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森と林業と動物の本

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2011/10/09

山村に広がる柵

今日は、滋賀県の湖西地方へ。

見てきたものは、また改めてとするが、山間を訪れて異様な気になったのは、見かける集落のいずれにも、長大な柵があることだ。

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このような柵が各地に広がっているのだ。かなり立派な代物で、電気まで流れている……。まるで収容所だ。

柵の中に何があるかと思えば、何もない。単なる農地である。水田もあれば、野菜畑もある。

このように言えば、想像がつくだろう。

そう、これは野生動物の襲来を防ぐもの。主にシカやイノシシ、サルなどだろう。尋常ならざる警戒なのである。

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こんな感じで、住居全体を柵で取り囲んでいるケースもあった。
ようするに庭を襲われないようにしているのだろう。

もう一つ。林地も例外ではない。

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こちらは柵ではなく、ビニールテープが巻かれている。

これはクマハギ除けである。

おまじないではなつ、クマがスギの皮を剥いでしまうのをふせぐためのものだ。
もっとも、最初はテープを警戒したクマも、最近では引きちぎるそうである……。

山村は、単に農林業の不振や過疎化だけでなく、野生動物との戦いの場になりつつある。

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地域・田舎暮らし」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。
三重県の山村で養蚕を試みている福田と申します。

わたしの専門は、林業には直接関係しない染織の分野なのですが、暮らしている地域が、過疎高齢化・林業不振に苦しみ地域であるものですから、地域の問題を考える上で、参考にさせていただくべく、以前から、田中さまのブログを拝見しておりました。

「山村は、単に農林業の不振や過疎化だけでなく、野生動物との戦いの場になりつつある。」・・・仰る通りです。
ご紹介されているような、りっぱな野生動物の食害対策用の防獣柵は、助成金が出て、設置される方も負担の上設けられたものだと思うのですが・・・
助成金などの補助が在るとは言え、やっぱり、随分な原資を投入しなければなりません。でも、実際は、それに見合うだけの農業生産からの収入って期待できないのが多くの場合の実情だと思います。

それに、過疎高齢化地域で、年金収入が主な収入源というような、高齢者だけで営まれている自家の食材を補う為の耕作なども場合、お金もかけられないので、手製の防獣柵を耕作地にめぐらせていますが、この管理だけでも案外大変な作業です。

うちの近辺でも鹿・猪・猿と、場合によっては熊が出ます。
特に、鹿・猪・猿は、人馴れしてしまっていて、ちょっと脅かすくらいでは、逃げずに、警戒距離を巧みに保って留まるというような状態ですが、駆除してくれる人も高齢化で地域には少なくなり、野生動物の食害の深刻な被害に対して、今の所、解決の手立てはありません。

だから、何処の山村でも、同じようなことだと思いますが、・・・
耕作や植林をする前には、まず、防獣対策がありき。・・・なのですが、それにも費用がかかり、そのような余分な経費を吸収できるような利益を生むことが難しい、農業・林業の現状です。
だから、農業では、耕作放棄地が増えることの一因つっくているのは確かですが、・・・あまり、そのことには言及されませんし、野生動物保護に偏った立場からは、“鹿などの野生動物が悪いのではない。”・・・的な、林業の問題だとする意見が根強く、それ等の論理は、一部頷ける所もあるものの、実際に林業だけが問題なのかという点も検証されていないし・・・。結局明確な解決策を提示するわけでもないし、・・・ということで、困惑しているのが林業にも携わりながら山村での農業を維持している人々です。

「野生動物との戦いの場になりつつある。」・・・ほんとうに実感する御指摘です。

「養蚕を試みている」というのは、伝統的な養蚕を行っているのではなく、新たに挑戦されているのですか。興味ありますねえ。(昨年まで養蚕事情を追いかけていたもので。)

ということはさておき、写真の柵は立派すぎますが、ほとんどのところは自作らしき簡易なものですね。それでも、中でつくる農作物の利益と負担額は割に合わないでしょう。
それでも、柵を建設してまで作付けするのはなぜか。もはや収益とは関係ない次元で、「人間の領域を守るため」という感覚に包まれました。それが「戦いの場」という言葉になったのです。
それなのに、人間側から野生動物側の味方をする裏切り者が出ている(^^;)のが現状でしょうか。

 当集落も周りを山に囲まれた集落であるがため近年野生動物の被害が増えています、特に悪さをするのが猿ですかね。
写真のような防護柵の設置にはまだ至っていませんが、もっと山間の集落では檻の中で人間が農作業をするような、まるで動物園が逆になった状態の集落もあります。

なぜそこまでして農作業を行うか?
当然のことですが採算は取れないことぐらいは皆さん承知の上で農作業を行っているのですが、だいたい採算度外視で農作業に携わる方は高齢者が多いのですが、先祖より受け継いだ農地を荒らすことへの罪悪感よりも、農作業は薬なんです!
家の婆さんも、足腰が痛いなどと常に言っているくせに農作業をしているときは生き生きしております。
ほかの方々に話を伺っても、同じように楽しいとかボケ防止の薬です(笑)という言葉が返ってきます。
そんな訳ですから、楽しい趣味として見つめていくしかないと思っています。

なぜ野生動物がこれほど悪さをするようになったのか?
里山が荒廃しているなど諸説あるようですが、一説によればハンターの減少に比例して野生動物の被害が増えてるようでハンター人口はピーク時の4分の1まで少なくなり、増えている野生動物よりも絶滅危惧種になりつつあるそうです。

「ぼけ防止の薬」、納得です(笑)。
同じくわが父親も、体中が痛い、動かないといいつつも、家庭菜園や庭仕事に熱心だもの。

野生動物の害が増えた理由は、何より数が増えたことだと思いますよ。動物の数が同じなのに、悪さする量を増やすとは思えない。シカもカモシカもクマもサルも。
そして増えた理由は、食料が豊富になったことと、ハンターが減ったことは大いに関係あるでしょうね。

(昨年まで養蚕事情を追いかけていたもので。)・・・この件とても興味あります。
ブログあるいは、出版物で記事になっているのでしょうか。?
是非拝見いたしたく思います。

興味をお持ちいただきました、うちの養蚕のことですが、・・・
わたしは、もともと染織が専門です。
“国産の絹”を使うということで、つづけてきたのですが、
ここ数年、目に見えて素材の確保が難しくなってきたという事情から、自分で養蚕まで手がけて日本の絹にこだわるか。あるいは、単なる素材を割り切って、コスト的にも楽な輸入絹を使うようにするか。・・・という、選択に迫られたことがきっかけで、結局、自分で養蚕をやり始めました。

一応、養蚕・製糸は、機織の周辺にある分野ですから、知らないわけではなかったのですが、やっぱり、養蚕が廃絶してしまっている三重県で再び行うというのなら、「先ず、桑を植えて・・・」からですから、躊躇がなかった訳ではありません。
それに、うちの場合では、単に衰退してゆく養蚕を手がけることの、もの珍しさを目的としたものではないですから、今後、用具や、蚕種や、桑苗が、容易に入手できなくなることもあるとした上で、将来も持続できる確信を得てからでないと始められませんでした。

だから、まず、最初に独立して持続してゆくことが出来るだろうかということを考えました。
養蚕事情を追いかけていらっしゃったのならば、御理解いただけると思いますが、・・・。

現在の時点で、スタンダードな養蚕のかたちは、群馬県などで工夫された、均一的な品質と量産を目的とし、昭和30年代以降の農家の人手不足を補うように考えられてきたものです。
それから、また、発展して、ホルマリン=ミストによる消毒設備や、温度湿度の飼育環境をコントロールできるような飼育設備を導入したものに至っているわけですが、・・・。
しかし、このような設備に頼った養蚕や、他に稚蚕飼育を依頼しての養蚕なら、関係した組織が方向転換すれば、独立しての持続は難しいと思いました。
加えて、このような大規模設備の初期インフラを投入しないと、“趣味の養蚕”の品質のものしか得られないのかという点も慎重に検討いたしました。

結論としては、恒常的に少ない労働力で大量の飼育を繰り返すのならば、そのような設備が要求されるようになってくるということで、・・・自分の必要な量の規模の養蚕を考えれば、伝統的と仰られるような、地域の気候風土を利用した飼育法が合理的だというところに落ち着いたのです。
それに、少し以前のことですが、旧鐘紡のF1種を製造する為の原種飼育を請け負っていらっしゃった農家さんでは、伝統的な飼育法で飼っていらっしゃったことなども聞き取りましたので、それに準じて試験飼育を試みた結果では適正規模で丁寧に飼う事によって、品質も担保できることや、また、飼育操作を変えることによって同じ品種でも驚くくらいの糸質の変化が生じることも、経験的に確認できました。

・・・そのようなことで、わたしは、山村で行う伝統的なスタイルの養蚕を、自分の養蚕のかたちとしている訳なのですが、今後、少しづつ、桑園を拡大してゆくことと、自分の求める品質が得られるように品種ごとの飼育法を考えてゆくことが課題です。
往時のような、県や製糸メーカーからの飼育指導が得られない今日では、これ等のことを自分でやってゆくしかないのですが・・・。

手っ取り早く養蚕を始めるのなら、群馬などの、まだ養蚕をなさっているところで研修して、そのやり方をコピーするのが近道なのだから、わたしは遠回りしているようなものかもしてませんが、けれども、ある意味で、わたしの選んだ進み方は養蚕の発達過程を辿ることにもつながり、色んな点で違う視点から養蚕を見つめることが出来たのが良かったと思います。

いえ、仕事の一環で「福知山の養蚕」を記事にしたものです。
ただ1年がかりで追いかけ、書いたのは数ページ(^^;)。

養蚕・製糸は日本の一大産業だったわけで、その過程で大規模化・分業化が進みました。今となっては、それが仇ですね。一カ所が欠けると、全体がしぼんでしまう。……書いていて、林業も同じだと思った(^^;)。分業が進みすぎて、ニーズに合わなくなり、衰退したのです。

それをとりもどすために、一貫して生産しようとされる方もいますが、これは大変な作業です。
桑の栽培から始めているのですか。蚕種までつくろうとするとオオゴトですね。しかも趣味ではなく、ビジネスとなれば品質も要求されますし……。
ただ、各地に一貫生産(養蚕~染織~商品化)に取り組んでおられる方もいるようですので、連携されてはいかがですか。


ちなみに福知山には伝統的養蚕農家が3軒ほど残っています。

福知山の養蚕を取材なさったのですね。

仰られる、〝一貫生産(養蚕~染織~商品化)〟って、いわゆる川上から川下の提携のことだと思うのですが・・・。

事情は、林業と一緒で、かつ、林業よりもマーケットが狭いかもしれない国産の伝統的な繊維分野ですから、難しいのですよ。
結局、御教示下さった〝木製トレー〟みたいなことに・・・

それに、最近の絹関係のヒットといえば、繭パフとか、そんな感じなので、国産の絹である必要もなくて・・・なんだか行く末が寒~い感じですよ。(笑)

碓井も宮坂も上田蚕種も取材訪問しましたよ。

繭でなでれば、病気が治る! というカルトな(^^;)健康法を唱えておられる方もいますね。
ほか、洗濯機であられるシルク製品とか。

正直言って、国産シルクである必要性は薄いですね。

古い話題にコメント恐縮です.

先週四国に行って高知や徳島の山岳連盟の人と話をする機会がありました.

その時聞いたのが,三嶺(徳島ではみうね,高知ではさんれいと読む)から剣山に行く縦走路の話.20年前ぼくが行った時には壮絶な笹藪漕ぎを強いられたのですが,当時まさに無限のボリュームをもって登山者を苦しめた笹が,現在では鹿に食べられて丸坊主なんだそうです.高ノ瀬の南巻き道なんて,靴底が地面につかないくらいのヤブだったんですけど,今は「唐傘を持って踊れる」ような道に・・・

ということは林業ですでに食害が出ているかもしれませんね.鹿,おそるべし.

いやいや、林業における食害は、現在の最大のテーマです。なぜなら植えても育たないから。再造林が不可能になっている大きな理由の一つなのです。

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