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森と林業と動物の本

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2011/03/31

木材は質か、量か(下)~商品ではなく信頼~

ようやく、続きを書こうと思うまでになった。テーマは、量産品の値段を上げる方法である。
このところ、ほかの話題で時間を稼ぎつつ考えていたのだが(笑)、そんな方法が簡単に思いつけば、私は木材ビジネスの風雲児になれるよ。

しかし、書くといっても、結論が出たわけではない(笑)。あくまで思考実験の続きということで。

日本の森を健全化するために国産材を使おうというのなら、量が捌けなければいけない。同時に価格がそれなりに魅力的でなければ、たくさん生産し消費する、という循環にはつながらない。もちろん、利益を出して間伐の推進から再造林まで行えることが重要だ。

価格を上げるための付加価値方式では限界があるのは、前回指摘したとおり。差別化である限り、量は捌けないのだ。ほかの商品と違うことを売り物にするわけだから、差別された方は売れなくなる。あくまで事業主だけの展開で、業界全体、日本の森林全体にはつながらない。
しかも、差別化の方法が、付加価値(素材の魅力、商品のデザイン、環境貢献、トレーサビリィなどの情報、ドラマ性・ロマン……)であるのなら、量産は難しい。人気のデザインは誰でも真似できず個人技となるし、ロマンあるストーリーも画一化できない。

このように考えると袋小路である。

それでも考えた。土木資材とか、内装材、外構材ではないか。園芸資材もありだな。コンクリートよりは木材の方が見栄えがいい、環境的にも好都合、人の感覚にもよい……そんな分野だ。それでいて画一的な加工で、売れるようになる。海杉さんからいただいた「建具」も、その解答の一つかもしれない。
実は、そんな商品を開発して成功している事例は、各所にある。

それらの品はそこそこ高くても売れる。それなら、山元から高めに素材を購入することも可能になる……。

が、そこで気づいた。果たして、そんな善意に期待できるのか。

高く売れる木材商品が開発されたとして、その材料の木材を、山元から高く買い取るようなお人好し業者は、どれだけいるか。安く買いたたけば、もっと利益が増えるではないか。

そう、どんな商品を開発しても無駄なのである。商品が高く売れようが売れまいが関係なく、コストを抑えようとすることは産業界の常套手段だ。

地下深く泥まみれで宝石掘っている人夫は、宝石の最終商品の価格に見合うほどの給金をもらっているか? と考えればすくわかる。

しかも、利益率の高い最終商品が登場すると、すぐ代替え商品が登場する。国産材商品でヒット作を作れば、同じものを安く仕入れた外材で作るとか、そもそも加工を海外に出すとか、非木材を使って作り、表面に木目プリントをして木質ぽく見せる……方向に行くだろう。

結局、山元の買いたたきが起きる。

これを防ぐにはどうしたらよいか。法律で規制するのは不可能だ。

たとえば山元が加工販売業と一体化するという手が考えられる。
しかし、これができるのは大手だけだ。資本力がいる。日本なら住友林業くらいか? もっとも、あの会社は山をたくさん持っているけど、今は伐らずに外材を購入して住宅作って売っているけど。

それとも山元が団結して、出荷量を押さえて価格交渉に挑むか。
これは期待したいところだが、まず無理。小さな山主ほど統一行動を取れないだろう。絶対に抜け駆けが出る。それに外材もある。

そこで、原点に帰るのだ。

山元の立場を慮って、買い取り価格を高めに設定してくれるのは、山元と加工業者の信頼関係があってこそだ、と。

いかに両者が懇意にしていて、お互いの事情を知り抜いているか、によるのではないか。そして信頼関係を築くことによって、「買いたたき」ができない関係になるしかない。もちろん、信頼し合ったふりをして騙す輩もいるだろう。が、それを見破り、牽制し合うほどお互いが懇意にならなければならない。

かつてのアメリカとソ連、今はロシアは、核弾頭削減交渉で、「お互い信頼し合う。そのうえで徹底的に検証する」という態度をとっていた。同時に条約を履行することを信頼しているけど、それを守っているかどうかも検証する、そのための調査妨を害しないことを誓い合った。

おそらく、そんな覚悟と関係を築かなくてはならないのだろう。まあ、山主と素材生産業者、あるいは製材所との仲は、米・ロほどよいのかどうかわからないが……。

ここで重要なのは、山主が、本気で木材を高く売ろうと努力することだろう。そして熱意を示して素材生産業者や加工業者と交渉することだ。包み隠さず情報を提供することも必要だし、山の環境、森林生態系゛そして林業の存在意義などの知識や意見も身につけて、相手を説得する力を持たねばならない。

あまりに当たり前の、ビジネスの基本にもどってしまった気がするが、これが結論である。

まず、信頼できるパートナーを見つける努力をすること。地域は選ばない。全国を股にかけて探す。そしてマジメで熱意をもち、行動力を伴って取り組むことで、信用できるビジネス・パートナーと、お互いの懐事情まで知り合うことで、無理な騙し合いはなくなる。可能な限り山元に資金を還元してもらうことで、山の再生産に取り組む。そしてよい森をつくり、よい木材を提供することを信用してもらう。これに尽きるのではないか。

外野の人間(私も含む?)ができるのは、両者を結ぶことだろうか。どこに、面白い木材商品を開発した業者がいるか山主に伝える、そして、その業者が信じるに足るか情報を提供する……。その裏返しで、加工業者にも、しっかりと安定的に材を提供する気のある山主を紹介することも必要かもしれない。
もしかしたら、双方の情報を集めてマッチングするようなNPOを作るのも手かもしれない。

いずれにしろ、ビジネスは人であり、信頼関係で成り立つ。……と、私はまるでドラッガーのような境地に達したのである(^o^)。

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コメント

そう、同感です。
信頼なんですね。
一番大事なのは。

あまり経費がかからない最強のビジネスツールですよね。
でも使いこなすには相当なスキルが必要。

>双方の情報を集めてマッチングする

田中組の事業分野の一つにぜひに加えましょう。

僕は山林を所有していないので山主ではありませんが、自分たちが取り扱った原木を「本気で」求めているところへ送りたいと考えています。先日の合板メーカーも然りで情熱を感じました。(高くはないですが・・・)
一方、とある原木市場の見学に行った時の感想です。入札に来ているおじさんたちは、弁当を食べ食べノンビリダラダラとまるでルーティンのように札を入れていました。聞こえてくる会話と言えば、顔の見えない山元や素材生産業者にはとても聞かせられない聞きたくないような内容で、なんともおぞましい世界だと驚いたことを思い出します。
今、小さな小さな素材生産業者(個人も含む)3者が手を取り合い、ビジネスのステージに上がれるだけのロットを確保しようという取組を始めました。
おそらく、小さいロットならそれなりの相手、大きなロット(数年かかると思いますが)になったらそれなりの相手、という風に流動的にビジネスパートナーを探していけば、「本気度」の高い仕事ができるのではないかと考えています。
できるだけ、単一の市場に頼るような仕事(出したら出しっぱなし)はしたくないものです。

このまえ、県の事業にと、父が契約してましたが、複雑な気分になりました。

私としては売ってほしくなかったです、でも、協力しなきゃいけないって無意識にあるのかも。

「信頼」って一番大好きなコトバです、ソレだったら、山林も報われたのにって思います。

本当に必要としてる人や、大切にしてくれる人の役に立ちたかったろうなって、かわいそうになってきました。

これからは、相互信頼のうえでやりとりがあって、結果、森が元気になるといいです☆

本文では書かなかったけど、今林業界で一番問題なのは、山主・素材生産・製材の各者の仲が悪いことでしょうか。
いかに相手を騙して自分が儲けるか、に力を注いでいる。

信頼関係を築くには、相当な努力がいりますし、また各人の襟を正す必要もあります。
市場に出したらオシマイという態度ではダメで、常に出荷先の動向を調べて、ときには最終商品のチェックもしなければならない。高く原木を購入してもらったのに、その金を再生産に回さず、外車でも購入していたら、一気に信頼は崩れますね。
でも、業界団体任せでないから、個人のやりがいはあると思いますよ。

 信頼関係をつくっていくのは仕組みを作ると同時に出荷者、流通、最終小売のそれぞれでも行動していく、地道な作業が必要ですね。
 農業や特用林産物を取り扱っている農家林家の方やサラリーマンを経験した退職後林家の方は割りとすんなり取り組めそうですね。そのような農家林家の方や他の業界や流通を体験、知っている方が活躍してくればいいですね。
 もしかしたら、そういう山元が増えてくるかもしれません。

 森林組合などの既存組織でも、そういう経験がある方が発言してくると面白くなるかもしれません。

 新規参入の林業事業体の皆さんはそういう他業界の経験が豊富な方もいらっしゃると思いますから、新しい形態が出てくると思います。アイデアも一杯お持ちではないかと思うわけです。

新たなビジネスパートナーを見つけ、双方の信頼関係を築いて、森づくりまで考えた適正価格の取引にすることは、同時に情報の発信・受信を増やすことです。

これは面倒で、時間もかかり、従来の山主が苦手とする分野かもしれません。
が、反対に個人の力で可能という長所もあります。産地銘柄とか、為替変動など個人の力では如何ともしがたい要因ではないのです。それをプラスと感じて行動する人が増えることを願いたいですね。

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