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2011/02/16

書評「怯えの時代」と「囚人のジレンマ」

内山節の怯えの時代(新潮選書)

予告通り、紹介しよう。

内山節は、哲学者であるが、群馬の山村に年の半分を暮らし、山里や林業にも造詣が深いことで知られている。哲学と言ってもわかりやすい語り口で、本質をつく指摘が多い。

さて、本書は現代社会を覆う「不安の時代」を分析している。先に「林業の発生」について紹介したが、それは一例であって、森林や林業を正面から論じているわけではない。

現代社会において、何が不安のなのか、を追求するのだが、それは先の見えないことではないか、と指摘する。
その上で経済論に移るのだが、そこでは流通が生産と消費を生み出したと語りつつ、今日の経済史的な分析を行うのである。最初の流通は租税であったとする点は、面白い指摘だ。
しかし、拡大こそが正常だという前提があり、成長すればいつかバブルとなり破綻する。それを止めようとすると大がかりな統制経済しなくてはならない……。

果たして、このような分析が経済学の主流と同じなのかどうかは、私にもわからない。ただ結論としては、巨大な経済システムの中で個人はまったく無力であると導くのだ。なんだかペシミズムっぽい。

帯文には、「誰も勝ち残れない。私たちは、どう生きればいいのか?」とあるのは、絶望の気持ちを現しているのだろうか。

さて、こうした社会であることを認めて、ではどうするのか?

私の期待はいよいよ最終章に向かうのだが、そこで示されるのは「冷たい貨幣か、温かい貨幣か」であった。ここで、温かい貨幣とは、心のこもった、人と人との関係性を読み取れるお金のやり取りだとうして、無尽や頼母子講を例に上げる。同じ家を買うにしても、投資のためと、自分たち家族の住む家は違うとも指摘する。

また「信仰」にも触れる。これは宗教ではなく、山とか水とか、あるいは人々の祈りの気持ちなどのあふれた社会を語る。そして「連帯」という言葉を取り戻さないと未来は語れないという。

がっかりした(ーー;)。いや、言わんとすることはわかるのだが、それでは「昔はよかった」式の懐古趣味になりかねない。どうやら、内山先生、現代社会をかなり悲観されているようだ。
そして理想論としての「連帯」は、あるべき論であり、現実の社会を見つめるにはひ弱すぎる。

私は、この本を読んで、「囚人のジレンマ」を思い出した。これは進化論を考える際に作られた数学のゲーム理論である。
二人の共謀犯が隔離された状態で尋問を受ける。。自分が黙秘した時、相手が自白して罪をなすりつけられれば、罪は非常に重くなる。自分が相手を裏切り自白し、相手が黙秘してくれれば自分の罪は軽くなる。自分も相手も自白したら、犯罪は証明されて、やっぱり重罪だ。いちばん良いのは両方とも黙秘を続けて犯罪は証明されないこと。釈放の可能性も出てくる。しかし、相手がどう出るかわからない。

まあ、こうした確率論をコンピュータで何万回と繰り返し、自分に有利なのはどれかを探るわけである。そこでは善人戦略、悪人戦略、しっぺ返し戦略とか、パブロフ戦略などがあるのだが、まあ難しいことは置いておこう。

とにかくコンピュータが導き出したもっとも有利な手は、なんと善人戦略だったのである。常に相手を信じて、黙秘を続けること。これが最後は自分にも有利なのだ。だから進化は、常に善人戦略で進んできた。

なぜかって? それは専門の本をお読みください(笑)。

お勧めは、「負けるが勝ち」の生き残り戦略 泰中啓一著 ベスト新書

ともかく、人類はまだ進化の途上で、悪人戦略とかしっぺ返し戦略しか取っていない。だから個人の努力は無力と感じ、常に破綻へ向けて人は行動すると推察する。内山先生も悲観的になっているのだろう。

私は、遠い未来、きっと人類が善人戦略を身につけると信じている。なぜなら、人間は生物だからである。

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コメント

生物としての人間の可能性が楽しみですね。

田中様のブログは守備範囲がひろく楽しいです。

書いているうちに書評ではなくなりましたが(~_~;)、サイドバーに載せましたので、興味ある方は本を手にとってください。

「人間だけが神を持つ。可能性という、内なる神を」
ってところですね。とあるアニメからの受け売りですがw

「怯えの時代」の書評というより、「囚人のジレンマ」の紹介みたいになりました(笑)。

何も人を信じろ、未来を信じろ、とご託並べるつもりはありません。進化の過程を信じ、善人こそが生き残る確率が高いことを、信じてほしい。

あう。
確かに。
「囚人のジレンマ」を
つい、購入してしまいましたもの。

フォン・ノイマンの「囚人のジレンマ」を購入した? あれは高い、難しい。上記の新書で十分でっせ(笑)。

林業も善人(森づくりを律儀に続ける)に徹したら、いつか報われるかなあ。

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