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森と林業の本

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2011/08/18

林業は、ニーズでなくシーズの産業

戦後長く、林業は売り手市場だった。木材不足が続いたからだ。

文句付けるなら売らない、といえば良かったのだ。それが林産業界を傲慢にして、無茶苦茶な商売やっていた。そのツケを払っているのが現在の業界で、国産材が売れなくなった理由の大きな部分を占める。

そして、今は買い手市場だ。消費者が何をいくらで買うか決める。国産材でなくても外材もあれば、非木質素材もいっぱいある。選べるのである。

現代の経済社会では、エンドユーザーがバイイングパワーで主導権を握っている。アイテムも価格も、消費者が事実上決める。ニーズが先。消費者があって、商品をつくる、素材を供給する、ことが大前提になっている。

 

……と、ここまでが、前段。拙著『森林異変』でも記したことだ。

しかし、もう一歩深く考えてみよう。あこぎな商売は別として、本当に木材を買い手市場のままにしてもよいのか。

林業・木材産業のネックは、樹木の生長が自然環境と時間に縛られていることだ。その点が、ほかのプロダクツと大きく違う。

完全な買い手市場に対抗するには、この自然環境と時間のくびきを絶たねばならない。
たとえば、同じくびきを背負う農業では、水耕栽培など野菜工場をつくることで、かなり克服した。気候などに左右されずにつくれるうえに、栽培時間の短縮にもつなげた。作物を変えるのもかなり簡単だ。同じ工場で、いくつもの作物を切れ目なく生産できる。消費者の注文に応えようとすると、ここまでいかねばならぬ。

林業も、こんな方法で、買い手市場に対抗するか。

「もしもし、毎度。ヒノキの6メートル柱100本と、モミの幅30センチ2メートルの板300枚、来月まで届けられない?」

 

「来月までですか。厳しいなあ。ヒノキなら、第3工場の出力をアップして増産してるからなんとかなりますが、モミは今どき稀少ですねえ」

「それが突然、大口の注文入ってん。なんとかならんか」

「……では、明日から第2工場の特別促成栽培室を稼働させて来月末には間に合わせましょう。ただモミは早く生長させるには特殊な薬剤使うんで、材質がちょっとひずむんですわ。そこんとこ、了解してくださいよ」

 

「かなわんなあ。歪みは最小限にしといてや。乾燥で調整できるやろ」

……とかいう会話をして、木材ビジネスが展開できたらいいのだが。試験管で苗育てて、養液栽培で木を数カ月で育てるのだ。

もちろん、無理だ(-.-)。


 

おそらく林業は、最後まで生産が先にある。ニーズは、素材に合わせてつくらねばならない。いわゆるシーズから始まる産業である。シーズとはビジネスの種である。

この点が、決定的に現代社会の経済に合わない所以だが、だからといって諦めてはいけない。むしろシーズからニーズを生み出す産業体系を構築するべきだろう

幸い木材≒森林には、目に見えない魅力を備えている。ときにそれは、熱狂的にとりつかれた人が出る。それは宝石とかブランド物と同じである。キャラクター産品にも近い。
彼らをプロダクツ側に引き込めば、シーズを最大限にニーズへ近づけることができるはずだ。

残念ながら、現在の林業は生産側が孤立して、本来味方にすべき流通を消費者側に追いやってしまった。潜在的なファン層をないがしろにしたのだ。そのため国産材というシーズを捨てて、ニーズまかせに木材以外の素材を全世界から調達させている。

シーズからニーズまでの間をつなげる人材を探せ。

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コメント

 国産材のタネをまいている人はたくさんいると思います。
 ニュース記事でも見かけるようになってきましたし、多くのホームページやブログ、ツイッターやフェイスブックでも語られるようになってきています(よね?)。

 タネに水をかけてくれたり、最初のうちは遮光してくれたり、そのうちに添え木をしてくれたり、いろんな人が出てきます。
(たまに、障壁を作ってくれる人もいますが・・・)
 
 タネを撒いた人同士の技術研鑽も必要でしょうし、補助作業をしてくれる人たちの連携も必要。それを、最終的には責任が明確なビジネスとして成立させてくれる人がほしいです。

 責任と自信を持って(自覚して)、消費者の方に押し付けてくれる(ニーズを作り出す)ほどの行動力を持った人がほしいです。
 
 山の方は相変わらずそこにあり、木々も環境としても生物をはぐくみながら景観としても木材の生産の場としても存在を続けていますし、林業家たちは林業を続けています。林業家のみなさんからもタネを撒く人が出てきたようにも感じます。
 

小さな林業界でも、タネをまく人はいる。そのタネを育てる人もいるでしょう。

昨日訪れたところもそうだった。

でも、せっかく育ち、みんなに見てもらいたい花が咲いても、近隣の人は「うちでも咲かせよう」とならんのね。
ここが林業界最大の弱点かも。小さな特殊例扱いになる。

でも、シーズから入る覚悟で、林業を見つめたら、新しい種まき人が増えますよ。

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