いま「TPP」が必要な理由
「いま……が必要な理由」シリーズも、行き詰まったか。
里山から始まり(書名だけと)、木、林、森、村と進んだら、次はどこに行くか。奥山? 里海? 限界集落? それも考えるけど、今回はあえて世間に喧嘩を売るつもりで(^o^)。地雷を踏むかもね。
私は、基本的にこの手の国際政治経済問題には疎いのだが、多少は勉強した。そこで私なりに整理する。もし間違っていたら教えてくれ。
なお、タイトルは「TPPが必要な理由」にしたが、これはシャレである。本気で「必要」と思っているわけではない。
で、TPPである。正確には「環太平洋戦略的経済連携協定」とか「環太平洋パートナーシップ協定」と訳される。ここで内容は詳しくは説明しない。ようするに多国間の自由貿易協定である。
今や侃々諤々、最初は賛成派が目立ったのに、いつのまにやら反対派のニュースばかり。しかし、農業団体の反対運動は気分悪いね。ようするに既得権益を守れ、と言っているようにしか聞こえない。自分たちは何も改革しないつもりで、人質に「日本の食料」をとっている。宣伝・主張の仕方をもう少し勉強した方がいい。いっそ、現在農業界の悪しき規制を撤廃し、注ぎ込まれている税金を返上する前提で反対したらどうか。
さて、TPPに行き着く前に、私はFTAを考えたい。
FTAは、単純に訳すと自由貿易協定。物品の関税や制限的な通商規則、サービス、通商上の障壁を取り除く2国間以上の国際協定だ。
日本と主に韓国、東南アジア諸国と協議されていたが、農業団体の反対でなかなか進まず、かろうじて農業問題がないシンガポールだけと締結した。その後メキシコとも締結したが、全体として遅々として進んでいない。
私は、FTAには基本的に賛成であった。貿易とは原則自由に行うものであるというだけでなく、2国間だからこそ、折り合う余地があるからだ。交渉とは、相手が増えれば増えるほど迷走し、がんじがらめになる。2国間で、農業も含めて例外規定を設けつつ、徐々に自由化を進めるのが現実的なシナリオと思えたのだ。実際、例外品目を設けることは認められている。
その方が農業の改革と強化につながると見た。
が、あまり進まないうちに登場したのが、EPAだ。
EPAとは経済連携協定と訳されている。これは難しいが、FTAが物やサービスなどの貿易自由化なのに加えて、人の移動、知的財産権、投資、政策などまで幅広い分野での連携を狙う。
つまりFTA<EPA だ。FTAより自由化する対象が広い。
実は、日本は結構多くの国とEPAを発効している。これは、ちょっと意外。なんで、FTA交渉は遅延しているのにEPAはどんどん締結できるのか? 例外規定をいっぱい設けているのかね。
そして、TPPである。これは、2国間どころか、多国間であり、しかも例外なき完全自由化だ。しかも貿易だけでなく、人や金融まで含む。
私は、これは怖いと思う。農業関係の関税撤廃なんて小さな議論だ。もっと目を向けるべきは、人の移動とは、移民につながるし、金融は巨大資本主義の本丸である(^^;)。それこそ公共事業も国外に解禁せねばならない。これは例外も設けにくいし、多国間であるから交渉も極めて難しい。
いわばEPA<TPP である。
私は思う。FTAをどんどん進めておけばよかったのに、ごねているうちにEPAが広がり、今度はTPPだよ。どんどん日本に不利な協定ばかりが提案されてくる。
もしTPPを拒絶したら、次は何が来るか?
おそらく世界全体の例外なき自由化をもくろむ協定が提案されてくるんじゃないかなあ。いわばWTOの強力版。現在のWTOは貿易だけの世界協定だが、ここに人や金融などの経済領域まで加えて迫られたら、そして拒めば自由貿易社会から糾弾されかねなくなったら……。日本はもっとも不利な協定に参加せざるを得なくなるのではないか。
1800年代、江戸幕府の日本に欧米は次々と開国を迫ってきた。最初のうちは問答無用で断っていたが、とうとうペリーの黒船の砲艦外交によって、渋々幕府は開国した。ところが国内の攘夷勢力が強まって幕府を倒してしまうのだが……結果的に、新政府も開国するのである。
もし、幕府、もしくは新政府が開国を拒み続けたらどうなったか。おそらく阿片戦争のような形で無理やり開国させられることになったのではないか。つまり植民地化である。渋々でも自主的に開国しておいた方がマシだったのは言うまでもない。その点で、幕府の判断は間違っていなかった。
私は、今からでもFTAにもどって、2国間で交渉をした方がいいと思うね。そこにEPAもちらつかせて各国事情を撹乱し、結局TPPに行き着けずに中断のやむなきに至る……という先延ばし戦術(戦略ではない)が、今の日本に向いている(^o^)。
でもドーハラウンドが迫っているなあ。それにアメリカは有利なTPPやりたがっているしなあ。
とにかく反対だけでは、相手の思うつぼ。
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>農業団体の反対
いや、まったく(^^;)「新鮮組」という会社を作った方の「農協
との30年戦争」読めば、「いかに既得権益側は酷いか」がよく
わかりますが、「反対」だけの「失敗例」は現在進行形で
名古屋市議会が証明しています(^^;)既得権益側が「自己
改革」することは、難しいんでしょうかね~(^^;)今回、彼らは
「反対しにくいテーマ」を掲げて、「自己弁護」したりするから
たちが悪いですな(^^;)(前世紀の「反対党」を見る思い)
しかし、歴史は、特に今の日本はもっと注目すべきですよね
一体、どうして過去から反省やなんかしないのか・・・(^^;)
投稿: 元関西の山の中に居た者 | 2011/03/03 22:37
リーダーシップがない、戦略がない、と政府を突き上げていますが、本当に戦略も何も考えずにバラバラに行動しているのは、既得権益業界の反対派です。先の利益ばかりを見ている。それは市民一人一人にも言えるかな。
人は歴史に学ばない。これは定理かも(笑)。
投稿: 田中淳夫 | 2011/03/03 23:50
【農業】生き残りへ全農が丸紅と戦略提携 TPP参加にらみコメ輸出拡大狙う[01/17]
http://bbynews.blog98.fc2.com/blog-entry-465.html の23レス目 2ちゃんねるで、煽動ぽいが、よく集めてますね。
みんなの党の東京都知事選アジェンダ
仮に今後、TPPに日本が参加できないことになる場合は、一国二制度化して、「東京独立州」だけTPP参加を目指す。
http://www.your-party.jp/news/2011/03/02/110228tokyo_gov_ag.pdf
既得権派にも賛成したくはないが、真逆がこれでは駄目ですね。
投稿: ASIOS | 2011/03/04 11:50
TPP反対した方が良いのか、賛成した方が良いのか。
政府、メディアの方がたには、
もっとわかりやすく説明してもらえないですかね。
反対派の意見、賛成派の意見どちらもうなずく点があり、
判断がつかない、決まったらそれに従うよ、仕方がないから、
というのがごく普通の人々の考えだと思います。
組長がおっしゃるように、ただ「反対」と叫ぶのではなくて、
ここをこう変えて国内の農業(林業・木材産業も)を立て直すから
今は「反対」して立て直そうという具体的な話が聞こえてこないような気がします。
投稿: スポット | 2011/03/04 11:54
>「東京独立州」だけTPP参加を目指す。
これ、傑作すね(笑)。こんなブログや酒の席の与太話ならともかく、アジェンダ(ようするに政策課題ね)として掲げるなんて。
この手のややこしい論議を整理して解説するジャーナリズムが少なすぎる。TPPだけ、農業だけを見ているから騙されるのではないかなあ。きっとアメリカも、農産物を売り込むことを狙っているのではないと思うよ。
投稿: 田中淳夫 | 2011/03/04 13:02
>この手のややこしい論議を整理して解説するジャーナリズムが少なすぎる。
このあたり↓ではすこし詳しい説明がありますね.もっとも,ジャーナリズムでこの問題の本質を伝えるところがわずかであるという嘆きもやっぱり書いてありますが.
三橋貴明のTPP亡国論 連載2
-構図「製造業vs.農業」の目くらまし効果:問題は「24分の2」に矮小化、残り22項目の議論を聞いたことがあるか-
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110303/218708/">http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110303/218708/
投稿: あがたし | 2011/03/07 17:41
この記事は、読みましたよ。かなり詳しく書いてあるけど、まだ難しい(^^;)。もっと大枠で、この手の自由貿易協定が広がる理由を教えてほしいな。
投稿: 田中淳夫 | 2011/03/08 10:40