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森と林業と動物の本

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2011/07/16

法正林を見た!

昨夜までの2日間、岐阜を訪れていた。郡上踊りは見損ねたが、代わりに見たのが、法正林(ほうせいりん)である。

  • 法正林とは、所有森林の毎年の生長量に合わせて土地を分割し、その分を伐採・造林する林業理論である。たとえば森林を100に区切って、毎年1区画ずつ伐採し、その跡地を植林していけば、100年後に全面積を伐採することになるが、同時に最初の都市に伐採・植林した林分は99年生に育っており、次の年には次のサイクルに入れるわけである。そして林齢が1年から100年までの森林になっているはずだ。
  • 持続な森林経営を行える林業理論として、19世紀にフンデス・ハーゲンによって唱されたのだが、それがドイツやフランスに大きな影響を与えた。日本にも明治時代に導入されている。
  • 日本には、明治初期に紹介され、数式に裏付けられた近代的な理論として定着。後の林業に大きな影響を与えた。

  • しかし、、現実の林業現場では、毎年同じ面積・材積だけを伐採していくということは、ほとんど不可能だ。木材需要は変動するし、それに合わせて材価も変わる。物価自体が変動さらに災害などに合えば規則正しい林齢を育てることは至難となる。
  • だから机上の空論としてドイツは早々に放棄したし、日本もすぐに挫折した。

    その法正林に限りなく近い森林が日本にあったのである!

    それが中原林業だ。500ヘクタールの山を持ち、それなりに発言力のある社長がいるのに、意外と林業界では知られていない。歴史は、今年で280年となり、現当主は、9代目になる。

    そして代々受け継いだ森林経営理論があって、それが気がつけばドイツの法正林とそっくりだったようだ。

    私は、前々から話を聞いていたのだが、ようやく訪ねることができたのだ。

    いやはや、驚きの連続であった。

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    荒れた放棄林だったが、強度間伐を入れて甦らせた林区。




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    所有林でもっとも古い時代の植林木が残る一体。130年ものがあるという。

    本当に1、2年ずつ林齢の違う森林が並んでいるし、さまざまな施業法を取り入れて、その結果をわかるようにしている。まさに施業法のパラダイスであった。
    正確には厳密な法正林とは違うが、実に多くの森づくりの事例が眠っている。

    たとえば幅4メートルで法面が5メートルとか10メートル、中には30メートル! を越える絶壁のような法面を持つ作業道網がひろがっており、しかし、崩れていないのである。大橋式林道真っ青(^^;)。

    さらに皆伐はいかん、といいつつ皆伐技術の伝承のために行われている皆伐地もあれば、トチやケヤキ、クリなど広葉樹植林にも挑戦している。

    いろいろ含蓄のある話が聞けたのだが、それはおいおい紹介するとして、ともあれ本場で破綻した法正林思想を体現している森林が日本にあるのだからちょっとすごいではないか。

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    コメント

     そういえば、私が田中さんに初めてお会いしたのは2年ほど前の全国町村会館(永田町)山村セミナー(?)でした。その時、講演が4本立てくらいでした。その1人が中原さんでしたよね。
    私は、中原さんの講話にも衝撃を受けました。
     その後しばらくは、中原林業と件などに行くたびに唱えていたのを思い出します。
     そうですか、法正林を形成しているんですね。
     個人林家では不可能だとしても、地域で何とか法正林に近づけることは出来ないものかと考えたりもしました。でも、既に私の町は20年以下は極端に少ない。でも、収穫適地に絞れば、法正林を考えることは出来るかもしれません。
     もう少し考えてみます。
     
     今でこそ、ゲロしますが、あのセミナーで私は田中さんにサインをお願いするときに、「役所の後輩にもらってくるようにといわれたので」と申しましたが、うそデース。ああ、鈴木様へと入れていただけるというのをそのままお願いすればよかった。
     私の宝ものになっています。その後もう1度お会いした時にもサインをお願いしたのですが、それも宝物の1つになっています。こっちには鈴木様へと書かれています。

     森危機と森コロです。

     それにしてもあのときの中原さんの語り口、内容は断片的にしか覚えていませんが、あの勢い、思い入れ、魅力を感じ、「やれるのだ」と「やらなきゃあ」と思った1時間でした。今でも思い出せます。

    私も、中原林業を知ったのは、そのセミナーですよ。サイン、したかなあ(笑)。私は、山村活性化問題を話した気がする。

    誤解のないよう触れておきますが、法正林にすることが林業経営として優秀というわけじゃないです。
    それをやるには面積を始め、多くの条件がつきまといますから。また中原林業の手法が全部よいというのでもなく、土地ごとにやり方は変えるべき。

    むしろ私が注目したのは、法正林があると、非常に勉強になる。数年でどれだけ生長するか、その間にどんな施業をするとどのように変化するか。間伐後の環境変化もわかりやすい。
    つまり、林業技術を学ぶ場としてよいと感じたのです。実験もいろいろできる。

    だから法正林づくりをめざすのは、大学の演習林が向いてい
    ますね。もっとも、その技術も予算もないだろうけど。
    そして、中原さんのように話せる教官もいないなあ。

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