カストリ雑誌とグレート・リセット
カストリ雑誌という言葉を知っているだろうか。
元はカストリ焼酎から来ている。カストリとは酒粕から取った焼酎の意味で、日本酒の搾りかすをもう一度発酵させて、蒸留したものだ。本来は立派な焼酎の種類の一つ。
が、戦争直後に安直な酒としてカストリ焼酎が持て囃された時代があり、そこでは酒粕どころか工業用アルコールを混ぜて作られた。ときにエチルアルコールと限らず毒性の高いメチルアルコールを混ぜて失明者を続出させるなど事件となる。いずれにしても、粗悪な酒の代名詞がカストリ焼酎である。そのため「三合でつぶれる」と言われた。
酒豪なら日本酒三合くらい飲んでも平気だが、カストリ焼酎では動けなくなったのである。
それをシャレに捉えて、3号出すとつぶれる雑誌が、カストリ雑誌である。こちらも粗悪な雑誌を意味して、創刊して3号くらいでつぶれる雑誌だ。元はカストリ焼酎と同じく、終戦直後の混乱期に次々出た雑誌を指した。内容も、主にエログロである。
ただ、今も創刊してすぐつぶれる雑誌をカストリ雑誌と呼ぶ。実は、私も以前関わっていたことがある。エログロではなく焼酎雑誌(^^;)だったが、年間契約で12冊出すことで購読料を先に支払ってもらったのに、途中でリニューアルした途端、つぶれてしまった。
なぜ3号でつぶれるのか。言い換えると、3号までは出るのか。
創刊号は、目新しさでそこそこ売れる。作る側も工夫する。しかし、企画も3号までで尽きてしまうのである。だから以降の号では勢いがなくなり売れなくなる。
実は、同じような意味で、出版業界には「リニューアルした雑誌は、直後につぶれやすい」というジンクスがある。
売れなくなったらりニューアルしようと考える。企画やデザインを練り直し、必死のてこ入れをする。にもかかわらず、リニューアルをきっかけに廃刊になることが多い。あのままの誌面だったら、まだしばらく続いたのに……。
リニューアルは難しい。誌面を変えたら固定読者が離れてしまう。にも関わらず新しい読者が増える保証はない。
同時に、リニューアルすることに残った力を出し尽くて、その後の持続力を失ってしまう面もある。改革とは、持続しないと逆効果なのだ。そのため相当の余力があり、改革誌面が根付くまで支える覚悟がいる。
……そんなことをつらつら書くのは、最近「グレート・リセット」という言葉が流行り出したからだ。とくに橋下徹氏が大阪市長に就任した際に、この言葉を口にしたことでも注目された。
本来は書名である。
「グレート・リセット 新しい経済と社会は大不況から始まる」(リチャード・フロリダ著)
実は、私はこの本を全部読んでいない(^^;)。つらつら前書きなどの拾い読みしただけだ。
内容は(おそらく)サブタイトルどおり、不況混乱期にこそ、大改革が行えると古今の例も元に示している(らしい)。ただ、基本的にこのリセットは、政府などトップが主導するものではなく、ボトムの組織から動き出すものとしている(ようだ)。
本来、改革とは不断に続くものであり、沈滞から一気に行うのは破壊的で危険である。雑誌なら読者が、政策なら市民がついてこなくなる。結果、表向きの改革になり、形骸化するからだ。
それだけに、トップがグレート・リセットを唱えて、ボトムの動きを尊重せずに大改革を主導しようとしたら、改革疲れ、リニューアル疲れが出てしまいそうだ。現場が納得しないため、破綻するのである。そして副作用・反作用が発生して、リセットはリセットでも最悪のリセットになりかねない。
現在あちこちで叫ばれている改革の動きが、カストリ政策(3年でつぶれる)になりませんように。
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コメント
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あけましておめでとうございます。
相変わらず本題とは離れた書き込みなんですが・・・。
私、その「カストリ雑誌」の創刊号に載ったことがあるかもしれません。
27年前に創刊された郵便局の雑誌の、
赤ちゃんを紹介するコーナーに載ったんです。
23日うまれで(ふみの日)、
名前もふみなので、
郵便局的には最高の赤ちゃんだったはずなのですが、
うわさによると創刊号で廃刊になったらしく・・・。
カストリ雑誌でさえもなかったんですね・・・・。
投稿: みー | 2012/01/11 12:59
創刊号で終わったんなら、雑誌とも呼べませんね(^^;)。
何かの別冊か、冊子と呼ぶべきか。
でも、貴重な記録ではありませんか。ぜひ、その「雑誌未満」を探し出してください。
みーさん(みーふーさん?)、ふみさん、27回目の誕生日を迎えるのですから、カストリどころか熟成したウイスキーです(謎)。
投稿: 田中淳夫 | 2012/01/11 22:59
あ。ほんとうだ。
「みー」になっちゃってますね。
「ムー○ン」の某登場キャラみたいですね。
記事は、母が切り取って色紙に貼っています。
ほかの部分はもう燃やされて、地球に還っていったかと・・。
でも確かに気になりますねー。
雑誌の名前は忘れましたが、
捜索してみます。
投稿: みーふー | 2012/01/14 12:18