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2011/06/30

『日本沈没』第2部を読み返したい

小松左京の『日本沈没』が出版されて大ブームになったのは、私が中学生の頃。

すでに熱烈小松ファンだった私は、それこそ熱狂的に読んだ。勢い余って地球物理学に興味を向けるきっかけにもなったかと思う。

そしてン十年。阪神大震災が起きたときに、思わず読み返した。

そこに描かれている内容は、目の前で起きた阪神間の震災に酷似していた。単に災害としてではなく、震災に対応する社会状況が似通っているように感じたのである。大震災に庶民がどのように動くか、世相や世論も含めて似通っているように感じた。

そして東日本大震災が起きた今、『日本沈没』第2部を読み返したくなっている。

本は手元になく実家に取りに戻らなくてはいけないが、今こそ「震災後」を考えるヒントになるのではないか……と思い出した。

第2部は、直接的には小松左京の作品ではない。執筆は谷甲州で、ほかにも何人かスタッフとして入っていたはずだ。つまり、高齢の小松さんには長編小説を執筆する体力が残っていないからと、コンセプトを作って、また若き表現者や研究者を交えて議論しつつ組み立てたと聞いている。

もともと小松さんは、日本がなくなった(沈没した)、さあ、どうする? というのがテーマで書き出したのだが、結局沈めるまでが大仕事で、これ以上長く書けないからと第1部は、日本が沈没するまでに止めた。つまり、第2部こそが、本来書きたかった内容なのだそうだ。

記憶で書くが、第2部はパプア・ニューギニアや中央アジアなど世界中に分散避難した日本人の苦闘から始まる。日本政府は、オーストラリアに事務所を設け、金融資産で運営・活動している。そして、日本復活をもくろむのだが……。

そこに国際情勢(中国や北朝鮮やらアメリカ……)が絡んで陰謀渦巻く。そして地球規模の気候変動の予兆まで導き出されて行くのだ。

一部、中央アジアの冒険小説ぽいところがあり、そこは谷甲州らしさになるのだが、全体としてはSFというよりポリティカル小説である。

テーマは、日本人のアイデンティティとは? そして国土の復活とは?

具体的には、残されたわずかな芥子粒のような島を元に、巨大なフロートによる人工島建設計画が絡む。しかし、近隣諸国が蠢き、さらに日本の沈没は地球大気にも大きな爪痕を残し、人類の危機さえ感じられる……。

私が考えさせられたのは、国土がなくては日本は保てないのか、また日本文化を維持することが重要なのか、それとも人として生きるには各国の民族に融合してコスモポリタンになる方がよいのではないか……という問いかけだ。

ユダヤ人は無理してイスラエルを建国した。片や華人・華僑は世界に分散し各地に溶け込みつつ中華民族出身のアイデンティティを残す。どちらを日本人はめざすのか……その選択肢が突きつけられる。

故郷・国土に固執して、多くの犠牲と軋轢を抱えつつも守るべきものは何か。
日系という血筋は残しつつも、意識は地球人へと昇華できるのか。

小松左京は、どうやら後者を望んでいるように感じた(記憶)。私は、当初、前者を指向すべきではないかと思っていた。しかし、徐々に変わってくる。

おそらく現実の社会=国民・市民は、前者を求めるのだろうけど、それが幸福への道になるのか。どうも個人の人生や日本人の気質、そして記憶としての日本を地球上に刻むには、後者の方が有益なような気がする……。

 

 
ところで、なぜ東日本大震災の後に読み返したくなったのだろうか。

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コメント

「日本沈没」一部は昔私も夢中で読んだ記憶があります。面白かった。続きが読みたかった。あったんですねえ。今でも売ってるかしらん。

今回のような原発事故があと一回でも起きたら、日本は経済的にも疲弊して、(今でも復興することはた易くないと思うが)会社が海外に出ていき、人も海外に出ていくという状況が起こるのは必至のことのように思えます。

そういう意味でも今回の状況は似てる様な気がするけど。。沈没しちゃうというのは国土がなくなる。帰るべきところがなくなる。ということなんですよね。。

私はあまり執着しないと思う・・・もともと故郷志向が弱いので。

そういえば、「日本以外全部沈没」ってふざけた映画もありましたっけ。。

国土(郷土)、民族、文化を守る……という錦の御旗を掲げると、不孝になる個人、という現実を見つめないといけないですね。

「日本以外全部沈没」は大傑作。映画もスゴイけど、原作も突き抜けてます。この方がインパクトあったかな(^-^)。

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