林学は林業、山村を扱う総合学問
8月も、いよいよ明日で終わり。学生にとっては夏休みの終わりになる学校も多いだろう。
そして受験生も、夏が終われば終盤戦。もはやラストスパートする体力勝負だ。
ふと思い出す、自分が受験生であった頃。
私は、どうしたことか農学部の中でも林学科を選んだわけだが、当初は「森林学」をしたくて選んだのであった。ところが入学してわかったのは、林学とは森林学ではなく、林業学であること。産業の一つとしての林業に必要なことを学ぶ。
だから大学の林学科に席を置いていた時、中身は各方面の幅広い学問分野を含んでいることに気がついて驚いたことがある。
直接森林に関係ある植物学や動物学、さらに専門的な樹木学、造林学、そして森林生態学はもちろん、土壌学や気象学、病理学、そして生化学もある。まあ、この当たりは森林学にも通じるからよかったのだが、それ以上に重視されたのが、機械・土木、そして砂防や治山、水文学などの工学であった。また測量実習もあった。
さらに文系の法学、経済学、経理学、政治学、社会学に歴史、地理まで何らかの形であるのだ。労働法規とか会計学まであって、帳簿の付け方まで教わる。
これで「文学」があったら完璧だな、と思ったのを覚えている。もしかしたら林業文学なんて講義を行ったら面白いかもしれない。
おかげで、森林学をめざした学徒だった私は、呆然として焦ったのだが、思えばこの総合学問的な様相が、非常に役に立った。むしろ私は、森林に絞った林学より、総合学的林学が向いていたのではないかと思う。
だいたい理系でありながら数学や物理は苦手だったし。一方で歴史・地理など社会学系はかなり得意だった。意識せず、林業や山村から遊離しなかったのである。
今の私は、この総花的学問がつくったのではないか。
しかし、なぜ林学とは、こんなに幅広い状況なのだろう。改めて考えるに、林学が扱う林業とは山村地域そのものを扱う学問だからではないかと、思い出した。
林業学ではなく、山村学だったのだ。そして山村は、さまざまな分野を内包した総合的な世界だから、否応なく広い分野を学ばなくてはならなくなったような気がする。
もっとも、今や「林学科」は、ほとんど姿を消した。変わって「森林科学なんとか科」とか、「生物資源なんとか科」なんて名前になっている。
こうした名前に変えたことで、結果的に学問の幅を縮めているのではないだろうか。
そして、(かつての私のように)森林学をやりに大学入ったのだから、林政や経理学なんてやりたくありません! と思っている学生も増えているのではないか。おかげで森林昆虫ばかり集めて、ビジネスなんぞに触れたくないと思っている研究者もいる。
当時から林学と林業の乖離が問題視されていたが、いよいよ林業を研究して、現場に返す意識を持った人は育たなくなるだろうなあ。
……と、夏の終わりに考えたのであった。
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こんにちは。
現在、大学で森林学を学んでいる者です。
ブログにも書かれていた通り「森林学科」と「林学科」を比べると
前者の方がイメージが良いのだと思います。
私の年代で林業に良いイメージを持つ人間はかなり稀です。
人気であればもっと増えるのでしょうが・・・。
ただ、ビジョンをもって学んでいかなければ林業関係の職に就くことは少ないだろうと思われます。
現時点においても、「森林」の方が「林業」より人気であることは確かであります。
誰もしたがらない事にこそ研究意義があると私は考えております。
話は変わりますが、森林が多方面からのアプローチが必要であることは実感しています。
理系・文系問わず関わる問題が多くある中で、自然科学でこれれを包括している学問はなかなか見当たらないのではないでしょうか。
これも森林の恩恵と言えるのかも知れませんね。
長々と失礼致しました。
投稿: Mohri | 2011/08/31 00:51
「森林学」を学んでおられますか。「林業学」ではなく(笑)。
森林科学などなどに名を変えたら人気を呼んだ(とくに女子学生が増えた)効果は認めますが、名前に縛られることなく、いろいろ手を出してください。
学生時代は、興味のない分野まで勉強させられるのが苦痛でしたが、結果的に幅広く学ばねば、全体像を理解できないのが森林です。林業ビジネスはもちろん、文学、美学まで手を出してみたらいかがでしょう。
投稿: 田中淳夫 | 2011/08/31 09:05
田中組長!
9月に森林と環境問題解決への提言をされますね。
参加予定です。
養老孟司先生の「日本の森林と環境問題」を聞いてからが、一番楽しみ〜ですね(^|^)
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日時:9月19日(月・祝)
場所:郡上市総合文化センター
(郡上市八幡町島谷207-1:郡上市役所隣)
13;00〜 「日本の森林と環境問題」養老孟司
15:00〜 「郡上市の森林の現状と課題」
郡上八幡市林務課長
15:15〜
パネルデイスカション:郡上の木材活用による森林と環境問題解決への提起
コーデイネーター 田中淳夫(森林ジャーナリスト)
パネラー
石田五秀(郡上森林組合長)
美谷添里恵子(白鳥林古工協業組合理事長)
小酒井勇(郡上市環境団長)
村瀬由加里(郡上わりばしプロジェクト実行委員長)
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皆さん,押し掛けましょう!
投稿: 高桑進 | 2011/08/31 12:21
日曜日であれば押し掛けたかったのですが、いつの日か講演を聞きに行きたいです。
投稿: 8-mori | 2011/08/31 12:55
このシンポジウムの主役は養老センセイで、私はコーディネーター。あんまりしゃべらないです(^^;)。パネラーも、地元の方々ばかりですので、どんな話題を振るべきか決めかねているのですが……。
なぜ木材を活用しなければならないのか、市民意識を喚起することができればよいのですが。
投稿: 田中淳夫 | 2011/08/31 17:00
田中組長殿
いやいや、養老先生はもういいです!
やはり、地域の林業を活性化する具体的な提案を期待しておりますよ!
地元との熱い話題で盛り上がりましょう!
参加者は、田中さんに期待してこのようなシンポを企画したに違いないのですから!
ふふふふ----。
投稿: 高桑進 | 2011/08/31 17:56