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2011/12/21

四半世紀の時を越えて

うん。カッコイイ題名を付けたぜ(^o^)。

今日は、厳密には仕事ではないことで忙しかった。

というのは、昨日のことだが、寄せられた一本のメールがきっかけである。

私が1988年に出版した『チモール 知られざる虐殺の島』 を購入希望だというのだ。

この本は、私が訪問したチモール島(インドネシア領)に関して、日本軍の占領統治から解きあかし、東チモール問題に関して紹介したルポルタージュである。(東チモールは、ポルトガル領であったが、インドネシアが侵略占領していた。そして血みどろの独立運動が続いていた。1999年、インドネシアは東チモールの帰趨を住民投票に計ることを決断、その結果、21世紀最初の独立国となる。)

これまで、たまに本の注文があった。チモールを訪れるためとか、オーストラリア人の夫がチモールに赴任するなどのケースだ。ただ、今回は理由が特異である。
かつての戦争で日本軍の捕虜になった人の研究を行っているそうたが、日本政府の招聘で来日した元オーストラリア軍の兵士の話に出てきた世話になったアメリカ2世の兵士の身元を探している、そのヒントが拙著『チモール』にあるのではないか、という問い合わせなのだ。

その元兵士の名を読んですぐに思い当たった。そして拙著の中に登場していることがわかった。ここで詳しく触れるのはまだ早いが、実は日本軍の謀略工作に関わっているのである。

そんなわけで、今日は実家に眠っているチモールの資料あさりをすることになった。ところが親が勝手に資料の保管場所を変更していたため、なかなか見つからず難行する。ようやく薄汚れた紙の束を一部見つけたが、まだ数々の資料が行方不明のままだ。

残念ながら、先方が望んでいる2世に関する情報は名字がわかっただけで少なく、期待に応えられないかもしれない。

ただ日本側の資料と元兵士(89歳!)の証言とは、かなり食い違うのが面白い。
彼は、日本軍に拷問を受けてひどい扱いを受けた、というのだが、こちらの手に入れた記録(謀略に関わった人の手記や聞き取り、さらに戦史資料室の報告書など)では、我々と同じものを食べ、かなりの行動の自由を与え、仲良くやっていた、というのだから。

日本側の資料なんだから、都合の悪いことは書かないだろうと簡単には切り捨てられない。証言はかなり具体的で、数々のエピソードも交えているのだから。逆に兵士側からすると、日本の謀略に協力したとなると国家反逆罪に相当しかねない。年月とともに話せない部分は消えて、辛かった部分だけが肥大した可能性もある。

ただ、肝心の謀略は、日本軍の大成功であった。チモールの戦局の帰趨を握り、見事だまし通したのだから。これは世界の戦史上でも例の少ない見事なものだったのである。


ともあれ、持ち帰った資料に再び目を通してみることにしよう。

過去の私の取材結果が多少とも役に立つのなら有り難い。
なんたって、私がチモール島を訪れたのは1986年3月。そして帰宅後、取材を重ねたわけだから、まさに四半世紀前の出来事なのである。今となっては、得ることのできない貴重な証言や資料を手に入れることができたのは幸いである。その一部を著書の形で公表したものの、眠っている部分はたくさんある。

ルポルタージュやノンフィクションの醍醐味というのは、知られざる事実を発掘することだと思っている。そこにあこがれに近い胸のときめき、ロマンを感じる。そして、消えつつある情報を記録して、再び人々の記憶に留めることができれば嬉しい。

私が、現代社会の政治や経済、事件のルポに興味が湧かないのは、仮にそこに「知られざる事実」であっても、ロマンを感じないからだろう。怒りしかわかない告発調のものも苦手である。

その意味では、四半世紀の時を越えて、南洋の島に展開された日本軍対連合軍の謀略活動が甦るのは、ロマンたっぷりだぜ(-_^)。

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