。
これはプリント写真をスキャニングしたもので、写りがイマイチだが、一面黒い砂で埋まっていた。一部で非常に細かな白い火山灰もあり、それらは雨で流され、風邪に舞う。そして水分を含むとセメントのように固まってしまう。夏は地表が温度が60度まで上がる。
そこで長崎県が緑化を担当したわけだが、急斜面ではないので、試みられたのは生態系復元緑化だった。急いで牧草を繁殖させたのでは、以前の自然にもどりにくくなる。そこで在来の草木をできるだけ自然に繁殖させることをめざしたのだ。いつか照葉樹の森にもどすために。
かといって、単に普通の雑草の種子をまいても火山灰の上では育たない。また人が入れないのだから、植林もできない。そこで袋に土と肥料とともに種子を入れて空から撒くなど工夫を凝らしていた。アイデアを専門家を中心に全国的に募集したりもした。
幸い私が訪れた時は、少しずつ草が生えだしていた。一度根付くと、雑草は火山灰を固定させて次々と増えていく。種子には、イタドリやヨモギ、ススキなど。
私が訪れた頃には、それらの草が根付いていた。すると、エノコログサ、サルトリイバラ、アレチノギクなど、持ち込まなかった草類も生えだした。外から種子が風で舞い込んだのだろう。さらにヤシャブシやメドハギ、ヤマハギなど木本性の植物まで群落を作り出した……。
ゆっくりと、確実に、植物生態系は甦りつつあった。完全な森林化には200年はかかるだろうと言われていたが、15年たった今はどうなっているだろう。もう一般人も入れるようになったはずだ。
また訪れたいものである。そして、上記の写真のその後がほしい。
そして、新燃岳の被害も、いつか癒えて新たな自然が作られることを祈りたい。
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