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森と林業と動物の本

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2011/10/31

森林除染と松林

福島の森林における除染が、ようやく注目を集めだした。夏前に私が提起したときは、どこも冷たかったのに……という愚痴はさておき、肝心の除染方法でまた論議が起きている。

というのは、放射性物質は主に落葉・腐葉土に付着していることが確かめられたことから、地表から5㎝程度の土を掻きだせば効果的という意見に対して、危惧する(反対する)?声が出ているからだ。

というのは、森林土壌を5㎝も剥げば、森林の肥沃さが奪われるというのだ。森林土壌1㎝つくられるのに何十年かかると思っているのか、と。そこは多くの節足動物や菌類も棲んでいる……。

しかし、なんだか馬鹿げた発想だ。そもそも、放射性物質を含んだ土壌を肥沃土とすることに違和感があるし、肥沃な森林土壌がよいとは限らないからである。

というのは、戦前、いや戦後すぐまで、里山の森林土壌は常にはぎ取られていた。落葉や腐葉土は、恰好の肥料だったからである。田畑に漉き込むために山の土壌は書き取られたのだ。
だから里山は痩せており、松林が多くなったのだ。おかげでマツタケがよく採れた。現在の森林土壌は、化学肥料などが普及し、薪炭も使われなくなった後に生み出されたものだろう。

また地下の節足動物や菌類の菌糸は、いろいろな階層に延びており、地下深い種類も少なくない。5㎝剥いだくらいで全滅するわけではない。

もちろん奥山には、長く腐葉土をため込んだままの場所もあるが、今回の除染対象となるのは人家の周辺森林だろうから、まさに里山の雑木林や人工林ではないか。つまり、戦前と同じことをするのが、除染になるわけだ。

私は、土壌をはぎ取るだけでなく、木々も伐採したらよいと思っている。そして枝葉を取り除くことが除染になる。幹は、木材になるところは利用し、それ以外はバイオマスエネルギーとしてボイラーで燃焼させる。そのボイラーには、ちゃんと放射性物質を取り除くフィルターを付けておけばよい。

そして、その後が肝心だ。伐採跡地はやはりマツを植えよう。痩せた土地にもっとも向いた樹木なのだから。

今や全国的にマツ材は不足気味。みんなマツクイムシにやられたからだ。また土壌の肥沃化によって天然更新しにくくなった。

しかし、マツクイムシに強い品種は、すでに開発されている。ただ植林する機会が少ないだけだ。しかし、今回の除染活動に合わせて大々的に植林すれば、数十年後には素晴らしい松林がつくれるだろう。そしてマツ材の供給基地として福島は成立できるのではないか。

国産木材と言えばスギとヒノキばかりになっている現状で、マツを増やせば林業地として差別化できる要素になる。

チェルノブイリではマツが早く枯れたという事実もあるのだが、それは強度の放射線に弱いだけで、福島のような低レベル放射能なら生育に問題はない。ただ放射性物質を吸収して枝葉や材に蓄積する心配はあるのだが、これは研究を要する。除染後ということを考えれば、土壌に残る分の量は極めて少ないだろう。
それがマツ材の生産に支障をきたすと想像できない。さすがにマツタケはいくら生えても、食せるかどうか心もとないが……。

現在、大規模な松林が残されているのは、青森県の太平洋岸だそうだ。幸い津波にもあまりやられずにすんだとか。ぜひ機会があれば視察したいと思うが、東北は松林とマツ材で復興をめざせるのではないか、と夢見ているのである。

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コメント

賛成です。正直なところ人工林の伐採(主伐?)後に再び「杉、桧」を再植栽するのに異論を唱えたいと思ってたところなんでこの船に乗って対岸に渡ります!
松だけでなく稲本さんの提唱する広葉樹の植栽も良いかと。
50年後が楽しみです。
ついしん
今日、Amazonから『日本人が知っておきたい森林の新常識』が届きました。

前職場の上司(故人・きのこの専門家)がよく、

「マツを守りたいなら、山に火をつけるのが一番良い」

と冗談まじりに言ってました。

事実でしょうね。マツはパイオニアの木ですから( ̄ー ̄)ニヤリ

除染を通じて、福島の植生を変えて、林業の方向性も変える……そんなマクロな復興計画がほしいですね。

※拙著のお買い上げありがとうございます。
遅ればせながら、サイドバーに『日本人が知っておきたい森林の新常識』のリンクを張りました。これからお買い上げ、次回お買い上げの祭にはよろしく!

↑リンク先、Amazonだし(;^_^A ・・・ ⇒
今週は仕事も含め超過密スケジュール、
土曜日に木工機械展の特別展示ブースに終日張り詰めるんで一日かけてじっくり読ませていただきます。

いやあ(^^ゞ。
アフェリエイトはAmazonしか連動してないので。(ちなみに誤字がありますな。「お買い上げの祭」は祭りではないよ。)

土壌学はディープな世界で,「こんな研究やってたの?」と驚かされることは多いんですけど,「森林土壌を5cm人為的に剥いだら何が起こるか」というテーマで研究やってきた人はいるのかな・・・

研究していたら、ぜひ声を上げてほしいものです。今をおいて研究を現場に活かすチャンスは来ないかも。

<ちゃんと放射性物質を取り除くフィルター>とは?
現時点で在るのなら良いのですが・・・。
「思いつき」ならチョット・・・。

もちろん専門家に確認していますよ。
技術的には、そんなに難しくないそうです。

だいたい福島原発の冷却水の循環システムでも放射性物質を除去する装置があります。

森林土壌の除去実験、アメリカのCoweetaで視察した事があったような気がします

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