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2011/05/30

原稿チェックの陥穽

拙著の書評を書いたから見てくれ、と書いた当人から原稿が送られてきた(メール)。

う~ん、これは微妙な問題だ。

書評とは、他人が本を評することだから、書かれた著者である私がチェックしていいのか?

私は、見せなくてもいいですよ、と断りつつも、せっかく届いたのだから目を通し、ちょっと言葉遣いのニュアンスが違う点に意見した(^^;)。まあ、書き手としては、文章を読んだら、常にチェックする癖が身についている。

実は、その前に私のインタビュー記事のゲラも送って来られたのだけど、このチェックも悩ましかった。
最初は何気なく、どんどんチェックしたのだが、気がついたら文体まで直している。書き手は自分じゃないのだから、それはインタビュアーに失礼だしやってはダメだろう……と途中から止めて、事実関係の確認だけにとどめた。

最近は、私が取材を受けることも増えたのだが、だから原稿チェックは、基本的に求めない。以前、インタビューを受けて、私の一人称で書かれた記事をチェックした時、つい文体(話し言葉)から全文の構成まで直してしまい、あとでライターに失礼なことをしたと後悔したことがある。

なぜなら、私の文にそんな真似をされたら屈辱的だからである。

 

被取材者への原稿チェックは、実は結構シビアな問題を含んでいる、と私は思う。

たとえば新聞記者は、取材者に原稿チェックをお願いすることは、ほぼない。それは単に時間がないという点もあるのだが、極端な話、取材対象(政治家などをイメージするといい)を告発する記事を相手に見せて修正を求められたら話にならないからだ。

そうでなくても、取材で聞いた情報や意見と、結果的に違った事実・意見を記事にすることもあるから、チェックさせると揉める元だ。単に喧嘩になるだけならともかく、掲載を止めるよう圧力をかけるケースもある。

私の経験では、科学者を取材したので、こちらから事実関係を確認してほしいと原稿を送ってチェックを依頼したことがある。ところが帰って来たのは……
原稿の文章そのものをいじり、自分の発言だけでなく地の文まで変え、なんと結論までひっくり返していたのである!

もちろん抗議して、改めてどこまで手を入れていいか詰めたのだが、アチラとしては悪気はなく、いわば科学論文の添削の感覚だったのだろう。指導教官は、学生の論文を徹底的に直すらしい。

ほかにも自分のコメント以外のところまで(他人の意見、あるいは私の意見)まで手を加えたり、なかには結論が気に食わないから記事にするな、と言い出した人もいた。

だから、私は原稿チェックは基本的には行わず、申し込む人には個別対応する。……と言いつつ、実は取材してから原稿書いて、編集者を通してゲラになるまで1か月以上空くことも少なくないので忘れることもある(^^;)。その際は、ごめんなさい<(_ _)>である。ちゃんとメモしていたらいいのだが、たいていノートを閉じてからだからなあ……(これは言い訳)。

ただ、取材して、その内容を執筆する過程には、書き手の意見が無意識にしろ入るものだ。もちろん誤認もあるが、文の流れ上、話の内容を前後させたり、どこを地の文にして、どこをコメントにするか悩みつつ構築している。

だから、基本的に私は、自分が取材されて間違ったことを書かれても、書き手に間違いを指摘することはあっても、怒らない。全体としての内容、とくに結論が誤っていないかぎり、ぐっと飲み込むことにしている。記事とはそんなものだと達観しているのよ。

ライター・編集者がゲラをまったく見せないのも困りものだが、全部見せます、それが誠意です、というのも違うと思う。それは編集の役割の勘違いだ。
著作権・編集権はあくまで書き手・編集者にあり、取材で得た情報を自分が責任を持って紡ぐのが仕事である。被取材者が喜ぶ記事を書くのがよい仕事、ではないのだ。

……というところに『森林異変』の中の語句に、使い間違いがあることを指摘するメールがきた。「ご指摘ありがとうございます」と返事しておいた(@_@)。

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コメント

うひゃあ。。
微妙なストレスが蓄積しそうですね。

これは、きっと「思いつき」ブログで
発散させるしかありませんよ。
(ぁ。もしかして、既にしてましたか?)


ううう。そうかもしれん。
内幕をばらして、自虐的にストレス発散……。

まあ、内幕暴露が本ブログの真骨頂でもありますから(^o^)。

>指導教官は、学生の論文を徹底的に直すらしい。

ええ,直します.というか直されました.そしてのちに,指導教官でもないのに直すことになりました(学生数数十人というところに助手が私一人!「〇〇教授に店に行く前に読んで欲しいんですけれど」と渡された草稿が多数.どれも赤ペンで真っ赤にして「〇〇先生,これを読まなくてよかったな」と思ったもんです.あ,ちなみに助手は指導教官にはなれません).

いま,「いま里」を読み直しているところですけれど,まえがきにある用語の定義を曖昧にしたまま議論をすすめるという態度はガチの教授には受け入れがたいのかもしれませんね.このあたり難しい.むしろ曖昧にしたほうが有用な議論に発展することもありますので.

論文にしろ、一般の文章にしろ、「添削」はかまわないと思いますよ。論理的なズレや語句・文のおかしなところを指摘するなど……。
でも、結論をひっくり返すのはどうかと(笑)。もちろん、間違った事実関係による結論を指摘することはあるでしょうが、最終的な筆者の意見を否定するのはどうかな~と思いますね。

『いま里山が必要な理由』は、里山の定義を最初にしては成り立たないのです。帰納法的に、いくつもの事例を上げて導くものですから。
だから、海もアマゾンも、里山だ! と言っちゃうのです。

学問とか学術はそれぞれ範疇に仕分けをして、それをクロスとかマトリックスのように組み合わせたりして、仮定を実証していくものなんでしょう。

現場では仕分けとかしてしまうと、それに括られて動けなくなったり、動きが鈍くなってしまうという場合があるかもしれません。

私も、現場では新しい自分なりの定義づけとかはあまりしないようにしているのかもしれません、無意識のうちに。

学者ではないので、自論を適当に言っても誰も怒りませんし・・・。被害も出ないですし・・・。

そういった点では、科学者の方の仕事はすごい地道で苦労されているのでしょう。「テキトー」的な部分がいい具合に機能する場合もあるのです。
あっ、田中さんがテキトーといっているわけではありませんので・・・。
でも、今学問や化学をしている人だけでなく、現場系の人たちも、このような本なら読むようになってきています。「森林異変」とか。
そして、森林「意見」を現場サイドから、学者の方々や国や県や市町村の職員などに伝えていただきたいと思います。ある程度理論的に、且つテキトーに。

私もテキトー(ファジー)がいいと思っています。
世間に通じる言葉でしゃべりたいのなら。

学者にかかると、すぐに定義だとか、規約だとか、顕彰を作りたがる(^o^)。それがバリアを作っている場合もあるのに。

ちなみに、次回の執筆本のタイトル、決まりましたね。
「森林意見」。
これで行こう!


実は土倉庄三郎の出した冊子に「林政意見」があるのです。
当時の林政に檄を飛ばしており、なかなか示唆的。真似たい。

「森林 いえん」部分が多かったりするのではないでしょうか。
特に、国とか、外郭団体とか、事情の部分で。
さらに、国に対してもいえない気の弱さも、我々のほうに。

そんなことで、森林胃炎にもなりそうな、今日この頃。

そんな話をしていたら、「私は森林鼻炎だよ」、と花粉症の奴が言ってた!山主は「森林食えん」とも。1つ1つ打開していくしかないです。
でも、スギヒノキ、そして国産広葉樹に目をつけてくれている人がだんだんと増えてきているようにも思えます。中小企業も、有名どころも・・・・。需要プル、もしかしたらだんだんと出てくるかも。
その露出をどうやってあげて多くの人たちに認知をしてもらうか。喜んで使われるようになるにはどういう手段で、どういう想定工程で・・・・。やばっ、理屈っぽくなってきちゃいました。1つ1つ積み上げていく地道な行動も大事だと思います。しかも、やり始めている人たちもいますよね!

おおお、またも始まりました駄洒落シリーズ(笑)。
その心理不変(^o^)。

この国の中枢がぐらつけばぐらつくほど、現場はしっかりしてきます。今こそ、森林業界は自立するチャンスかもしれませんよ。

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