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森と林業と動物の本

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2011/02/02

書評「日本林業はよみがえる」

前々から出ると聞かされていた梶山恵司・国家戦略室内閣審議官の本。(サイドバーに掲載しました。)

日本林業はよみがえる 森林再生のビジネスモデルを描く

日経新聞出版社(1800円+税)

実は出版元から贈られたのだが、一気に読んでしまった。

もともと梶山氏の林業論は、各種の論文やシンポジウムで語られていたし、昨年は日経ビジネスオンラインで連載もされていたので、さほど意外感なく読み終えた。私とはスタンスは違うが、結局は同じことを唱えているような感覚を覚えた。

ただ帯文には、50年ぶりのチャンスがやって来た! と今後に期待を持たせるが、実は一読して感じるのは、いかに日本の林業がだらしなかったか、ということである。そして、本当に、日本林業は救われるの?とさえ感じさせる。

そして、極めて正統派のビジネス、産業になるべきだというのであるが、私とは目のつけどころが違う。面白いのは、私の林業ダメ論と彼の林業ダメ例は、あまり重ならないことだ。つまり、日本の林業のダメさ加減は、私ら二人でも語り尽くせないほどあるということか(笑)。

なおドイツを始めとするヨーロッパ林業の事情については勉強になる。けど、ちょっと数字が多くて眠かった(^^;)。ただ、今の欧米を真似た日本の機械化戦略などは、意外なことに批判的だ。

実際、日本に招聘したドイツのフォレスターも批判しているという。実は当たり前なのだが、どこでもそこでも作業道を入れて大型機械で伐採搬出すればいいわけない。ヨーロッパでは、ケースバイケースで架線も取り入れているし、森林や林業技術の知識がフォレスターや現場作業員に行き届いているのに対して、日本はうわべだけ真似ているからだろう。それも自己流なのである。

その点からも、現在の林業の機械化を推進して、日本では先端を行っているつもりの林業事業体も、この本を読んで反省点を見つけるべきだろう。

とまあ、褒めているようだが、いくつか注文は付けたい。

一つは、やはり日本の林業、それも歴史的な面からの林業をもう少し身につけてほしいということ。ヨーロッパの事例だけでは見えてこない部分が多々あるのだ。そして、森林生態学や樹木学もある程度抑えてほしいと思う。ちょっと記述の中に、ひっかかる部分が幾度かあった。

たとえば間伐の意義だが(これは現在の林業家や林学系学者さえ勘違いしている人が多いが)、何も残した木の保育のためだけにするものではない。いや、昔は主伐用の木とか、間伐材なんて考えなかった。あくまで間伐も収穫だったのである。そして日本の林業地のほとんどが無間伐施業だった。

またヨーロッパと日本では、あまりに風土が違う。植物の種類や生え方から、土壌まで。読んでいて、多少危険に感じるところがある。

そして、やはり全体のトーンが森林の伐採から製材までの範囲に集中していて、森づくり、あるいは製材後の需要、つまり建築へ向ける目が弱すぎる。

たとえば伐採後の再造林をいかにするかシステム的でないし、まり獣害など造林を阻害する要因をどうするかが抜け落ちている。
また建築も、国産のよい製材品を出せばどんどん売れる、ということはあり得ない。今以上に国産材を供給するには、それを吸収する需要を作り出さねばならない。その点が欠けると、供給がだぶつき価格が下落するだけだ。
また、人間(山主から建主まで)の心の動きやニーズをもう少し深く洞察してほしい。今のままだと、いくら林業を再生しても、山村社会は崩壊してしまう

もう一つ。やはりこの本は専門的なのだ。かなり平易に読みやすく書かれているが、やっぱり林業系の人に向けている。一般には通用しない林業用語も頻発するし(^^;)、話に抑揚がないというか、興味を引っ張る工夫が弱いので、世間の森好きには通じない面もあるように思う。どちらかというとビジネス書的だ。

まあ、本ブログを読んでいるような方々なら問題ないだろうが(^^;)、世間に広く日本林業の現状を知らせる(読んでもらう)には弱いかなあ、と感じた。

なお、蛇足だが、私の現在進行形の出版は、4月になりそうである。ここでも、日本の林業ダメ論と今後の展開を描いている。なんのことはない、同じテーマなのである。でも、ここまで事例を含めて発想が違うのか、ということを比べてみると面白いと思うよ(^o^)。

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コメント

…ということを比べてみると面白いと思うよ(^o^)。

うーむ。こういう一言が誘惑となってしまうのだな。

このブログを読むようになってから、
ワタシの隠し本棚には秘密の林業系の本が
増えてしまいましたわ。

ふふふ。こっそり仕掛けた自著も買わせるためのトラップに引っかかってください(^o^)。

でも、なんで林業系の本が秘密で隠し本棚に納めないといけないの?

キッチンに机があって、そこで過ごしているので(?)
キッチンの戸棚の一部が、本棚代わり。
で、誰もそこに本が入っているとは分からない。。
あれ?考えてみれば、林業系の本だけではなく、
ほかの本も秘密だったり。

キッチンの棚でも、料理の本も秘密?……触れてはいけないことだったりして(^^;)。

カレー粉や醤油の匂いのする本も素敵です。

>どちらかというとビジネス書的だ。

という評価が正しいと思いますね。梶山さんの著作は、林業素人の経営者やビジネスマンの目を林業に向けさせるという意味では既に効果があるようです。うちのボスも氏の論文には影響を受けています。

田中さんごご指摘のアカデミックな部分については、あれが限界なのではないでしょうか。そこを補完するのが専門研究者の役割であると思いますし、そして機能していないことが彼の文中でも愚痴っていましたね(笑

ビジネス書だと思えば、ターゲットとしている層が違うのかもしれません。日経読者のような層か?

私もアカデミックな人間ではないけれど、執筆のためには勉強しないとなあ。補完する研究者も、国家戦略室に入ってほしい。まあ、狭い専門馬鹿が多いから、全体構想を作るのに助言できる人は少ないかな。

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