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2011/03/26

木材は、質か量か(上)~材価を上げるということ

思考実験。

以前から考え続けてきたのだが、林業が主に供給する商品である木材は、そこに求められるのは質なのか、量なのか、どちらが本筋なのだろうか。

質も量もだよ、そのバランスだよ……といった「正論」は、この際封印するとして、消費サイドが求めているのは何か、本音の部分を考えてみたい。

というのは、現在の日本林業の問題点は、木材価格が安すぎることである。国産材は、量として売れだしたからだ。
いまだに国産材は売れない、と嘆いて見せる関係者は多いが、それはあまりにも市場を知らない。昔ながらの「外材に圧される国産材」の図式を描いて、行政や消費者に泣きつく所業は、いつまでも通用しない。

だが、売れないのではなく、あまりに安いから売らない、木を伐らない、伐り捨てにする……のが現状ではなかろうか。価格を別としたら木材としての引き取り手はいくらでもいるのだ。

さて、この認識の元で必要なのは、日本林業が取り組むべきなのは、材価を上げること、山元が利益を出すことである。では、どうして上げるか。

ここからが課題となる。価格を上げるには、どうすべきか。

今のところ、利益を出すためにはコストダウンだとばかりに大規模化、機械化による低コスト施業をめざすのが主流だ。もう一つ、ボランティア的な人件費(利益)抑制もある。「○材で晩酌を!」といったスローガンや、日曜林家が出材することで、安く出すのだ。利益は薄くても、趣味的にやっているから文句は出ない。
ただ、それも限界がある。やはり材価自体を上げたい。

そこで、とうしても付加価値化、高品質化、を狙うようになる。

一昔前なら、産地銘柄があった。どこの林業地の木材だから高く売れる、というものだ。吉野材、秋田杉、木曽檜、といったものである。だが、今や廃れた。
また「役物」という付加価値もあった。磨き丸太にすれば、細い間伐材でも一気に値段を撥ね上げられた。しかし、それも今ではダメ。

そこで最近は環境を掲げて、FSCなどの森林認証をつけるとかして、価格を上げることを狙う。さらに、森のストーリーを付加したり、家づくりのストーリーに組み込んで、材価を上げる試みがなされている。

その戦略自体は立派で頑張っているのは承知するが、非常に手間がかかるうえ、高付加価値化そのものが差別化であるわけだから、どうしても少量しか捌けない。大多数の国産材は、この方法を適用できないだろう。また適用しようとすると過剰となり、価値が下落する。
言い換えると、この方法を取るのは、一企業、一事業体が売上や利益を伸ばすために行う手法ではないか。
山元の誰もが利益を上げる手法を考えないと、日本全体の林業の嵩上げには限界を感じる。(ただし、努力しない輩に濡れ手の粟の利益を与えようというのではない。努力すれば、どこの産地でも実行可能で、需要も確保できるモデルを求めている。)

……このように考えると、木材は質か、量か、という根本に突き当たるのだ。

残念ながら、世間の多数は素材〔木材〕に質を求めていないと感じる。一部の嗜好としてのブランド木材は求めるが、圧倒的な消費にとって、木材は商品にする前段階のマテリアルにすぎない。家という商品になる前の建材、家具を作る前の板などだ。それは最終商品ではない。
だから、マテリアルが高いと、忌避する。外材や合板、ボードに移るか、そもそも非木材素材へと転換するか。

さあ、その中でどうしたらいい? というのが、これから求めるべき解答である。

(続く。いつ、続きを書くかなあ。)

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コメント

 木材格の低迷には素材生産業者・森林所有者は泣いている現状ですが、木材価格が低迷している原因に補助金が関係あると感じています。

昨年の農業関連の補助金(個別所得保障)のように需要と供給のバランスで価格が決まるのではなく、補助金が入るとその分だけ価格が下がりました。

木材流通でも補助事業を利用した丸太と利用しない丸太が同等に取引される関係で、木材の素材生産業者もリスク回避のために補助事業を絡めなければ素材生産できない状況にあります。

結果、補助事業は「諸刃の剣」であり、素材生産の技術は高くても補助金の申請ができない業者は操業停止状態になっている現実もあります。
弊社も、いただける補助金は申請していますので大きなことは言えない立場なのですが、補助事業のあり方を一考しなければ木材の流通価格はあがらないだろうと思います。


補助金があることで、木を伐って出せる面と、需給バランスを壊して価格下落を招く面。
でも、実は赤字にならなければ材価に関係なく出す所有者もいますね。林業を打ち止めにするために。
これらの関係を打ち破る、「努力すれば高くなる」仕組みがほしいのです。

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