「外資の森林買収」より「日本文化の中国依存」が心配
このところ、インタビューを受けたりトークショーに出たりする機会幾度かあったが、そこで取り上げられる話題の一つが「外資が日本の森を購入している件」である。 つた、拙著を読んでいただいた人が取り上げる質問や感想の中に、必ずといってよいほどこの件は触れられている。
震災でこの話題吹っ飛んだと思っていたのだが、そうでもないらしい。
ようするに世間的には、日本の森を話題にする時に、マニアックな林業・木材産業界の内実より、ずっと関心が高いのだろう。
もちろん取り上げ方は、私がこの件を一笑に伏したことで、私の意見に賛同する声と、いやいやいや…と反論する人に分かれる。
このブログでは幾度も取り上げている(それも何年も前から!)が、少なくても、外資(たいてい中国)が日本の森を買う理由に、水資源や木材資源などありえないことはこれ以上繰り返さない。
ここでは前提を「外国人が日本の森を買っている」ということにしよう。
では、そのどこがいけないのだろう。
格安で日本の森を買収したとする声もあるが、日本人が買う気にならない土地(無価値)を買ってくれているのであり、むしろ高値だと思う。山林をリゾート地として買う場合は時価の10倍くらいになっているのではないか?
なかには中国人の名義になると、(大使館の一部にすることで)中国領になったも同然、という珍説(@_@)を披露する人もいる。領土といを概念をそんな簡単に扱えると思ったら大間違いだ。そんなこと言ったら、日本領土は世界中に広がっていることになる。
単に外資=鬼畜扱いしているのなら、戦時中より始末に悪い。なぜなら、資源の多くを海外に依存している現状を無視している。
たいていの論者は、相手が中国であるという前提で、いかに中国が危険な国か、という論法で攻撃する。しかし、その危険な国に食料も機械も衣料も、全部依存しているのだから、わずかな山林ごときで騒ぐより、先に守るものがあるだろう。
とくに、森林資源の多くは、今や自給できていない。
たとえば和紙の材料(コウゾ、ミツマタ、ガンピ)は、ほとんど中国産である。
葬式や神道行事に使われるサカキやシキミも9割以上が中国産である。
漆など和工芸材料も、ほぼ中国産である。
竹工芸品も、材料だけでなく製造までが中国産である。
備長炭だって、割り箸だって……。毛筆の材料だって。
日本文化は中国に首根っこを抑えられているのではないか? 経済的には小さくても、これらの供給が止まったら、日本文化です! と自慢しているものが壊滅する。
私は、こちらの方が心配だ。
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おはようございます!
久しぶりにコメントしますね。
ここに書かれている真実を,私を含めて普通の市民はほとんど知らない、あるいは意識していないと思います。
したがって、田中さんの正論(正しい情報?)を改めて本にして出して下さいませ!よろしくお願い致します。
「日本文化は中国に依存する!ー本当の文化とは?」てな、題名はいかがでしょうか?
投稿: 高桑進 | 2011/06/30 10:25
おお~、↑この出版を機に、
いよいよ田中組長も「文化人」の仲間入りですね。
投稿: スポット | 2011/06/30 13:09
知らない間にタイトルも決まっていた……。
まっぱた中国バッシングした方が売れるのかなあ。
投稿: 田中淳夫 | 2011/07/02 00:46
まず、わたしはアンチチャイナ派です。
中国包囲網によって、いかなる手段を用いても中国の拡大を制圧すべきと言う論者ですが・・・
この件、については、新潟の問題での・・・“領事関係に関するウィーン条約”第31条(領事機関の公館の不可侵)にかかわる問題と、土地取得の目的と規模について、不明確な部分が大きいので、このような騒動になったのでしょう。
・・・けれども、だから、問題ないということでは、わたしはないと思います。
それに、第32条(領事機関の公館に対する課税の免除)・・・なので、領事機関、大使館名義で取得されれば、地方自治体には何のメリットもないですね。
そして、・・・特に、新潟の問題では・・・
領事機関の公文書及び書類の不可侵)
第33条 領事機関の公文書及び書類の不可侵。
第35条(通信の自由)・・・などの条文に鑑みて、中ロシアの軍事的な戦略的接近を考えれば、なぜ、日本海の防衛拠点にあのような規模の土地を取得しなければならないのかと云う点を考慮すると、整合性のある取得理由が浮かび上がりません。
どちらにしても、中国を親しい国と考える人々と、仮想敵国と考える人々では温度差があります。
それと、仰いますような、“工芸材料”の中国依存を推進してきたのは、中国を親しい国と考える人々です。
養蚕でも、中国国交正常化前後の当時、本当に稚拙な養蚕であった中国に、技術供与して、国内の養蚕との競争力を与えたのは、例えばジャイカや、官民の交流団体ですよ。
このとき、農水省も積極的に協力したでしょう。
だから、このときから、国策として、日本の養蚕を潰そうと考えていたと言われても仕方ないと思いますよ。
でも、昨今では、日本の養蚕を守ろうです。
ほんとに、ばかばかしいと思います。
まず、敵として考えないといけないのは、そのような節操のない変節する世論や政府方針でしょうね。
獅子身中の虫とは、よく言ったものです。(笑)
ほんとに日本には、国家戦略や外交戦略と言うものがないのだと実感します。
投稿: 福田いくよ | 2012/03/30 13:07
はじめまして。通りすがりです。
伝統文化が中国製品に席巻されているという考えに同感です。
しかし、これは中国が進出してきたというよりも日本が自給を放棄した結果だと私は考えます。経済的理由です。日本で作るより中国の物を買った方が安いという経済の合理主義、グローバル化というやつが効率の悪い日本の一次産業を切り捨ててきた結果です。儲からなくなったから、日本で後を継ぐ人が出てこなくなったのです。その証拠に中小企業までが人件費が安い中国へ工場を移転しました。
食品に関しては安い物はほとんど中国物。冷凍食品しかり。衣類しかり。中国製品の不買運動をすればわかると思いますが、生活が成り立たない。これは、安い物をほしがる日本人が自ら招いた結果なのです。
アンチチャイナの人達には、まず中国製品の不買運動を行って欲しいと思います。アンチチャイナといいながら中国製の服を着て中国産の農産物を使った安い弁当を中国製の割り箸で食べて中国製の部品を使ったスマホをつかって反中国を叫んでも説得力ないですから。そこまで徹底してアンチチャイナを実践される方を私は尊敬します。それは日本の一次産業、伝統工芸の復興に繋がります。
投稿: 幸 | 2013/06/29 00:46
中国製品の不買運動。これ、賛成です。アンチチャイナを叫びながら、中国産食品を食べたり、着たり、安さに惹かれて中国製品を買うな! てえの。……でも、そんな根性のあるアンチチャイナ論者はいるだろうか。
……ついでにいうと、森林持っていない人ほど、森林買収に心を痛めるというのも、不思議です。
投稿: 田中淳夫 | 2013/06/29 10:04