EMから自然の神秘とカルトについて考えた
さるNPOが送ってくれた会報をパラパラ見ていると、EM(有用微生物群)のことが書いてあった。
それが常軌を逸している(笑)。
EMは放射能除去できる、という主張なのだ。いや、この主張は私も聞いたことがあり、一笑に伏していたが、詳しくは知らなかった。どうせ末端信者が口走っているのだろうと思っていたのだ。が、この記事によると、EMを「開発」した比嘉照夫・元琉球大学教授の講演で話していたことのようだ。
「EMには非イオン化作用すなわち、電気を帯びさせない力があるとか、いろんな有害な波動が消えてしまうとか、放射能さえもコントロールするという重力波が関与している」
「放射能が多少残っている所は生育も収量もいいし、味も良いのです。EMをしっかりやっておくと、放射能を吸わないんです」
「ようするに放射能といえどもEMにかかったら最後、土の中の太陽に変わってしまうのです」
「EMを総合的に使えば、ダイオキシンはもとより環境ホルモン、重金属、有害化学物質などは、すべて無害化できると私は言い切っています」
「核種をある程度動かせるという報告もありました」
う~ん。以前、EMでガンを治すと言っている人がいたが、ここまで言ってしまったか。とくに最後の言葉は、セシウムとかストロンチウムなどを別の物質に変えられると言っているわけで、もはや錬金術にも近い。物理学の根底をひっくり返す。
ここで、これらの狂気の内容にいちいち反論しない(笑)。まさにカルトだ。ここまで信じるというか、一つの「物質・行為」の効用になんでも含ませるのか。
ただ、この手の話は数多い。そして、それぞれにある種の傾向を感じたのである。
一つは、世の中の不幸は美味しい。困っていることがあれば、「それは○○××で治してあげる」と断言して快感?を感じている。
何か一種類の「救世主的物質(ほか、行為)」を求める。いろいろ精進して、総合的に効果が出るというのではなく、「これさえあれば……」と救世主にすがる。ガンの特効薬や、北朝鮮が核兵器開発に一発逆転を狙うのと似ているか。
複雑な段取りや、手間のかかる手段を忌避して、一つですべてOKを出るのを信じる。受験にヤマを張るのと似ている……こともないか。
核となる要素に、「自然」が関わっている。EMの場合は「微生物」であるが、ケナフやヘンプ(大麻)のような「植物」だったり、森林セラピーは森林環境そのもの。マクロビオティックは食べ物だが、調理の順序にこだわる。新月伐採は……。自然の神秘そのものが、理屈抜きの超能力につなげやすいのか。
そして、これらを推進する人は、自分がハマったそのモノが、世の中の主流の考え方ではないことに喜びを感じる。私だけが知ってしまった? 優越感も含まれるのだろうか。
なぜ、こんなことをつらつら書きつらねたのかというと、最近、森林関係者の中にも、この傾向を感じることがあったからである。新月伐採だけでなく、木炭が地球を救うというのもある。
森づくりや有機農法の世界、アロマ、そしてワリバシ推進者にも、この手のカルト(療法系)にハマるケースがあったのだ。(割り箸がを使うとガンが治る、とか訴えたわけではありません。) そういえば森林ボランティアをする人に、この手の人が多い。森林ボランティアそのものでも、「森を救う」と思い上がった発言することもある。
自然を扱うと、理屈で説明できない部分がいっぱいあって、そこに神秘さを感じるのだが、それは一歩ずれるとカルトな世界に陥る可能性が高いらしい。そして科学を否定したくなる。
そういえば、今西錦司だって、生物学から生態学へと進み、さらに自然学を提唱する。ところが最後は、科学そのものを放棄するような発言をしている(笑)。まあ、これほどの大物碩学者なら、その発言も意味があるのだが、凡人がやっちゃいけません。
ま、私も、焼き畑は世界を救うという本を書こうとしたし、森林美学みたいに「美しい森林はすべてにおいて優れている」という森林の判定技術を作れないかと考えたり、生駒山は霊山だと常々発言しているが、口にするだけにしておいた(^o^)。
気をつけよう、甘い自然の神秘にカルトの世界。
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第48回 福島県におけるEMによる放射能対策の成果(中間報告)
http://dndi.jp/19-higa/higa_48.php
一番最後の行
「以上、1~5の項目すべて農林水産省に報告されることになっており、国の今後の対応に期待したい。」
に、期待してますです。
投稿: 建具屋・都築@三河湾岸です | 2011/10/04 18:00
田中さん、こんにちわ
EM除染の話は、かなり前ですが、職場でも話題になりました。「キターっ! (・O・; 」という感じでしたね。炭関係は、冗談ではなく、カルト集団が国会議員や菅さんにまで接触してます。いかにトンデモであるかを科学的にわかりやすく説明できるようにとお達しが出ました。私も半年以上前に「炭集団と接触している国会議員」の相手をさせられました
5年くらい前から、けっこう「トンデモ」にハマってます。キーワードは、EM、波動、トルマリン、自然由来、マイナスイオン・・・(頭痛がしてきた・・・(__;) )
投稿: tori | 2011/10/04 18:17
谷山歌は、すべてを浄化します。(キッパリ)
と言うのは、谷山信者にのみに
当てはまるのであって、
該当しない人のほうが世の中には
圧倒的に多い。
ということを忘れてはいかんのですよねえ。
物事すべてに当てはめてはいけないという。。。
え。あ。違う?
投稿: 熊(♀) | 2011/10/04 19:57
横レス、すいません
>物事すべてに当てはめてはいけない
>え。あ。違う?
違わないと思います
賛同者が多い、少ないだけの問題ではありませんが、「トンデモ」というか「カルト」は「何にでも当てはめる」という傾向はあるように思います。
あぁ・・・「浄化」や「解毒」もトンデモのキーワードですね・・・血液サラサラ、免疫力を向上させます、解毒作用が・・・・
投稿: tori | 2011/10/04 22:29
「学者」も、こうなったらオシマイだな、と感じさせられます。信者の一部過激派が暴走しているのではなくて、教祖が暴走している。オーム真理教に近いのかも。
しかし、この手の人物や団体は、ロビー活動も得意で、また国会議員レベルにも、信じる人が意外と多いんだよな。政治家とオカルトは相性がいいらしい。
そういえばタマネギ食べると血液サラサラになるというのも、オカルトか。。。いや、違う(^^;)\(-_-メ;)。
ちなみに生駒山の霊力なら放射能も消せますが、木炭やEMには無理です\(^o^)/。
投稿: 田中淳夫 | 2011/10/04 23:49
先日、教祖様がいらっしゃったので信者が増えたかも。
偵察に行った知り合いは、波動理論のあたりで、これは洗脳されてしまう!!と身の危険を感じ、会場から脱出したそうです。
公私共によく聞く話なので、対応に困ってますが・・・
投稿: さみや | 2011/10/04 23:54
布教のために教祖様は全国行脚……。
いきなり波動理論が飛び出しますか。使えるものなら何でもありですね。
まあ、陰謀史観と同じで、私はあなたの知らないことを知っている、というスタンスだから、何を説明しても意見を変えさせるのは無理でしょう。
投稿: 田中淳夫 | 2011/10/05 00:04
EMってまだあったんですね。メディアリテラシー、科学的リテラシーの教材、あるいは変な商法や新興宗教を始めたい人にとっても教材としてうってつけですね。大学教授の肩書き、本、講演、TV、宣伝、洗脳者の口コミ等々をいかに活用するか。
あれも当てはまるし、、これも当てはまる・・・
投稿: アツシ | 2011/10/05 12:42
EMを「開発」した比嘉照夫・元琉球大学教授については、本が出た頃から、日本肥料学会、日本微生物生態学会などから、問題視されておりました。
Effective Microbes=EM菌というのは、乳酸菌+光合成細菌という事ですが,土壌に加えても、もともと土壌中にいる微生物生態系が変化する訳ではありません。
全く、非科学的な内容で、まともな科学者や市民は相手にしませんが,困ったことになぜかEM菌の信者が多いですね(^|〜)
投稿: 高桑進 | 2011/10/05 12:54
なぜ、トンデモが流行るのか、という研究にEMはモッテコイの教材かもしれませんなあ。
素人でもおかしいと気づく内容に、多くの人が吸いよせられる理由が知りたい。
私が初めてEMを知ったのは、何十年(^^;)前か。その時は、「生ゴミを堆肥にする有効微生物」程度だったのだけど、たった1週間で堆肥になるというので、不思議に思ったのです。堆肥になるのはいいけど、いくら何でも1週間というのは……。その程度の疑問だったから、可愛いもの。
それから、どんどんパワーアップ(^^;)して、今や宇宙まで行っちゃった感がある。
投稿: 田中淳夫 | 2011/10/05 14:18
焼畑は綿密に行えば素晴らしいという話なら、佐藤洋一郎氏辺りが行えば説得力が出るような気も致します。
投稿: 小野山 | 2011/10/05 20:37
焼畑の話題は、別の項目ですが……。
佐藤洋一郎先生も、もちろん焼畑に触れていますが、基本的には遺伝子学の方ですね。焼畑研究なら、佐々木高明氏が、熱帯地方も含めてやっているし、民俗学的な研究者は多いです。
農法・林業としての焼畑なら、何といっても村尾行一氏でしょう。「緑のコンビナート理論」は、私の大林業に通じます(^o^)。
なお、山火事方面からのファイヤーエコロジー研究も重要ですね。
投稿: 田中淳夫 | 2011/10/05 22:54
そもそも「有用微生物」と勝手に選別しているところから既に詭弁。胡散臭い(というより嘘八百)にも程があります。
樹脂のエコ箸の誤解よりも悪質ですね。
投稿: あるゴルフ団体のスタッフです | 2011/10/07 13:04
そうそう、体に良いものを判別すると称する「Oリングテスト」なる怪しいものもセットでしたね。
あほかと・・・・
投稿: あるゴルフ団体のスタッフです | 2011/10/07 13:08
ゴルフ場でも、EMを使っているところはなかったっけ(笑)。
EMで育てた芝生は、冬でも青々している、病害虫にやられない、ぐらいならいいけど、そのうちホールインワンが出やすいとか言い出しそう……。
投稿: 田中淳夫 | 2011/10/07 13:58
EMかどうかは知りませんが、怪しげな話はあるようですね。
とはいえ、ホールインワンが出るとか、高麗芝が冬期に休眠しないとか、などの画期的効果は聞き及んでいません(笑)。
これから福島の林地の除染問題が本格化しそうですから、EMは福島の除染問題には絡まないで欲しいですね。
ところで、「遊山箱」はお聞きになったことがありますか?
徳島の子供たちが野遊びに使っていた伝統的な弁当箱だそうです。里山は遊山にも利用されていましたね。
投稿: あるゴルフ団体のスタッフです | 2011/10/07 14:55
ボールを当てるとホールインワンが続出する岩……があるところを、パワースポットとして祀ったゴルフコースがあるそうじゃないですか(笑)。
私は、こういう話が好きですけどね。EMより、ずっと健全。
「遊山箱」は、知りませんね。なにか素敵なイメージのわく名前。
投稿: 田中淳夫 | 2011/10/07 20:07