福島森林除染計画4-福島材の風評被害
森林除染計画を書きつらねたわけだが、核となる木材利用についても触れておかねばならない。
問題となるのは、福島材は放射能汚染されているのか、そして風評被害はあるのか、という点だ。
理屈の上では、製材に放射性物質が付着している可能性は極めて少ない。放射性物質および放射線を浴びた原木も、樹皮、枝葉とも除かれているからだ。しかも製材時に材の表面に当たる背板も切り離しているのだ。ユッケのような生肉を食べる場合の「トリミング」と同じ作業をしているわけで、危険性のある部位は削っていることになる。
まだ日が浅いので、樹木が放射性物質を吸収する状況にはない。仮に水とともにセシウムなどを吸い上げていたとしても、形成層に留まるだろう。木質部に移る可能性は極めて低い。
そもそも材のうち心材部の細胞は、生命活動を止めている。師管・導管にもリグニン様物質が詰まっているはずである。そりゃ疑えば形成層に滞在した汚染水が心材部にも染み込んで来ることも考えられなくはないが、非常に時間がかかるだろうし、人体に何らかの影響の出ることはまずありえない。
ともあれ、原発事故後何年も経って樹木の生長が進んだ時期なら「木材の内部被曝」はありえても、現時点で心配することはない。その点からも、早く伐採してしまうに超したことはないように思える。
それでも製材所などの聞き取りによると、一時期注文を断られたケースはあるそうだ。また放射線量を計測するように要求もきたという。
そこで計ったところ、樹皮部分で120ベクレルという数値が出た(5月時点)が、木材部は検出しなかったという。もともと木材は食べるわけじゃなし、問題ありと騒ぐレベルではない。
食べ物の場合は、本当に「風評」被害なのか、あるいは実害なのかわからぬ部分があったが、木材商品に関しては、完全に風評被害だけが問題になるだろう。
ただ樹皮からつくられる畜産用敷き料や、バーク堆肥は、もはや使えない のは事実だ(通達が出ている)。この点からは、木材産業の副次収入を失ったことになる。
幸か不孝か、水産物と農産物がクローズアップされて、林産物の放射線はまだほとんど注目されていない(椎茸などキノコ類は別)。だが、何かの際にマスコミに取り上げられて不安を煽られる可能性もなしとは言えない。だから飛び火する前に対策を考えておくべきだろう。
先んじて計測して、線量の低さ(あるいはゼロであること)をアピールするなどの手段が必要ではないか。
あるいは福島にとって森の恵みこそが最後の砦である……と知らしめるレベルの高いイメージ広報戦略を築けないか。天下の大広告代理店が挑んでほしいものである。
なお、林内作業に関してだが、現在、福島県の森林組合20のうち、避難区域などに入って仕事ができない4つの組合の、3月4月の2カ月分の損害賠償として、県森連から東電へ約5600万円が請求されている。逆に見ればそのほかの地域は通常の林内施業を行っているらしい。
飯館村、双葉地方、相馬地方、福島中央(都路支所)の4つだ。言い換えると、この地域では仕事ができなくなったということになる。これらの地域の木材を搬出するのは不可能だろう。
なお、これは森林組合の労務損害への賠償請求であり、森林所有者の損害、とくに木材資源の損害には触れていない。今後、こちらもクローズアップされるようになるかもしれない。
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形成層だけでなく辺材部は水分移動に関わっているのではないでしょうか?
実際セシウムは材内部からも検出されています。もちろん問題があるレベルじゃありませんが。
http://www.rada.or.jp/database/home3/normal/ht-docs/member/synopsis/160025.html
投稿: Taka | 2011/07/27 03:22
辺材部は可能性あるでしょうね。
でも、それだって時間がたってからと思うのですが。少なくても今年の材は表面に付着している分(つまり枝葉と樹皮)だけではないかな。
投稿: 田中淳夫 | 2011/07/27 09:17