周回遅れの吉野林業
先の育樹際イベントで、私は吉野の育林交流集会に出席後、林業機械展に行ったことは、これまでも書いたとおり。
そこで改めて感じたこと。果たして吉野の林業家は、林業機械展に行ったのか?
いや、当然行った人は多いと思う。同じ奈良県内なのだから、距離的にも参加しやすい。ただ、機械展のどこを見たのか。本業につなげる意図はあったのか、という点である。
展示にはフォワーダが多かったが、もちろんハーベスタ、プロセッサ、フェラーバンチャ、スイングヤーダ……など多くの重機が実演していた。
おそらく、これら高性能林業機械に興味を示した吉野の人は少ないのではないか(笑)。
だって、吉野で見たことないもの。出材は、今もほとんどヘリコプターに頼っている吉野には、あまり関係のない機材が多かった。
最近は導入する林業会社も出て来たと聞くが、台数は圧倒的に少なく、おそらく商談につなげるつもりで林業機械を見た素材生産業者はほぼいないだろう。多分、実用的に訪ねたのは、チェンソーメーカーのブースくらいではないかなあ。
また、これは全参加者の話だが、森林利用学会のブースを覗いた人は何人いるだろうか。
ここには、iPadを利用した、営業ツールが紹介されていた。林地の情報をインプットして、何%の間伐をすれば経費がこれくらいで、路網はどれくらいで、何立米の材が出せるか……などを山主に見せつつ瞬時に計算する。要望に応えて、間伐率を変えたりもする。
林地の集約化をはかる際には、なかなか面白いツールではあったが、果たして興味を示した関係者は何人いるかなあ。
たまたまこのブースで出会った速水林業の速水さんは「これを欲しがるのは海外の林業家だろうな」と言っていた。
ここで育林交流集会に話をもどすが、私は林業の発展過程(邪馬台国から!)を説明しつつ、現代が機械化と安定大量供給型林業が推進されていること示した。もちろん、国の政策である。
おそらく会場の吉野の方々は、自分たちには関係ないと思った人もいたかもしれない。私も、この話で吉野林業は決定的に遅れている、周回遅れであることに気づくだろうかと思ってしゃべったのである。
が、実は吉野には、周回遅れのトップランナーになれるのではないかという期待を抱いているのだ。
全国で機械化林業が推進される中で、その問題点も指摘され始めた。質より量の素材生産、それも画一化しがちであるし、林地など環境に与える悪影響もある。そして、肝心のユーザーのニーズに十分応えているのかも疑問がある。
吉野は基本的に安定大量生産型を拒んで(落ちこぼれて、かも)、これまで通りの施業法を残している。結果的には、何百年も前から育んできた森と、ていねいに木材の質を読んで出荷する体制が残っている。
全国の林業地が画一的になれば、違いを示せるのは吉野のような優良木の生産と、年月をかけて磨き上げた技術しかない。
量は出せないけど、ピカイチの材を出せる林業地として再びトップに輝くことに期待したい。それは同時に、美しい森づくりの技術でも真価を発揮してほしい。優良木が立ち並ぶ林地は、必ず美しい森であるからである。
今の林業の進んでいるベクトルには、必ず揺れもどしがある。その際にアンチテーゼとなる林業ベクトルを保持しておけば、周回遅れから再び本当のトップに立つことも可能ではないか。
林業機械展を見学しながら、逆に機械を使わない林業について考えてしまった。しかし、機能や効率を自慢するばかりではなく、美しい森づくりに役立つ機械とか、大径木優良材を傷つけずに低コストで出すための機械というのは開発されていないのかね。
一応トラクターなのだが、前がホイールで後ろはクローラー。この時は草刈り機を設置していた。
林内作業車になるかも。
でも、何に使えるかね。小規模な出材なら行えるのかな。
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吉野の主要な林業家は、来ていた または 来ていると聞いた。
数字は知らないが、吉野ではヘリ集材もあるが、作業道を用いた出材を行っている、目指している。(ヘリ集材は高価、他者に段取りを左右される、金が地元に落ちない)
吉野での作業道は、概ね大橋式作業道であり、約2.5m幅である。(急峻だから、幅広道は山を壊すから) 林業機械展の殆どの機械は対象外となる。小型かつ低廉な機械の開発を期待したい。
森林利用学会のブースのiPadツールは、一本毎の木柄・木取りを見て見積もりする吉野方式とは ベクトルが異なるように思った。山林現況を把握しようとする「山守くん(晃洋設計測量)」が有用と思った。
川上村での育林交流集会の講演、拝聴致しました。PR不足で参加者に、林業家が少なかった。
「日本人が知っておきたい. 森林の新常識」は素晴らしい。このような啓蒙書を広げて行って頂きたい。土倉翁の伝記にも、傾注頂きたいです。 不一
投稿: マンタロウ | 2011/11/30 18:15
講演および拙著ご講読ありがとうございます。
吉野でも清光林業は、大橋式で作業道を入れていますね。でも、あまり主流になる様子はない……。
iPadも、どちらかというと、山に興味を持たない山主を口説いて間伐をさせるためのツールでしょう。
果たして吉野に向いたシステムは何なのか、当分模索は続くのでしょうけど、残された時間を考えるあまり余裕はありません。ぜひ、一踏ん張りしてほしいものです。
投稿: 田中淳夫 | 2011/11/30 22:14