スギ丸太をボルネオで加工?
先に、国産合板メーカー大手のセイホクグループが7月中に生産再開をすることを紹介したが、それと関連して別のニュースがあった。
同じく被災した石巻市の石巻合板工業は、津波に工場がやられて生産できなくなったことを受けて、材料のスギを子会社のサンヤン・ウッド・インダストリーズ社(マレーシア連邦サラワク州シブ)に輸出して、向こうで合板に加工することを検討しているというのだ。
あっと驚く国産材輸出・加工輸入になるかもしれない。
サラワク州とは、ボルネオ島の北側の巨大な州で、私も幾度も通ったところ。シブの街もよく行った。河口の街で、いわゆる産業都市だ。華人が多く、ゴミゴミしているが活気のある町だ。たしかにあの辺りは合板工場も多いが、当然材料は地元のメランティ(ラワン)材である。もっとも地元と言っても、インドネシアから運ばれてくる丸太も多いらしいが。
この情報は、6月初頭のことで、本気で実行するかどうかはわからない。もし実行されれば、もちろん日本初のビジネスモデルになる。
ちょっと調べて見ると、石巻工場の復旧作業スケジュールは、
・工場建物設備関係の復旧 7月中旬
・電力、水道供給設備の復旧 7月中旬(一部は6月下旬)
・合板設備の復旧、試運転 ※ 8月上旬(予定)
・合板生産の一部再開 ※ 8月下旬(予定)
となっている。再開と言っても生産量は当面半分くらいのようだが、もし少しで復旧するのに日本からの輸出-合板生産-輸入という手続きを踏むの手間を考えたら無駄のように感じる。
では、単なる「検討した」だけなのか。その可能性は高い。
だが、別の可能性を考えてみる。
推測になるが、サラワクでも原材料不足が起きている。だからインドネシアから仕入れるのだが、それは密輸に該当する可能性が高く、そんなに持続的に搬入できるわけではない。
そこで日本からスギ丸太を導入すれば、材料と産地の多角化になるし、ボルネオを森林破壊しているという批判をかわすことができる。サラワク州政府としても、原料供給基地から加工業への転換という自信が生まれる。
さらに邪推を重ねると(^^;)、石巻合板工業は、東京が本社で静岡市清水や富士市にも工場を持っている株式会社ノダの子会社だ。
ノダのレベルから見ると、石巻は生産拠点の一つにすぎず、全国各地、世界各国に拠点を広げた戦略を描くこともできる。各地の工場を結んで原材料を融通し合ったり、販売網を確立する方がプラスな面も大きいだろう。つまり、石巻にとらわれる必要はないのだ。
日本の森林資源を海外で加工するという発想は、すでに10年ほど前から始まっている。最初は宮崎のスギ丸太を中国輸出するところから始まった。形の上では中国の内需向けだったが、実は当初、広州で製材したスギ材はほとんど日本へ逆輸入されていたのだ。
それは経営上のリスクヘッジではあったが、原材料を海外から仕入れて加工を国内でする、そして海外へ輸出する……という日本の伝統的な加工貿易のパラダイムを転換するものであった。
宮崎のケースは、結果的にあまりうまく行かなかったのだが、日本が原材料供給基地となり、加工を海外に移す可能性は、ほかの業界では珍しくない。木材産業だって例外と考えない方がよい。
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田中様
おはようございます。
合板の話ですね。私が持ているネタは、中国製のポプラ合板です。震災時に合板の供給不足から輸入されたようです。日本の企業の工場で作られ、日本の規格もクリアーしていました。
さらに、問い合わせてところ、ポプラの原木は、中国産だそうです。
いよいよ、ポプラが来るかなあと言ったところです。
プロの目からですが、構造用としては、かなり質は良いですね。ラワン系の合板の比率が落ちれば、ポプラ合板は、本命になるかもしれません。
ポプラは街路樹でかなり大きな丸太になったのを切らなければならなくなり、私に買ってくださいと言った同業者に「ポプラは、マッチの軸だよ」と言って買い取りを諦めてもらったことを思い出します。
投稿: 海杉 | 2011/07/12 09:35
中国製ポプラ合板ですか。数年前に、ホームセンターでポプラ集成材が並んでいましたが。
いよいよ来たかという気がしました。
中国は、緑化のために中国ポプラ、いわゆるアスペンを大量に植林していますが、もう伐期が来ています。しかし、ポプラ材をどのように使えるか未知数だった。集成材や合板に加工できるとなると、今後大量に出回るかもしれない。
国産スギ材は、やはり出番はなくなるかな。
投稿: 田中淳夫 | 2011/07/12 10:43